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引きこもり虫と修学旅行1

 神宮寺さん改め透さんと一線を越えてから早数日、十一月も中盤に差し掛かり寒さが増してきたこの頃。

 書庫には暖房がないので毛布を持って読んでるとよく本で紙を切ってついでにあかぎれも出てくる。

 それを言うと「もう書庫行くな」と咎められるから誤魔化してる。

 そしで今日は文化祭に次ぐめんどくさいイベント。修学旅行。

 今回は六人班だそう。四人は決まってるけどね。


「均等にしたいし後男女一人ずつ欲しいね」

「じゃあさ」


 佐藤くんが一旦離れる。

 と、思ったら何か連れてきた。

 いや誰かの方が当たってるな。男女二人。


「この二人でもいいか?」

「別にいいけど……えーっと」


 誰?


「お前せめてクラスメイトの名前は覚えとけよ」

「流石凛音っち、もう半年は過ごしてるのに未だ名前覚えられてないっすか」


 凛音っち?


「月海っちと風柳っちも俺のこと知らないっぽいすね。こっちの眼鏡は仕方ないにしても」

「月海っち?」

「風柳っち?」


 二人も不思議そうにチャラそうな男を見る。

 その隅で縮こまってる女の子はどうしたらいいの?

 すごく申し訳なさそうなんだけど。


「ああえっと……このチャラいのは峯岸(みねぎし)(けん)()。誰彼構わず人の名前には『っち』を付けるんだ」

「よろしくっす! 健人でいいっすよ」


 苦手なタイプと私の脳は判断した。

 チャラ男は顔性格問わず嫌いだ。

 苦手なレベルじゃなくて嫌い。

 何故ならすぐ読書を邪魔するから。


「それとこっちは(おく)(やま)愛花(まなか)。生物学が一番得意だそうだ。引っ込み思案なところがある」

「ご、ご迷惑をおかけしないように頑張ります……」


 何を頑張ってんだ。

 でもまたどうしてこの二人を。

 正反対じゃん。


「実はな」


 佐藤君は私達を近づけて二人には聞こえないようにする。


「あいつら両片想いなんだよ」

「両片想い? なにそれ」


 月海が眉根を寄せる。

 私も思った。

 両想いなの? 片想いなの?


「二人は両想いだってのに本人達は知らない。あんだけ見せつけられたら誰でもわかるはずなのによ」


 観察してみよう。

 誰でもなら私にだってわかるんだろうな。


「ご、ごめんね健人くん。私が同じ班じゃ迷惑だよね」

「い、いや? そうでもないぞ。ま、まあお前には友達いねえし仕方ないよな……うん」

「リア充め」


 こっち見んな。

 今私は関係ないだろ。


「確かにあれで自覚なしはびっくりだね。じゃあ修学旅行で成就させようと?」

「端的に言えば」


 月海の目が意地悪そうに光った。


「それならやってみましょうか。おもちゃが増えるし」


 おい最後のなんだ。

 私はあんたのおもちゃになった覚えもないしなる気もない。

 そういえば私達は沖縄に行きます。

 十一月でも暖かいらしいから安心。流石に海には入れないけどね。




 その日の夜。

 月海と――半ば強制的だけど――私は修学旅行の準備を始めていた。

 いくら班行動はほとんどないと言えど普通一週間前にどこ行くとか説明するのは遅いと思うんだけど。


「奥田さんと健人くんって幼馴染みらしいよ」

「ふーん」

「幼稚園の頃からあの性格で何でこの二人はくっつかないんだって小学生の頃から言われてるらしい」


 そんな前から恋心があったのね。

 その二人私より鈍感なんじゃないの?

 華ちゃん? 華ちゃんはそもそも教えてないし。

 とりあえず飛行機の中とか部屋とかで読む本を選んでおこう。

 あ、後は。


「ちょっと電話してくる」

「愛しの彼に?」

「黙れ」


 廊下に出て透さんに着信する。

 部屋からは離れる。

 月海が確実に聞き耳を立てているに違いない。


『もしもし?』

「こんばんは凛音です。お仕事はどうですか?」

『結構はかどってるよ。で、用件は?』

「来週から三泊四日で沖縄に行ってきます。それで日曜に本を借りたいんですけど」

『沖縄か。僕も何回か行ってるけどいいところだよ。それじゃあ読みやすい本を用意しとくよ』

「お願いします。それではおやすみなさい」


 通話ボタンを切る。修学旅行は来週の月曜からです。


「本を借りるついでにまた()になってきちゃえば?」

「準備」

「はあい」


 着替えや洗顔道具をバッグに詰め込んでから眠りについた。




 腰が痛い。

 結局日曜も昼間っからあの外草食男子中肉食男子は容赦がなかった。

 お陰で少し寝不足だ。

 でも本は何冊も借りれた。

 単行本らしいので一冊がそんなでかくもないし三冊持っていくことに。

 やった、レアものばっか。


「班長。点呼をしたら飛行機に乗れ」

「全員いるな。じゃあ行ってくる」


 うちの班長は佐藤君。まあそうだよね。

 他は引きこもり、腹黒い双子、チャラい、引っ込み思案でまともなのがいないもの。

 こう振り返ると佐藤君って本当に常識人だったんだね。

 初対面の頃睨んでくる失礼な奴とか思ってごめん。

 月海はメモ帳を開いている。

 あそこには二人をくっつける作戦的なものが書いてあるんだって。


 作戦その1 飛行機の座席で隣にしよう!


「じゃあ私と凛音、風柳と佐藤、健人くんと奥田さんでいい?」

「え!?」

「何健人くん? 奥田さんとは嫌?」

「い、いやってわけじゃないけどさ。そ、そのなんというか……えっとだから」


 めんどくさい。

 透さんがこんな性格じゃなくて良かった。

 あの人は童貞でピュアなだけでヘタレじゃない。


「奥田さんは嫌?」

「い、いえ! 嫌じゃない……です」


 健人くんが喜びを隠せない目で奥田さんを見る。

 奥田さんは気づいてないけどね。

 健人くんも隠してる素振り見せてるけど。


「「……めんどくさい」」

「二人とも心の叫びが出てるよ」

「悪いな。耐えてくれ」


 飛行機が離陸体制に入る。月海はこう見えて高所恐怖症である。


「うぅ、落ちたらどうしよう」

「落ちないよ。落ちたとしてもちゃんと対処法はあるし」


 悪い方向に考えるから症状が出るんだよ。

 もっとポジティブに考えないと……ってこれ私のセリフじゃないよね。

 こうして私達は京都から沖縄へ旅立っていったのだった。

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