頼もしい助っ人
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』コミック5巻は7月15日発売予定です。
今回は書下ろし小説もついてあります。
Amazonでも予約開始されていますので、よろしくです。
ジャイサールの砂漠でマヤと遊んでから一週間。
俺は屋敷で徹底的に引きこもっていた。
自分の部屋を火魔法で暖め、パンケーキを食べながらロイヤルフィードをすする。
そんななんてことのない日常がとても素晴らしい。
連続で外出すると、その反動でしばらくは外に出たくなくなるな。
前世であった貴重な休みでも、片方の日には必ず家に引きこもる日を作っていたほどだ。
転移を使っていたとはいえ、外に出かけると疲れてしまうものだ。
家でダラダラと過ごして身体を休めておくのも心身のケアとして重要だな。
「おーい! アルー!」
なんて思いながらまったりとした時間を過ごしていると、窓の外から聞き覚えのある声がした。間違いなくトールだな。
反射的に窓を開けて確かめようかと思うが、ハッと我に返って動きを止める。
今窓を開けてしまうと外から冷気が入ってくるじゃないか。
ぬくぬくとした快適な環境にいる身としては、それは躊躇われる。
だって、開けたら絶対に寒いじゃん。
空気が悪くなっていれば換気替わりとして開いてもいいが、少し前にやったばかりだしな。
そこまで空気も悪くなっていない。
よって、トールの顔を拝んで会話するよりも、快適な環境を維持する方が優先された。
「おい、出てこいよー! サーラさんから聞いて、部屋にいるのはわかってんだぜー?」
居留守を使ってしばらく無視していたが諦めない。
どうやらサーラが礼儀正しく俺の所在を教えてしまったようだ。
そうとわかればあいつらは諦めないだろうし、サーラに案内されて踏み込まれる可能性もある。それならこっちが出向いた方がましだな。
俺は仕方なく立ち上がって窓を開ける。
すると、中庭にはトール、アスモ、サーラがこちらを見上げていた。
冷たい空気が俺の部屋に遠慮なく入り込んで寒い。
中は温かいけど外は呼吸をすれば白い息が出るほどだ。
「なにしにきたの?」
「なにって見りゃわかるだろ」
「遊びに誘いにきた」
トールと違って端的に用件を伝えてくれるアスモ。
「こんな寒い日に外で遊ぶの? もうちょっと暖かくなってからにしない?」
「お前、そんなこと言ってたらいつまで経っても遊べねえじゃねえか!」
「まったく、そんなに俺と一緒に遊びたいの?」
「「ずっとこいつと一緒にいるのが飽きたんだ」」
互いに指をさし合いながらそう言うトールとアスモ。
まあ、二人はお隣さんだし仲がいいからな。必然的に俺がいないとずっと二人で絡むしかないわけで。そう思うと、少し可哀想になってきたな。
「はあ、しょうがないから。外に行くよ」
地味にトールとアスモとは収穫祭が終わってからまともに遊んでいなかったからな。
マヤにサンドボードを教えてからスキーやスノーボードもしたいと思っていたし、一緒に遊ぶにも悪くはない。
俺はそう言うと、窓を閉めて残っていたパンケーキを食べて、ロイヤルフィードを流し込む。
普段着から防寒着に着替えて、玄関に降りるとサーラが入れ違いで入ってきた。
「アルフリート様、お気をつけていってらっしゃいませ」
「うん、行ってくるよ」
靴を履いていると、サーラが微笑みながら声をかけてくれた。
何かいいことでもあったのだろうか。サーラが妙にいい笑顔をしていた。
ご機嫌なメイドに見送られると、こちらも嬉しい気持ちになる。
俺は玄関の扉を開けて、トールとアスモの待つ中庭へと向かう。
すると、俺を歓迎したのは雪玉の嵐であった。
いきなり飛び込んできた複数の雪玉を避けることができず、俺の顔や身体にバスバスと当たる。
「ぎゃはははは! アルの奴、引っかかったぜ!」
「イヒヒヒ、綺麗に当たったね」
雪に塗れた俺を見て、楽しそうに笑うトールとアスモ。
くっそー! サーラめ! これがわかっていての気を付けていってらっしゃいと笑顔だったのか。トールとアスモの作戦を耳にして、こういう出迎えがあると知っていたんだな。
どうせ教えるならわかりやすく言ってほしかったものだ。
「誘っておいていきなりこの仕打ちはなくない?」
「俺たちの誘いをすげなく断ってきた報いだ!」
「ここでアルを懲らしめておく」
そう言って、素早く雪玉を投げてくるトールとアスモ。
どうやら収穫祭が終わってから、遊びを断り続けていたのが面白くなかったらしい。
屋敷の中に戻って避難したいが、扉を開けているうちに袋叩きに遭うのはわかりきっているので諦めて避難。
「おい、アルを屋敷に戻らせるな!」
「オーケー!」
俺が屋敷に入ることができないように退路を塞ぐように続けて雪玉を投げ続ける二人。
普段はしょうもない喧嘩ばかりしている癖に、人に嫌なことをする時の連携はピカイチだな。
「二体一は卑怯じゃない?」
「だから、どうした?」
「確実に相手を倒せればそれでいい」
俺の抗議に微塵も耳を貸さない悪友達。相変わらずクズだ。
「それだったらこっちも考えがあるよ」
「どうせいつものように魔法を使うんだろ!」
魔法で交戦してやろうと思ったが、そんな風に言われると癪でもあるな。
「いいや、違うよ。今回は魔法を使うまでもないよ」
「はあ?」
幸いなことに今は屋敷の敷地内。魔法を使わなくても応戦できる術がある。
俺が何を仕掛けてくるかわからないからかトールとアスモが警戒をする。
その何もしないという選択は失敗だな。
俺は大きく息を吸い上げて、厨房の方に声を投げかける。
「おーい、バルトロ! 雪合戦しようよ!」
「おお、雪合戦か! いいぜ!」
雪合戦と聞いてか、厨房の裏口からバルトロが即座に出てきた。
「人数が足りないからバルトロは俺のチームね」
「わかった!」
雪国出身だけあって、バルトロは雪合戦が大好きだからな。こうやって声をかければ、すぐに参加してくれると思っていた。
人数合わせという大義名分もあり、俺は堂々とバルトロを味方に引き入れることに成功した。
「へへへ、腕が鳴るぜ」
強い腕力と大きな手を活かして、砲弾のような雪玉を生成していくバルトロ。
その硬度たるや、俺達が作った雪玉の数倍以上だろう。
「おい、バルトロを呼ぶとか卑怯だろ!?」
「同じ人数だからそうは思わないけど、仮に卑怯だとしてもどうしたって言うのかな?」
こちらを糾弾してくるトールに、俺はそっくりそのままの台詞を返してやった。
すると、トールが悔しそうなうめき声を上げた。クズにはクズな手段で対抗するのが一番いい。
去年は敵として戦ったバルトロであるが、味方になるとこうも頼もしい。
「ちくしょう! アルだけでも沈めてやる!」
「こうなったら道ずれ!」
やけになったトールとアスモが突っ込んでくるがそれは悪手だ。
「バルトロ、やっちゃって」
「おう」
二人はバルトロの投げた雪玉で呆気なく沈んだ。
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