それぞれの雪合戦
コミック5巻は7月15日発売予定です。
今回は書き下ろし小説ついております。
トールとの収穫祭の屋台巡りや、シルヴィオ、エリノラとのキノコ採りのお話です。
「ちくしょー。バルトロを連れてくるのはねえだろ」
「……あれは雪玉じゃなかった」
トールとアスモが身体についた雪を叩き落としながら文句を垂れる。
バルトロはトールとアスモを雪に沈めると、ご機嫌そうに厨房に戻っていった。
「二人で襲いかかってくるからだよ。俺も身を守るためだったんだ」
「だからってアレは違う」
「過剰防衛だ」
さっきのは雪合戦ではなく、ただの蹂躙だったしな。
二人がそう文句を言うのも無理はないな。だからといって、こいつらに素直にやられるつもりはサラサラないので謝ったりはしないけど。
「それでこれからどうする?」
文句の言い合いが落ち着くと、アスモが改めて尋ねてくる。
遊びに誘いにきたけど、特にこれといってやることを決めてはいないようだ。
「久しぶりに村を見たいかな。最近はあんまり村を見てなかったし」
「特に大人達が雪合戦で遊んでるくらいで変わりはねえけどな」
「朝っぱらから活発だね」
村人ってもっと農作業とか内職で忙しいイメージがあるんだけど。
「この時期は家にこもって内職ばっかりだからよ。こうやって外で身体を動かしていねえとやってらんねえな」
「ジーッとしてるのも長く続くと辛い」
確かにそれもそうか。普段肉体労働が多い彼らからすれば、ずっと家で内職というのも鬱憤が溜まる。それを解消する手段が雪合戦なのだろうな。
でも、何故だろう。それは酷く建前にしか聞こえない。コリアット村の人達は若々しいから遊びたいだけにしか思えなかった。
「とりあえず、まずは村に行こうか」
「おう」
コリアット村に向かうことが決まったので、中庭を出て一本道を進んでいく。
昨夜に雪が降っていたからか地面の雪の厚みは随分と増しているようだった。
空には三割くらい雪雲が残っているが、晴れやかな青い空の方が多く見えていた。
風はそこまで強くないので、比較的外を歩いていても苦にならない気温だな。
「おわっ!?」
のんびり歩いていると、トールが奇妙な声を上げてバランスを崩した。
「雪で埋もれてるけど、そこは小川の傍だから微妙に傾斜だよ」
辺り一面真っ白になっているせいで気付きにくいが、そこは俺の大好きな小川の傍だ。
トールが足を置いた場所は傾斜になっているので足をとられるのも当然だった。
目ではわかりにくくても何度も歩いているので、歩いた距離と時間で大体の場所が俺にはわかる。
「トール、ダサい」
「うっせ! こっちの方は雪が多くて歩きづらいんだよ!」
ボソッと呟いたアスモの言葉にトールが言い返す。
この一本道は村の近くと違って人の往来が少ないからな。雪が積もって歩き難いのも仕方がないことだった。
「ちょっと歩きやすくしておこうか」
トールがまた転んで怪我でもしたらしょうもないので、土魔法で道幅ぐらいの湾曲させた板を作り、サイキックでそれを前に移動させていく。
すると、積もっていた雪がどんどんと抉れて歩きやすくなった。
板から雪が溢れてしまえば、道の端に寄せてしまう。
前世であった除雪車を魔法で部分的に再現してみた感じだ。
「すげえ! 雪がどんどん削れていくぜ!」
「歩きやすくて助かる」
喜んでくれているはずなのに、こいつらに悠々と歩かれるとどこかムカついてしまう自分がいる。まるで、チンピラのために道を整備しているかのような下っ端感が出てしまうからだろうか。
あまり深く考えないようにしよう。
どうやって一本道を除雪しながら歩いていると、ほどなくしてコリアット村にたどり着いた。
小麦畑は勿論刈り取られて、立ち並ぶ民家の屋根に白い雪が積もっている。
「おや? 今は雪合戦をやっていないのかな?」
去年に比べるとかなり静かで、雪合戦をやっているようには思えなかった。
「いんや、やってるぜ。あそこにいるだろ?」
トールが指さしたところを見ると、雪壁の裏にローランドをはじめとする村人が集まっていた。
「いいか、四人一組で行動だ。雪壁を盾にしながらゆっくりと近付くぞ」
「大変だ。ウェスタのチームが本陣からいなくなってる! きっと、どこかから回り込んでいるんだ」
「それなら斥候を出そう。どこからやってきているか確認するんだ」
そう言うと、何人かの村人が移動して離れていった。
ローランドをはじめとする村人達は氷壁の陰に隠れてジッとしている。
よく見ると、手には盾代わりとしてフライパンなんかが握られていた。
「……なんか戦術性が上がってない? 去年は雄叫び上げながら全員で突撃していたよね?」
今年の雪合戦は一味も二味も違う。無邪気な遊びというよりも軍事演習というか、ガチなスポーツと言った方がしっくりくるような感じ。サバゲーみたいな。
「アルが氷壁を作ったり、落とし穴を使ったりしているのを真似したから」
「そうそう、あの雪合戦が終わってからレベルが上がったよな。それに最近は自警団の奴等も加わってるみたいだし」
どうやら俺とエリノラ姉さんの対決のせいで、こんな風になってしまったらしい。
氷魔法で壁を作て接近したり、魔法で弾いたり、周囲にある雪や氷柱を利用したりとあの手この手を使ったからな。
「まあ、遊びの幅が広がっているのはいいことだけど、これじゃあ子供は遊びづらいね」
「成人近くのやつらは大人に混じってるけど、俺達みたいな年齢のガキは演習場でのんびりやってるな」
和やかな雪合戦がなくなってしまった悲しさを感じたが、そんなことはなかった。
自警団の演習場の方を見れば、俺達くらいの年齢の子供が楽しそうに雪合戦をやっていた。
ちょっとした雪の壁が作られており、決められたエリア内で遊ぶルールみたいだ。
小さな子供や女の子のはしゃぐ声が聞こえており、とても和やかだ。
「あれなら俺達でも楽しく遊べそうだね」
「‥‥あー、俺達はあっちに混じれねえよ」
「え? なんで?」
俺は七歳児、トールとアスモは九歳児だ。成人年齢にまだ達していない年齢であり、あちらの平和な雪合戦に混じる権利はあると言えるだろう。
俺が尋ねると、トールとアスモは気まずそうに視線を逸らした。嫌な予感がする。
「……おい、なにかしただろう?」
「いや、ちょっと勝つために小細工使っただけだよな?」
「うん、雪を蹴り上げて目潰しをしたり、仲間のフリをして敵チームに潜入したりしただけ」
「うわぁ、大人気ない」
要するにこいつらのやることがえぐ過ぎて出禁になってしまったのだろう。
今、例に上げたものが全部なわけがない。もっと悪辣なことを仕掛けたはずだ。
「大人気ないって俺達も同じ子供だろうが。大体、なんで相手と正面から戦わないといけねえんだよ! 勝つためにやれることをやって何が悪い!」
「わざわざ公平にして戦う必要はないね。自分の得意なステージで戦うのがいい。泥臭い正面試合なんてクソ喰らえ」
それは常に姉という脅威に晒されている弟が、強かに生き抜くための考え方だった。
「二人の考えには俺も賛同するけど、普通の子供相手にやっちゃダメでしょ」
「それはわかってるけど、ああいう風に真正面からやってると背中がむず痒くてよぉ」
「つい不意打ちとかしたくなっちゃうよね」
不意打ち、だまし討ち、目潰し、小細工、裏切り、なんでも上等の二人からすれば、ああいう素直な戦いはやりづらいんだろうな。
「お前達も歪んでるなぁ」
「うっせ。雪合戦で魔法を使い出すアルに言われたくねえよ」
「アルはエリノラ様と同じように最初から子供枠から外されてる」
「そんなバカな……」
どうやら俺とエリノラ姉さんガチ魔法アリ対決を見られていたらしく、真っ先に子供枠から除外されていたようだ。
「つまり、俺達が皆と雪合戦をするには大人達の方に混ざるしかないと?」
「そういうことだな。どうする? 今からあっちに混ざるか?」
トールにそう言われて、大人達の雪合戦を見てみる。
「ルンバだ! ルンバが出たぞ!」
「あいつの雪玉はおかしい! 雪壁が一撃でぶっ壊れちまう!」
「急に乱入してきやがって! 誰かあいつを止めろ!」
大人達のエリアではちょうどルンバが乱入してきたらしく、たくさんの村人が吹き飛ばされていた。
どこかで見たことのある光景だ。具体的にはカグラの旅館であった枕投げ。
今、俺達の目の前ではルンバ無双が起こっていた。
「……今日は雪合戦はやめておこう。他にやりたい遊びがあるし」
「そうだね。ルンバもいることだし」
あの光景を見て、誰も混ざりたいとは思わないだろう。
「移動する前に雪玉を作って村長の家の扉をふさいでおこうぜ」
「そうだね。毎年恒例だし」
そんなことをやっているから悪ガキの称号を頂戴するハメになるんだぞ。
でも、楽しそうなので俺も手伝うことにした。
ルンバ無双というパワーワード‥‥
お読みくださりありがとうございます。
『今後に期待!』
『続きが気になる!』
『更新頑張れ!』
と思われた方は、ブックマークと下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!




