楽し気なやり取り?
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』小説6巻は11月10日。今週の土曜日発売です!
Amazonでも予約できますので、是非よろしくお願いいたします。
「ぶえっくしょん! ぶえっくしょん!」
森の中でトールのくしゃみが響き渡る。
「ひでえぜ、アル。どうせなら俺も助けてくれよ」
「いや、あれはどうしようもなかったよ」
どこか恨むような視線を向けながら言ってくるトール。
「ふむ、アルキノコの胞子を浴びると、このようにくしゃみが止まらなくなるのか」
「風魔法で吹き飛ばしてくれたアルフリート様には感謝ですね」
結果的にアルキノコを抱えていたトールは、アルキノコの胞子をもろに被弾。俺はその胞子に巻き込まれたくなかったので風魔法で胞子を払ったお陰か、トール以外は全員無事なのである。
「とどめを刺さなかったトールが悪い」
アスモの言う通りだ。アルキノコにとどめを早く刺しておけば胞子を吐き出すことはなかった。
ちなみに今ではとどめを刺されてトールの籠の中だ。
「そりゃそうだけど……へ、へっくしょん! へっくしょん!」
何か言い訳をしようとしたトールだが、アルキノコの胞子を浴びたせいかくしゃみが止まらない。
「あー、くしゃみが鬱陶しい!」
「確か、アルキノコのくしゃみを緩和させる薬草がなかったっけ?」
「本当かよ!」
俺の言葉を聞いてトールが顔を輝かせる。
エルナ母さんの魔物の授業を聞いた際に、アルキノコの胞子を浴びてくしゃみが止まらなくなった時の対処法として聞いた覚えがある。
「でも、大分前に習ったせいかよく覚えてないや。アスモは覚えてる?」
「うん、キルク草をすり潰して飲めば緩和されるよ」
「じゃあ、それを探すぞ!」
「その必要はないよ。俺が持ってるから」
トールがそう意気込んだところで、アスモが籠からキルク草を取り出した。
楕円形の葉っぱがいくつも枝分かれした薬草は、確かに朧げに図鑑で見たことのあるキルク草だった。
「薬師の婆ちゃんに頼まれていたから摘んでおいた」
「お前、やけに薬草の類を摘んでると思ったら、そんなものまで……っ! くれ!」
トールが早速キルク草に食いつくも、アスモはすっと手を動かして拒否する。
「……何のつもりだよ?」
「そっちこそ物を欲しがる時は、それ相応の態度というものがあるよね?」
ニヤリと笑いながら言い放つアスモに、トールは苦渋の表情を浮かべながらぼそりと。
「くっ、このクソデブ」
「んん? 今、俺への悪口が聞こえたな。このキルク草は薬師の婆ちゃんに纏めて渡してしまおう。トールは一日中、くしゃみで苦しむといいよ」
「ああ、すいませんアスモ様! どうか謝るのでどうかキルク草のお恵みを!」
「ううーん、どうしようかな?」
目の前で這いつくばるトールを見て、なおも悩んだ素振りを見せるアスモ。
本当にいい性格をしていると思う。
ここで渋るということはトールの持っている、食材の中で何かを欲しているということだろう。長年付き合っていると悪友の考えが手に取るようにわかる。
「な、なにをご所望なので?」
「リブラが食べたいかな? 俺はリブラを見つけることができなかったしな」
リブラといえば、前にエリノラ姉さんと共に採りに行ったこともある。食べるとミックスジュースのような味がする肌色の果物。
高いところに生っており滅多に見つけられない上に、腐るのが早いので村では貴重品扱いだ。
「しかし、あのような貴重品をとられるとこちらとしても――へっくしょん!」
「そう、トールにとってキルク草がそこまでの価値がないなら別にいいよ」
「ああ、ちきしょう! リブラと交換だ! だから、キルク草を渡してくれ!」
「しょうがないな。トールがそこまで言うなら交換してあげるよ」
悔しそうにリブラを差し出すトールと、嬉しそうにキルク草を差し出すアスモ。
両者の表情は非常に対照的だった。
だが、悪友であるトールもこのままやられっぱなしで終わるとは思えないな。
「はい、キルク草」
「ありがとよ。ぶえっくしょん!」
俺の推測は正しかったらしく、トールはキルク草を受け取るとアスモの目の前で派手にくしゃみをした。
「うぎゃあああああああ! 顔に唾がっ!?」
「ああ、悪い悪い。アルキノコの胞子を浴びてくしゃみが出ちまうんだ。わざとじゃねえから許してくれ」
必死に顔を拭うアスモを見て、トールは晴々とした笑顔で告げる。
いいように弄ばれたが、思いっきり顔にくしゃみをぶちかまして溜飲が下がったという感じか。
「ははははは、村人の生活というのは楽しいものだな! 実に楽しげなやり取りだ」
「そうですね」
かたや村人の生活に馴染みのない貴族、もう一方は身体が弱い故に人形と遊ぶことが多かった内気な少女。
この二人は、どこか醜い諍いを楽しげな表情で眺めていた。
いや、多分普通の村人はこんなやり取りはしないと思うな。
◆
キルク草をすり潰して、水と一緒に飲んだトールのくしゃみは大分緩和された。
トールとアスモは若干の遺恨を残しつつ、動物のたくさんいる場所を案内してくれた。
森に住む動植物を見る度にドール子爵は目を輝かせて、それを観察。そして何度も目を瞑っては妄想の世界に潜るを繰り返していた。
今の体験が脚本に役に立つかはわからないが、少しは想像の助けになればいいなと思えた。
「あと動物がいそうで綺麗な場所って言ったら湖くらいか?」
「そうだね。東の森だとそんなものかも」
東の森は基本的に平坦で範囲が広い。山からの距離も遠いので、村の近くにある西の森に比べるとめぼしい地点は少な目なのだ。
だったら、西の森の方がいいと言われるかもしれないけど、あっちは遠いし歩き慣れていないと疲れる場所だからね。さすがに客人であるドール子爵を連れ回すには厳しいだろう。
「じゃあ、最後に湖で休憩してから帰ろうか」
「うむ、私もそれに異論はない」
俺の言葉にこくりと頷くドール子爵。
ということで、俺達は近くにある湖へと向かった。
森の中にある道を進んで、少し獣道を潜ると開けた場所に着いた。
そこには何十、何百メートルほどの広さを持つ水面が一面に広がっていた。
まるで森にぽっかりと穴を空けて、そこに大量の水をぶち込んだよう。そう思えるほどに、ここの湖は森の中に自然に佇んでいた。
「おお、これは綺麗な景色だな!」
「森が作った休憩所みたいですね」
ティクルが言い表すように、湖畔では数多の草食動物などが水を飲みにきていた。
この森には比較的魔物が出現しにくいので、彼らも安心して水が飲めるということだろう。
ここに危険な魔物が多く生息していれば、彼らがあのようにまったりと寛げるはずもない。
魔物のいない森万歳。このような平和な地を作りあげたノルド父さんやエルナ母さんに感謝だな。
この美しい光景を見ると、自分の領地を誇りに思うという気持ちが少しわかった気がする。
深呼吸をすると澄んだ空気が喉を通り、肺を浄化してくれるようだ。
「グレゴール様、ここにカエルがいますよ」
「なぬう! どこだ!」
ティクルが水面を覗き込みながら言うと、ドール子爵が急いで駆けつけて隣にしゃがみ込んだ。
「あ、えっと……」
「ティクル、カエルはどこなのだ?」
「こ、ここです!」
「おお、本当だ。ゲコ太が泳いでいるぞ!」
俺も覗き込みたい衝動に駆られたが、ティクルとドール子爵が実に楽しそうにしているのでそっとしておくことにする。
代わりに少し離れた場所にテクテクと歩いて水面を覗き込む。
すると後方から二つの悪意が飛んでくるのを感じた。
迎撃するという方法もあったが、それをすると泥沼の戦いになりそうだったし、ドール子爵とティクルの平和な時間と潰してしまいそうだ。
相変わらずの悪友の行動に呆れながら、俺は水面にシールドを浮かべて歩き出す。
「「うえっ!?」」
俺が水面を歩き出すと、トールとアスモはつんのめるようにしてバランスを崩す。
「くそっ! 水に落ち――ぐえっ!」
しかし、水面には俺のシールドがあるためにトールとアスモはシールドに顔を打ち付けた。
通常なら水にドボンでそれほど痛くないだろうが、これも自業自得としてもらおう。
「あ、あれ? 水に落ちてねえぞ!?」
「何か透明な板みたいなのが……」
「シールドが足場になっているから落ちないよ」
俺がそう言うとトールとアスモは確かめるようにシールドを叩いてから、立ち上がる。
「すげえ、本当だ! 水の上にいるのに落ちねえぞ!」
「まるで水面を歩いているみたい」
アスモの言葉の通り、まさに俺達は魔法によって水面を歩いているのだ。
ちなみに7巻が出れば、ほぼ書き下ろしになる予定です。応援よろしくお願いいたします。
いいなと思って頂ければ、感想、ブックマーク、評価をしてもらえると嬉しいです。励みになります。




