引きこもり虫と修学旅行2
作戦その一は失敗に終わった。
沈黙に耐えられなくなった健人くんが隣に――っていうか通路を分けた先にいる女子と会話してしまったからだ。
「めんどくさい! メンタル豆腐かあのチャラ男は」
「月海。聞こえるよ」
飛行機を降りた私達は早速班行動……とは行かずまずは沖縄戦争についてを聞くことが一日目の予定だった。
ここで作戦その二 気持ちを共感しよう!
何これ作戦じゃないじゃん。ただの成り行き任せじゃん。
「奥田さんは涙脆いと聞くわ。沖縄の人達には申し訳ないけどそういう資料館へ行けば奥田さんは涙し、健人くんがそれを優しく守る。超いい発想じゃない?」
「地元の方には多大な迷惑だけどね」
「すみません!」
でもこうでもしないとあの二人くっつかないよね。
申し訳ございません。
全く自分の気持ちを正直に話さないとかほんとチキンじゃないの?
話を聞き終わり資料館も見たけれど結果は散々だった。
「わ、私、同情を軽々しく向けちゃいけないと思ったんです。だから泣きません! 泣くよりすべきことをします!」
「あ、ああうん。いい心構えだね?」
変なフラグを作るな!
その綺麗な心が今はうざったくて仕方ないわ。
というわけで早速緊急会議。
「どうすんのこれ。一日目でこんだけ進展ないとは思わなかったわよ」
「いっそのこと健人くんに告白しろって言っちゃえばいいと思うんだけど……」
「言った。そしたら『あいつとは幼馴染みでいたいんだ。壊れるのが怖いからあいつが俺のこと好きになるまで待つ』と」
「あぁぁ!! ぶっ殺してえ!!」
「落ち着いて月海」
でもこれを言ったら十中八九――いや私達は抜くから十中五六?――とにかく全員リア充滅びろ状態になるだろうな。
だって皆独身だし。
「肝試しとかもあるそうだからまだチャンスはあるよ。修学旅行で実らせなくてもきっかけさえ作れればいいんだから」
「風柳……それは私が役立たずと言いたいのか?」
「え? いや違……」
出た月海の思い込み。バスの中でようやる……ちょ、月海やるなら私巻き込まないで窓に押し付けられるから!
某ホテル到着。
帰ってきたのは――お邪魔したのは?――午後四時頃なので皆ヘトヘトだ。
三人部屋なのでここは流石に男女バラバラ。
そしてここでも作戦その三 恋バナでくっつけよう!
私は寝ても……ダメですね。お風呂上がりでもう後点呼取るだけだしいいじゃん。
「奥田さんは好きな人いないの?」
「え!?」
最初から超剛速球だな。
まあ恋バナっつってんだけどさ。
それにしたって月海は話の切り替えしが上手ですね。
「い、いえあの……お、お二人は?」
「私はいない。でも凛音はいるよ」
「え!?」
「何か?」
「い、いえ滅相もございません」
こんな死神に好きな人なんかいるはずないと?
お前もそう思ってるのか陰キャ仲間よ。
好きかどうかはわからないが一線を越えることを許せる男性はいるぞ。
「もうエッチもしちゃったもんねぇ」
「エ……っ! い、痛かったですか?」
「ちょっとね。てか何で私の話になってんの?」
「いいじゃん面白いし。ほら続き」
おい月海お前趣旨忘れてるだろ。
「別に普通」
「普通を説明してよ。それか実践で教えてもらうか」
「は?」
「奥山さんも気になるでしょ! 死神と呼ばれている凛音が乱れる姿を」
「は、はい!」
急に何言いだすの月海。
そしてなんで了承してんの奥山さん。
その胸を揉むような手つきは何。なんでにじり寄ってるの?
「一回じっくり聞いてみたかったのよ。覚悟しなさい凛音」
「ご、ごめんなさい根尾さん。私も後学のために」
「いや、主旨が違う。そんな恋バナを高校生がしちゃ駄目で」
「問答無用!」
わああああああ。
散々体を弄ばれた翌日。
なんで学校行事であんなことしたんだ私。
いやちょっと待て。
これはどう見ても月海のせいだろう。
後で仕返ししてやる。三倍返しにして。
あれ、それってホワイトデーじゃ? まあいいや。
それより修学旅行の朝ってなんでこう起床時間が早いのかね。
五時に点呼とか鬼畜か。
何でも超有名水族館は人気で生徒全員が入るには時間をずらさなきゃいけないそう。
水族館なんていいから読書させてくれ。
久しぶりに言ったなぁこの言葉。
そしてここで作戦その四 海の仲間に協力してもらう!
月海、もう人任せ――いや、魚任せじゃん。
でも確かにここはデートスポットとか言われてるしくっつけるにはいい場所かもね。
いい具合に薄暗くてムード溢れてるし。
水族館に到着。
ホテルから遠い! バスで一時間ってなんなの!?
ついでにその駐車場から水族館の入口までで三十分歩くことに。
ねえ、もう私帰っていい? 朝食とかも入れてるから普通にもう十時ですよ? 三時間半も私いらないと思うんだよね。
高校生の女子って怖いよ。
私もそうだけど。
「ジンベイザメだよ凛音! おっきーね」
「サメって美味しいのかな」
「ちょっと黙ってようか大食漢」
水族館の生き物食ったら犯罪だから。
いや犯罪よりもまず食う前に食われるだろ。
いや、風柳なら食欲だけでサメに勝てるかもしれない。
それにしても本当に大きいな。
あ、なんかくっついてる。コバンザメだっけ。
いいムードではあるんだろうけど水族館のネオンというか青白い光が私は苦手だ。
しかも歩き続けてるから足が痛い。私は申し訳程度にあるベンチに座って休憩してよう。
「なら健人くん達見張ってて」
「わかった」
人混みがすごいけどその内の大半はクラスメイト――らしい。
健人くんがクラスメイトに話しかけようとすると疾風の如くそこから離れる。
バレバレなんだよ恋心が。
「何なんだよあいつら、話しかけようとしたら逃げやがって」
「そ、そうだね。皆どうしたんだろう」
どうしたもこうしたもあんたらが進展しないからだよ。
段々呆れ通り越して怒りが湧いてくるぞお前らの焦れったさ。
昨日私がやめてって言っても胸を揺さぶってきた強引かつ強気な奴はどこ行った。
「……」
「……」
会話を途切らすな!
こんな簡単に連続で作戦失敗させちゃ駄目だろ。
つか告れ峯岸健人ぉ!!
「わ、私……根尾さんの所に行ってますね!」
ん? 今“根尾”って言われた?
いや気のせいかな。気のせいだろこっちに来んな奥山ぁ!
不本意だが仕方あるまい。
「根尾さ……」
「ねえ私一人になりたいんだけど。ハッキリ言って迷惑。戻って」
こうなったら作戦5!
わざと辛辣な言葉で距離を引き離す。
よし。無表情だから効果もアップだ。無表情だと怒ってるようにも見えるしね。
「ご、ごめんなさい。わ、私……あの」
あ、やべ泣き出しそう。
ほれ健人くん。
私が敵になってやってんだから守れ。
「根尾っちごめん。こいつ見ててやってくれないっすか? すぐ戻るから」
はあ? この豆腐チキンが!
何か美味しそうな名前だな。って行くな!
奥山さんを置いていくな!
「ちっ」
「すみませんすみませんすぐ退散しますぅ」
「……奥山さん」
「はひ!?」
「あいつのどこが好きなの」
「え」
なんだそのどうして知ってるの的な顔は。
「聞いてんだから答えてよ」
今の私は怒りに塗れてるからきつい口調で行くぞ。
これくらいで泣きそうになるな。泣きたいのはこっちだよ。
空気読めとかそういう視線向けられてんだよこっちは!
私だって好きでこんなことしてるんじゃないんだよ!
「その……峯岸くんはいじめられてる私を助けてくれたし友達も紹介してくれて独りにしないでくれて」
「それってただのおせっかいじゃないの?」
「え!?」
小説とかである一目惚れとか不良から助けてもらっただと思ったらそれ幼馴染みだから仕方なくの方が当たってない?
まごまごして話せないようだし少しいじめてみるか。
いでよ! 小悪魔凛音!
「……これは皆には秘密だよ。月海がね、健人くんのこと好きだって」
「えええ!?」
「誰にも言ってないんだからね。静かにしてて」
「あ、う……だって昨日そんな素振り一度も見せてなかったですよ?」
そりゃあ恋愛感情なんて一欠片もありませんもの。
昨日の仕返しじゃ。ついでに月海も巻き込んでやる。
事後はしらん。
「あなたが健人くんを好きって知って譲ってんのよ。それなのにうじうじしてるもんだから」
「わ、私よりきっと御子柴さんの方がお似合いなのに」
月海にはそういう気持ちないけどね。
「私の気持ちが彼女を押しつけてたなんて」
押しつけてないけどね。
「私謝らないと。ああでも謝って済む問題じゃ」
謝らんでいいぞ?
「根尾さんどうしましょう」
「告れ」
「え?」
男からってのもあるけど今時肉食系女子と言われるものがあるらしいし。
ギャップもまたよし。
「月海は涙を飲んであなたに譲ったのよ。自分の気持ちを打ち明けなきゃ失礼にあたると思う」
「失礼……」
「そう。だから告白も」
「わかりました。なら根尾さん、協力して欲しいことがあります」
「はい?」
あら?
これでやっと読書できると思ったのに。
この時の私はまさかあんなことになろうとは思ってもみなかった。




