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引きこもり虫と小説家のあれこれ

 面倒な文化祭も終わり、日に日に肌寒くなる十月半ば。

 私は意を決して神宮寺さんに爆弾を投下してみた。


「神宮寺さん。今日泊めてください」


 神宮寺さんが湯飲みを傾けながら固まった。

 すごい、よくその角度でお茶が零れないね。

 たっぷり十秒はそのまま固まってから神宮寺さんの顔がタコかってくらい真っ赤になった。


「り、凛音さん。それ、意味わかって言ってます?」


 神宮寺さんが絞り出すように口にした問いに私は何の躊躇いもなく頷く。


「私これでも一応思春期中の女子高生なので。婚約者の男性と夜を過ごすことがどういう意味かくらいはわかってますよ」


 表情筋が死んでるからって馬鹿にしてもらっちゃ困ります。

 だけど神宮寺さんは何やら微妙な表情だ。


「どうしました」

「どうしましたじゃないよ。いつものことだけど君はどうしてそう突拍子もなく危ない発現をするんだ。今日泊まりたい理由は?」

「そろそろお見合いから半年が経ちます。今までは読書仲間としてやってきましたが、家族にも紹介し、学校行事にも来てくださり、更にキスもしています。流石にこれでまだ友達と言うには流石に神宮寺さんの年齢では白い目で見られてもおかしくありません」


 私の持論に神宮寺さんがうっと言葉を詰まらせる。

 でも反論はできまい。

 だって神宮寺さんはもう一企業を任されている経営者。

 かたや私はまだ青い春を満喫すべき高校生。

 冷静に考えて「キスはするけどあくまでまだ友達だよ」の路線はそろそろどちらから見ても痛い。


「もちろん神宮寺さんの苦手意識を考えたうえで話しています。ただここでけじめはつけなければなりません。するならする、しないならこれ以上関係を深めずに別れる。これ以上ずるずる引き延ばせば双方共に傷つく可能性が高くなります」


 過去一で私は神宮寺さんと話している。

 でもこれは大切なことだ。

 確かに恋愛に興味がない私とそもそも女性が苦手で迫られると発作のようなものが出てしまう神宮寺さんの間からすればこんな話は何年も先延ばしにされたであろう。

 ただ文化祭でもあったようにもう私と神宮寺さんはほぼ付き合ってると言っても過言ではないほど同じ時間を過ごしている。

 友達と婚約者の境をはっきりさせるために一線を越えるというのも中々荒療治ではあるけども。

 私が冗談でも自棄でもなく真剣に話していることが神宮寺さんにもわかったらしい。

 先程まで動揺していた表情を真剣に切り替えた。


「まあそうだね。僕も薄々感じてはいたよ。そろそろだって」

「ふっかけといてなんですが私はどちらでもいいです」

「興味がないから?」

「流石にこのことについてそう言ったら失礼すぎるでしょう。ちゃんと考えました。そのうえでやっぱりどっちでも良かったんです」


 別に処女に固執しているわけではなし。かと言って結婚願望もない。

 言い方を変えれば神宮寺さんとの繫がりになった契約を破棄したようなものだから別れても仕方ないとは思っている。

 神宮寺さんはしばらく考えた後、私と目を合わせた。


「いや、いい機会だ。凛音さん、泊まって」

「いいんですか。今更ですけど直前に萎えられたら流石に傷つきますよ」

「そんなことしないよ絶対。半年間の経験から言える」

「は?」

「いやなんでもない」


 後半は何を言っているかわからなかったが追求する前に神宮寺さんがどこかへ行こうと立つ。


「どこ行くんですか」

「色々準備するんだよ。凛音さんはちゃんと家族に言うんだよ」


 神宮寺さんに言われたことで思い出した。

 今日泊まろうとしてたこと言うの忘れたわ。

 まこちゃんならあまり荒ぶらずに応答してくれるだろうな。


「もしもしまこちゃん」

『音が電話なんて珍しい。どうしたの? 誘拐? 監禁?』

「なんて物騒な。今日お泊まりするからよろしく」

『……』


 あれ、返事がない。電波でも途切れたかな。


「もしもーし」

『あ、ああお泊まり? 神宮寺さんと? ああうんそうかそうか。音がお泊まりね。うんうん』

「落ち着いてまこちゃん。間違っても六条家に言わないでね、神宮寺さんが殺されるから」

『う、うん。でもなんでそんな落ち着いてるの?』

「私にそれを聞くか。じゃあね」


 これ以上話すのも面倒だったのでまこちゃんが戸惑っているのもお構いなしに通話を切った。

 ごめんよまこちゃん。音は今日女になってきます。

 あ、もちろん華ちゃんにも言っちゃ駄目だよ。

 そして大きなお風呂に入らせてもらえ、美味しいご飯ももらい、つやつやになった私は機嫌よく神宮寺さんの部屋へ。


「お布団が一枚しかない」

「松崎あいつ……っ」


 神宮寺さんが珍しく軽く声を荒げた。

 恥ずかしさから来るものだということが顔の赤さからよくわかる。

 可愛いなこの成人男性。ちょっとふっかけてみるか。


「透さん」

「っ!?」

「いや名前呼んだだけでタコにならないでください。今からやることやるんですから」

「君本当に肝が据わってるね」

「伊達に死神と呼ばれてません」


 神宮寺さんがその場で私に軽くキスをする。


「凛音、大事にするからね」

「はい、よろしくお願いします。透さん」




 二時間後。


「絶倫!」

「誉め言葉と捉えておくね」


 久しぶりに叫んだわ。

 でも叫ばずにはいられなかった。

 初めての夜で処女の娘に一箱使うってちょっと酷すぎませんか。


「もうお嫁に行けない」

「僕の所においで」

「捨てたら許しませんからね」

「大丈夫。大好きだよ凛音」


 一線を越えたじん──透さんはこちらが恥ずかしくなるほど甘々の彼氏になりました。

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