第三十八話 着手
ジャパンエキスポの中日。
疲労の色が濃い仙がため息をつく。
「日本に一瞬で広まるとはな」
「あ、ウチがリークしておいたから」
千佳伊の登壇内容は、ツイッターを中心に炎上した。
飛び交う憶測を止めるため、今日の登壇情報を流した弧見。
「助かる。変な方向に予想されるよりマシだな」
仙がそのまま不安げに零す。
「なぁ、今日はプロットの作り方だし、大丈夫だよな?」
「え? なんで大丈夫だと思うの? チカチカだよ?」
「だよな……」
仙は胃の辺りをさすった。
一方、当の本人はサングラスをかけ大御所気取り。
「ふむ。フランスで出版する日も近いか?」
二回目の登壇となった。
『では、勘 千佳伊さんにもお話を伺います』
『私にNGはない。何でも聞いてくれ』
『キャラ、世界観、テーマ、様々ですが、どこから手をつけるべきですか?』
千佳伊は顎に手を当てて考え込む。
『勘さん?』
『ログラインやターゲットと言わせたいのだろうが、そうはいかん!』
どよめく会場の様子に、千佳伊が鼻を鳴らす。
『効率なんかプロになった後に考えろ!』
先日に続き、再びテーブルを足蹴にする千佳伊。
『安易に他人の意見に飛びつくな! 自分をパターンにハメるな!』
『あの……勘さん? それだと登壇の趣旨……』
『黙れ! 創作に最も必要なものは自信だ!』
マイクは音割れ、カメラフラッシュもいっそう増す。
『揺れず、折れず、書き上げる! その先にしか答えはない! だから聞くな!』
なぜだか来場客は大盛り上がり。
異常とも言える興奮状態に。
「ねぇ仙……」
「なんだ?」
「参加者側からだとチカチカのパンツ見えてたりしない?」
今日の千佳伊はかなり短いスカート。
特定のポイントに向けられたカメラ。
「答えはツイートでやってきたぞ」
タイムラインは赤の勝負パンツで溢れかえっていた。
登壇が終わり、共演者が挨拶にきた。
薄いサングラスごしの目は細められている。
「彼女、めちゃくちゃ面白いね。あ、これ名刺」
「光栄です! 子供の頃、いつも聴いてました!」
「……仙、この人誰?」
昔、ミリオンを連発した音楽プロデューサー。
今は表舞台から遠ざかっているが、超有名人だ。
仙がサインをねだり、弧見も形だけ倣う。
機嫌の良さそうな音楽プロデューサーが、仙の肩を抱く。
「僕ね、出版社にも顔が利くんだ。彼女をプロデュースしてみたいな」
「はい! よろこんで!」
「ちょ仙! チカチカに聞かなくていいの?」
当の千佳伊は控室の隅で体育座り。
ネットには〝際どい赤でデビュー!〟〝NGなし!〟〝凄い自信!〟との記事。
それを見る千佳伊の目は虚ろだった。




