サンドボード
「アル、押して!」
「はいよ」
もはや何度繰り返されたかわからないやり取り。
俺は言われるがままにマヤの板をサイキックで動かして傾斜から滑らせた。
「うひゃああああああぁぁっ!」
その度にマヤは奇声とも呼べる、喜びの声を上げていた。
「頂上まで運んで!」
そして、下まで滑り上がるとすぐに板の上に乗り、それを俺がサイキックでこちらまで引き寄せる。
サイキックを駆使すれば、砂丘の下まで滑っても十秒程度で頂上に戻ってこられるし、体力も消耗しない。
それがとても楽だからかマヤは何度も上っては滑ってを繰り返していた。
ちなみに俺はマヤほど体力はないので、程よく休憩を挟みながらだ。
マヤは頂上に戻ってくると、すぐに板を置いてうつ伏せになった。当然のようにまだ続けるらしい。
「よく体力が持つね」
「だって、楽しいんだもん! アルがいないとこれはできない遊びだし、アルがいる内に楽しまないと!」
旅人に扮している上に、俺の肌を見ればラズール人じゃないことは明らかだ。
俺がすぐにここからいなくなることはわかっているのだろう。だから、マヤは俺がいるうちにできるだけ遊びたいと思っているようだ。
それに付き合わされる俺は堪ったものじゃないが、砂丘滑りを教えてもらったし、砂漠での歩き方も教えてもらったから無碍にもできないな。
どうせならマヤ一人でもできる遊びを教えてみることにしよう。
「俺の故郷に似た遊びがあるんだけど、それならマヤの魔法でもできそうだな」
「え? アルの故郷の遊び? どんなの?」
「スノーボードといって、板の上に立って雪の傾斜を滑り降りるんだ」
「雪! 聞いたことある! 寒い地方で降る白くてフワフワしたものだって! アルのところでは降るの?」
スノーボードに食いつくと思ったのに、雪の方に食いついてしまった。が、ここは雪とはもっとも縁遠い場所だ。マヤが興味を示すのも無理はないだろう。
「うん、俺の故郷でも冬になるとたまに降るよ」
というか、今コリアット村では絶賛降り積もっている。
「へー、雪って冷たい?」
「うん、冷たいよ。降り積もると一面景色が真っ白になる」
「いいなぁ。ここでも雪が降ってくれたらいいのに」
涼やかな雪と真っ白な景色を想像しているのか、どこか遠い目をするマヤ。
しかし、すぐに現実に戻ってきてくれた。
「あっ、ごめん。話が脱線しちゃった。スノーボードって教えてくれるんだったよね?」
一応、遊びの名前は覚えてくれていたらしい。
「うん、ただの四角い板じゃなくて、こんな風に長細いものを作るんだ」
マヤに見本を見せるべく土魔法でボードを作ってみせる。
「その上に両足を乗せて、ベルトか魔法で固定する」
本来であればしっかりと着脱しやすいようにベルトかなんかをつけるのがいいが、ここでは出せないために土魔法で両足を固定した。
うん、土魔法で作ったものなので味気ないが、きちんとしたボードだな。足もボードにしっかりと固定されているし問題ない。
「え? ええ? 詠唱は?」
「面倒くさいから省略した。それよりもボードを作って固定してみて」
「わ、わかった」
そう言うと、マヤは詠唱をして土魔法でボードを成していく。
「中心を反らせて端っこを持ち上げて」
ただの板では勿論滑らかに滑ることはできないので、形状を工夫しなければならない。
俺が最初に教えているのは初心者でも慣れればすぐに使いやすくなる、キャンバー形状。
横から見るとWのように起伏があるタイプだ。
接地面が両足の真下の二点なので、直感的に板のコントロールができやすいからな。
見た所マヤは運動神経が高いようなのでオススメだ。
「えっと、これくらい?」
「もうちょっと」
などと細やかに微調整すると、ようやくマヤのスノボも完成した。
「どう? 足はしっかり固定されてる?」
「うん、大丈夫!」
「それじゃあ早速、怪我をしないために転び方の練習をしようか」
「滑るん――えええ?」
俺がそう言うとわくわくしていたマヤがあんぐりと口を開けた。
スノボ初心者がいきなり傾斜で滑るなんて自殺行為だ。
「この変な板で滑るんじゃないの!?」
「そうだけど滑り方わかるの? 多分、さっきの板よりもすごいスピード出るから、柔らかい砂でも下手すると大怪我するよ」
「ええ! さっきよりも速く滑れるの!? わ、わかった。まずは怪我をしないための練習をする!」
速く滑れるというキーワードをかなり魅力的に感じたらしいマヤは、そわそわしつつも素直に頷いた。
まあ、新しい板で滑ってみたい気持ちはわかるが安全が第一だ。
いきなりこのような急斜面での練習はきついので、このままサイキックで浮き上がって緩やかな砂丘まで移動する。
「あっ、すごいこのボード? このままスルッと滑っていきそう」
「そうならないように斜面に対してボードを横にしてね。前のボードを持ち上げれば、後ろの砂にボードがひっかっかって止まれるから」
「本当だ」
初心者の人ではこれすら難しい人もいるが、マヤは大して手こずることもなかった。
「じゃあ、転倒する時の注意を説明するね」
「うん」
大人しく頷くマヤに俺はボードにおける安全な転倒の仕方を教える。
斜面に対して前のめりに倒れないこと。倒れる時はボードを地面から離すように、後ろ側に倒れて頭を打たないようにすること。
前に倒れてしまった場合は、できるだけ手を突かずに身体の全面で倒れることなど。
とにかく斜面側に倒れないことと、身体の全面で衝撃を受け止めることが大事なのだ。
「斜面に対して突っ込むように倒れると勢い余って吹き飛ぶし、手首とか突いちゃうと捻ったりしちゃうから注意ね」
「うええ、そうなんだ」
危険性を伝えるために敢えて具体的に言うと、マヤが呻いた。
「怖いならやめとく?」
「ううん、面白そうだからやる!」
念を押すように言うが、マヤはケロリと返事した。
どうやら怖さよりも未知の遊びへの興味が勝っているらしい。
もし、俺がこの子のお母さんだとしたら、ちょっと心配だ。
楽しいスポーツとはいえ、それなりに危険もあるものだからな。そこまで無理はしてほしくない。楽しさよりも怖さが勝つようならやらない方が賢明だ。
まあ、ボードと足が固定しているわけだし、いざとなれば怪我しないようにサイキックで浮かせてあげればいいんだけどね。
◆
それから俺はマヤにスノボの滑り方を教えた。
ゆっくりと左右に滑る木の葉落としや、重心の移動の感覚、上半身と下半身でのバランスの取り方。
基本といえる、その全てをマヤはあっという間に習得してみせた。
「マヤはバランス感覚がいいね」
「まあ、普段から傾斜滑りとかしてるし、頭に水を乗せては混んだり、ズオムに乗ってたりするから」
「ズオムって?」
最初の二つはわかるが、最後のズオムというのはわからなかった。
「あそこに見えてる動物のこと」
マヤが指さす方向では、カバのような動物が人を乗せて砂漠を進んでいた。
ああ、あの生き物の名前がズオムというのか。
街でよく見かけたけど、名前がわからなくて気になっていたんだよね。それがわかってスッキリした。
「ねえ、それより次の練習は?」
「もうマヤに教えることは何もないよ」
一度は言ってみたかったこの台詞。別に俺はスノボのプロでもないんだけどね。
「……え? じゃあ、それって?」
「存分に滑っておいで」
「やったー! アル、あっちの急な傾斜に行こう!」
「ええ? 最初だから緩やかな方にしとかない?」
目の前にある砂丘で滑ると思ったが、マヤは先程の大きな砂丘をご所望だ。
マヤの運動神経は練習の段階で十分に理解しているので心配はしていないが、久しぶりに滑る自分自身が心配だった。
「このボードすごく滑るんだよ!? せっかくならもっとスピードの出るところで滑らないと!」
俺のそんなみみっちい想いなど知らず、マヤは強引に連れていけと言う。
まあ、いざとなればサイキックで浮いてしまえばいいし、俺は素直に大きな砂丘に戻ることにした。
そして、再び砂丘の頂上にやってくる。
さっき緩やかな砂丘で軽く滑ったけど思っていた以上にスピードが出たな。
こんな角度のある長い傾斜を滑ったら、どれだけ速くなってしまうことやら。
「じゃあ、いっくよー!」
マヤはそう言うなり、すぐに身体を半身にして滑っていく。
俺もその後を追いかけるように半身にして滑る。
両手をしっかりと広げ、腰を落として重心をボードの真ん中に持ってきてバランスをとる。
ボードは傾斜の勢いをつけてドンドンと加速していき、先程とは比べ物にならない速度が出る。
久し振りに急な斜面を滑るので緊張していたが、速度に乗ってみるとこれが楽しい。
風を突っ切るような感覚で中々に爽快だった。
気が付くといつの間にか俺は砂丘の下まで滑り降りていた。
下には既に滑り終わって興奮冷めやらぬ様子のマヤがいる。
「すごいね、このスノーボードってやつ! こんなにスピードが出るなんて思わなかったよ! すごく楽しい!」
「ここは砂漠だからスノーボードというよりサンドボードかな」
「サンドボード……いいね! 素敵な遊びを教えてくれてありがとう、アル!」
「どういたしまして」
故郷の遊びを教えただけだけど、こんなに喜んでくれるとは思わなかった。
コリアット村には雪が積もっているし、トールとアスモにも教えてあげようかな。
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