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パトレシア・マルカケド植物研究所

 パトレシア・マルカケド植物研究所の一室にて


「パティ、何してるの?」

 金髪の青年は作業台に頬杖をつき、榛色の髪をした女性を見ていた。

「切り花を長く持たせる水を研究しているの」

 パティと呼ばれた女性は、貰ったばかりのブーケをバラバラにしてビーカーに一輪ずつ挿していく。

「そんなことのために持ってきたんじゃないんだけどなー」

 金髪の青年は唇を尖らせて抗議の声をあげている。

「オルガ様はどう?」

 パティの問いに金髪の青年は首を傾げる。

「うーん、避けてる。あからさまに」

 パティは最後の一輪を挿し、ノートに時間と温度を書き込んでいく。

「無駄な抵抗」

「そうだよ。とっとと捕まって欲しい」

 金髪の青年はふうと息を吐いた。

「今回は結婚も子供もいないからいいのに」

 パティはフフフと笑った。

「けど、いいんじゃない。ゆっくりでも」

「えー、僕が困るよー。パティと一緒になれるのが遅くなる」

 パティは嬉しそうに笑った。

「オルガ様はゆっくりだから」

「まあね、前も大遅刻したから兄上が婚姻して子供がいたんだから」

 金髪の青年は呆れたように息を吐く。

「あら、デリク様は王になろうと頑張ってくれたのよ」

「確かに、ね。僕たちのために頑張ってくれたことだから、文句言えないんだけど」

 バタバタと慌ただしく走る音が近づいてくる。

「パティ、ちょっと隠れさせて」

 バンと開いた扉から姿を現したのは顔を真っ赤にした女性。

「姉さん、無理だよ」

 金髪の青年が首を横に振っている。

「えっ? デュークにいないと言ってくれたらいいから」

 部屋に入ろうとする女性の肩にすっと手がかかる。

「マルド、オルガを連れていってよいか?」

 すぐ側で聞こえてきた声に女性-オルガはビクッと体を揺らした。

「デューク、今日こそはよい返事をもらってね」

 デュークと呼ばれた鳶色の髪の青年は悩ましげに息を吐く。

「それはお前の姉に言ってくれ」

 デュークはオルガの腰に腕を回し引き寄せている。

「姉さん、今夜は帰ってこなくていいから」

 デュークの腕の中で固まっているオルガに金髪の青年-マルドは手を振ってニッコリと笑った。

「マ、マルド、それどういう意味?」

「気遣い感謝する」 

 閉じられた扉の向こうでちょっと騒ぐ声がしてすぐに静かになった。

「パティ、泊まりに行っていい?」

 騒がしかったとマルドは息を吐く。パティの側に立つとその細い腰を当然のように抱き寄せる。

「あら、私が泊まりに行くのではなくて?」

 パティは不思議そうに首を傾げた。

「オルガが逃げ出したら、″うち″で続きになるでしょ」

 そうね、邪魔したら悪いわねとパティが笑う。

 マルドがパティの顎を掬い上げ、軽く唇を重ねた。



「マルカケド殿下」

「…宰相、どうした?」

 憔悴した顔の青年はそれでも鋭い光が籠った目をしていた。

「お詫びに参りました」

 宰相はすっと深く頭を下げた。

 青年は何を今さらと頭を振っている。彼の大切な人は処刑(ころ)されてしまった。

「娘とデリク殿下の婚姻を了承するのが早すぎました」

 青年は怪訝そうに眉を寄せる。宰相が言っている意味が分からない。

「渡り人は『実りの聖女』です。パトレシア様と対になる」

 もう会えない愛しい人の名前を出され、青年は激昂した。

「彼女は偽者だ!」

「そうです。パトレシア様たちのお力で『実りの聖女』になる偽者です」

 青年は意味が分からないと頭を振っている。

「パトレシア様の成果が他国に知られたら狙われたことでしょう。それが渡り人の成果としたのなら?」

 宰相の言葉に青年の目が見開かれる。

「渡り人には、他国の者は手を出しません。パトレシア様(けんきゅう)を守るために『実りの聖女』となるべき方だったのです」

「それが何故兄上の婚姻が?」

 何故、そういうことになるのかが分からない。

「デリク殿下と渡り人は惹かれ合っておられます。お互い気付いておられませんが」

「だが、兄上は義姉上(あねうえ)を大切にされて」

 何かと青年の兄が妻になった人を気にかけているのを知っていた。

「大変有難いことに」

 宰相もそれが分かっていた。だから辛い。あくまで政略結婚の相手として大切にされている。

「もし、娘がデリク殿下と婚約者のままでしたら、婚約解消となりましたが全て上手くいきましたでしょう」

 申し訳ありません。と宰相は再び頭を下げる。

「あくまで貴殿の推論だ。それにパトレシアはもういない」

 

 マルドが目を覚ますと月明かりが部屋に入り込んでいた。

「懐かしい夢を見たなー」

 渡り人と婚姻してから、宰相が言っていた通りだと感じた。

 渡り人は自分に誰かを重ねている。自分も優しい渡り人に愛しい人を重ねていたが。

 パトレシアの対であるから、渡り人の死も免れなかった。どう抗っても救いの道は見つからなかった。

「宰相は自分が早まったと言っていたけど、カオルも遅刻しすぎだとやっぱり思うよ」

 マルドは隣で眠る愛しい者に視線を向ける。

「僕たちだけが記憶を持って生まれてきたのは何故かな?」

 宰相の娘はパトレシアの長兄の生まれ変りと上手くいっている。宰相は相変わらず国の中央で頑張っている。

 最初から狂っていたのか狂ってしまったのか父であった国王は旅芸人として色んな国を巡っている。


 今度こそみんな幸せに。

前世持ちはマルドだけのはずでした。

パティもやり残したことが多すぎて前世持ちになりました。

あの研究とか、この研究とか、その研究とか、色々ありすぎて。

障害がなくてもカオルは人の恋路を応援するのが好きで自分に関しては奥手です。


最後までお読みいただきありがとうございますm(__)m

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