46.静蓮とスマイルス/恋文
46.静蓮とスマイルス/恋文
静蓮は翌日も淳からの電話を待っていた。
鳴っても父の仕事相手だった。
仕方がないので美濃の青田薬局へ行った。
(休み。どうしたんだろう……)
脳裏に二人が泣きながら抱きあうのが甦った。
(何があったんだろう……)
緑朗にいうのがベストだったが、店で多用だった。それに、父に知られたくはなかった。
静蓮は美濃の家を知らない。
帰り道、カフェ〔バー・スマイルス〕が営業していた。
(そうだ! お金を返さなきゃあ)
ポケットから匂い袋を出した。前に電話代に借りた残りだった。
「いらっしゃい……小蓮?」
スマイルズがバドワイザーの小瓶を口にしていた。まだ夜には早い時間だった。
「どうした?」
「スマイルスさん、これ」
匂い袋を渡した。
「イイ匂いだな。何? くれるの?」
ハーブの薫りが紫煙の香りを包んだ。
「このあいだの残りなの……」
「ああ……どうだった? 幸せは見つかったかい?」
もう酔っているようだ。匂い袋をカウンターの横に置いた。
「お願いがあるの」
「三つまでならイイよ」
とぼけたスマイルスだが、目が据わっていた。酔っている。
「淳さんに会いたいの。会って……」
「会って?」
「……謝りたいの」
うまく言葉が見つからなかった。
「それだけ?」
スマイルスが小瓶を開けた。オレンジの炭酸だった。十オンスではなく、小さめの八オンスのタンブラーに注いで渡した。
女の子にウィルキンソンのジンジャエールを呑ませるようなことはしない。案外レディーには優しい髭男だった。
それでも、飲んだ静蓮がむせた。
「けほけほ」
「大丈夫か?」
「だ……大丈夫です……けふ」
炭酸が苦手らしい。
恥ずかしそうな静蓮と二人して笑うスマイルスだった。
話を聞いたスマイルスが言った。
「じゃあ手紙はどうだい? ラヴレター――恋文さ」
「住所を知らないもの……」
「ちょっと待ってよおっと……」
カウンターの下から箒の柄が二本覗いている。さっと直すスマイルス。
「おーあったあった」
名刺だった。「鮎川建設株式会社代表取締役社長鮎川忠」とある。スマイルスが軽く拭いて静蓮に渡した。少し染みがあった。カウンターにこぼした酒だろう。
「あげるよ」
スマイルスが見せた裏面には、自宅の住所が書かれていた。
「いいんですか?」
「覚えているからな」
側頭をコンコンするスマイルス。
「ありがとうございます」
*
大切に手に握りしめながら家に帰った静蓮が淡い色和紙に恋心を綴った。蝶の切手を貼ってすぐに投函した。明日か明後日には届くだろう。
静蓮は、色和紙の蝶と切手の蝶がそれぞれ舞いながらそっと淳に止まる夢を見た。
静蓮は幸せだった。




