トールたちへのお土産
『スキルツリーの解錠者』のコミックが重版しました。
ありがとうございます。
「……ぜえ、はあ……相変わらず無駄にクソ硬い壁を展開しやがって……」
「いつか、その壁……突破してやる」
俺の展開したシールドをひとしきり殴打すると、トールとアスモは体力が尽きたのか肩で息をしながら元の席に戻った。
どうやら俺の魔力量は世界でも屈指の量らしいので、俺のシールドを突破するということは世界レベルの物理攻撃が要求されることになるけど、俺は可能性というものを信じているので気長に待っているとしよう。
そんな風にひとしきりトールやアスモとじゃれ合っていると、廊下の奥からエマお姉さまがやってきた。
先ほどは白いモコモコの寝間着を纏っていたが、今は厚手のキルトルのような衣服を着ている。青色の髪が新緑色のキルトルに映えていて綺麗だ。
「こちらよかったらお茶請けにどうぞ」
「わあ! お気遣いありがとうございます、エマさん!」
スッと差し出されたお皿には、干しリンゴと蜂蜜菓子のようなものが置かれていた。
ちょうど少し口が寂しいと思っていたところだったので助かる。
「いえいえ、気の利かない弟でごめんなさい」
「気が利かなくて悪かったな」
エマお姉さまがポンポンと頭を叩き、トールは若干イラついたように言う。
姉であるエマお姉さまはこんなにも気遣いのできる素敵な人なのに、どうしてトールはこんな感じなのだろう? やっぱり、性別が違うと姉弟とはいえ、性格が大きく変わるものだろうか? 不思議だな。
「そういえば、アルフリート様は王都に行っていらっしたんですよね? 今回はどんな用事だったのですか?」
まじまじと二人を見比べていると、エマお姉さまが話題を振ってくれた。
「あー……収穫祭の時に遊びにきてくれたミスフィード家のご令嬢の屋敷に遊びに行っていました」
公爵家の娘を孕ませたなどという酷い誤解を解くために王都まで向かいましたなんて言えるはずもないし、言いたくもない。
先日の些細な行き違い事件は、ミスフィード家とスロウレット家の結んだ協定により、闇に葬り去ることで合意されたからね。
「ご令嬢っていうと、アレイシア様か?」
「アレイシアにも会ったけど、主に滞在して遊ばせてもらったのはラーちゃんだよ」
「へー、あの子の屋敷に遊びに行かせてもらったのか! いいなぁ!」
トールとアスモがラーちゃんと遊んだのは収穫祭の中でもほんの短い間だったけど、公爵家のご令嬢ということもあって印象に残っているみたいだ。
「やっぱり、公爵家の屋敷ともなると、とんでもなく広いの?」
「すごく広いよ」
スロウレット家の三倍以上の大きさがあることや、王都の一等地に広大な敷地を持っており、玄関にたどり着くのに馬車で移動しなければならないことなどを話すと、アスモたちはとても驚いていた。
エマお姉さまはラーちゃんと面識がないのでよくわかってなさそうだったが、俺が語る公爵家の生活を楽しそうに聞いてくれた。
見ず知らずの他人の生活でも新鮮味を感じて、愛想良く聞いてくれるなんてええ子や。
ちなみにエリノラ姉さんは興味のない話は秒で切る。
「そうそう、王都といえば今回もお土産を持ってきたよ」
「よっしゃ! さすがアルだぜ!」
「持つべきは貴族の友達」
「……君たち現金だね」
トランクケースをテーブルの上に置くと、トール、アスモが目をキラキラと輝かせる。
刺激の少ない田舎にとって王都からの土産品は大きな娯楽だ。年頃であるトールとアスモがわくわくするのも当然と言えるだろう。
「あ、もちろん、エマさんの分もありますからね」
「え! 本当ですか!? ありがとうございます!」
念のためそう伝えると、エマお姉さまが花のような笑みを浮かべた。
当然だ。トールとアスモへのお土産はどちらかというとサブであり、日頃からエリノラ姉さんがお世話になっているエマお姉さまへのお礼がメインといってもいい。
「……白々しいな。この流れ期待してだろ」
「トール、なんか言った?」
「なんでもねえ……」
トールとエマお姉さまがぶつぶつと小さな声で会話した。
何を言っているか聞き取れなかったけど、姉弟にしか通じないコミュニケーションなのだろうな。
「今回の土産はなんだ?」
「ドラゴンマフィン?」
トールたちが小首を傾げる中、俺はトランクケースから一つ目のお土産を取り出した。
「んん? なんだこれ?」
「透明な石?」
「アルフリート様、これはなんですか!?」
トールとアスモが小首を傾げる中、もっとも食いついてきたのはエマお姉さまだった。
「魔石ですよ」
「ええ! これって魔石なんですか!?」
「魔石って、濁った紫色とかじゃなかったか?」
エマお姉さまが驚きの声を漏らす中、トールが冷静に疑問点を述べてくる。
「純度の高い魔石だと、水晶のような透明感になるんだよ」
「そうなのか?」
そこらの森に出てくる低級の魔物は、体内に宿している魔力が低いからか濁った紫色をしていることが多い。何も知らなければ、そういうものだとイメージが定着しても不思議ではない。
俺も魔物と戦闘する機会なんてほとんどないし、エルナ母さんの授業を受けていなければ全く知らなかっただろう。
「……赤とか青とか白とかあるのは?」
「それぞれの属性を表しているね。魔石は属性ごとに色が違うんだ。赤は火属性で青は水属性、白は無属性って感じで」
「へえ、知らなかったぜ」
魔石の解説をすると、トールが感嘆の声を漏らす。
ちなみに紫色をしている魔石は、何の属性も含まない魔石ということになり、世の中の大部分の魔物はそこに分類される。
だから、属性魔石は稀少なのだ。
「へー、魔石って削れば、こんなに綺麗になるんだな……」
「……ちなみに魔力制御のできない素人がやると、魔力でボーンだからね?」
「わ、わーってるよ! 魔石を削ったりなんてしねえよ!」
多分、俺が釘を刺さなければ、トールのことだからやっていたに違いない。
アスモとエマお姉さまも呆れたような目でトールを見ていた。
魔石は魔力が凝固したエネルギー体みたいなものだ。それを迂闊に削ったりしたら中にあるエネルギーが暴発するに決まっているからね。
「魔石には全部穴を空けているから好きにカスタマイズしてアクセサリーにしてくれてもいいし、観賞用にタンスの中に仕舞っていてもいいよ」
「ありがとうございます! アルフリート様、あとでアクセサリーを作りたいと思います!」
オススメの楽しみ方を教えると、エマお姉さまがにこやかな笑みを浮かべた。
「ふうん、とりあえず小箱にでも詰めておくか?」
「そうだね」
予想していたが、女性であるエマお姉さまと違ってトールとアスモはそこまで興味はない様子。とりあえず、物珍しい綺麗な魔石を貰ったという感覚だろう。
「ちなみに純度の高い魔石は、どこにいっても換金率が高いから、もしものためにアクセサリーにしておくといいよ。お金の代わりになるし」
「俺たちも後でアクセサリーしよう!」
「そうだね!」
活用法を教えてあげると、トールとアスモがあっさりと態度を変えた。
わかりやすい奴等である。
「ところでアル、他にお土産はねえのか?」
ジットリとした視線を向けてやると、トールが話題を変えるように尋ねてくる。
まあ、魔石細工に関しては、主にエマお姉さまやシーラに向けてのお土産なのでトールとアスモ向きのお土産でないことは確かだ。ここは目を瞑ってやろう。
「あるよ。とっておきのものが一つ」
「おっ、なんだなんだ? 見せてくれよ」
「いいよ」
トールとアスモが顔を寄せてくる中、俺はトランクケースに入っているお土産を二つ取り出した。
「んん? なんだこれ? ランプか?」
トールがランプを持ち上げ、怪訝な表情を浮かべる。
「うん、ランプだよ。ただし、普通のランプじゃなくて魔道具のだけど」
「「「――ッ!?」」」
これが魔道具であることを告げると、トール、アスモ、エマお姉さまがギョッとした顔になる。
無理もない。この世界において魔道具は高級品だ。照明の魔道具一つでも金貨数十枚の値段がする。平民が気安く買える代物ではない。
「うえええ! こんなもの貰っていいのかよ、アル!」
「よくない! アルフリート様、お気持ちは嬉しいのですが、このような高価な物をいただくわけには……」
「ああ、そこは気にしないでください。実はこれは新品ではなく、中古品なので……」
「「中古?」」
「ええ、運良く王都で大量に照明の魔道具を手に入れることができたので、スロウレット家の屋敷にある照明の魔道具を一新することにしたんです」
シューゲルがお礼として照明の魔道具をたくさんくれたというのもあるが、ここ一年でスロウレット家は様々な事業を展開し、かなり収入が増えた。
そのお陰で王都の魔道具店からたくさんの魔道具を購入することができ、古くから使っていた魔道具をどう処分するか悩んでいたのである。
「なるほど。いや、でも……」
「遠慮なく貰ってください」
トールたちが受け取ってくれなければ、トリーの奴に二束三文で買いたたかれることになる。それは非常に面白くない。
「アルがいらねえからくれるって言ってんだ! 素直に受け取ろうぜ、姉ちゃん!」
「……あんたって子は……アルフリート様がそこまでおっしゃるのであれば、受け取らせていただきますね。ありがとうございます」
どうせ手放すのであれば、本当に欲しがっている人のところに届いて欲しいからね。
旧式とはいえ、ちゃんと稼働できる魔道具だから大事に使ってほしいものだ。
転スロ、コミック発売中!




