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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第53話 鍛冶師の秘密

魔王城の廊下は、いつもより静かに感じた。


重厚な石壁。

高い天井。

赤い絨毯。


タクミは歩きながら、小さく息を吐いた。


「……呼び出しか」


横を歩くのはカティアだ。


いつものように背筋が伸びている。

歩き方にも無駄がない。


「はい」


短く答える。


「魔王様が、お一人でお話ししたいとのことです」


タクミは少し眉を上げた。


「俺一人?」


「はい」


カティアは頷いた。


少しだけ間を置き、付け加える。


「……おそらく、武器の件でしょう」


やはりか。


タクミは苦笑した。


リアナの双剣。

炎竜核。

ミスリル。


あれだけ派手なものを見せれば、当然話は来る。


むしろ今まで来なかった方が不思議なくらいだ。


やがて、廊下の奥に重厚な扉が見えてきた。


ここは――


魔王城の戦略室。


普段は四天王や参謀が集まる場所だ。


だが今日は違う。


扉の前でカティアが立ち止まる。


「こちらです」


コンコン。


軽くノック。


「魔王様、タクミをお連れしました」


中から低い声が返る。


「入れ」


カティアが扉を開いた。


タクミは中に入る。


広い部屋だった。


中央には巨大な机。


その上には地図や資料が広げられている。


そして奥――


大きな椅子に座っている男。


魔王。


鋭い視線がタクミを捉えた。


カティアが頭を下げる。


「タクミをお連れしました」


魔王は軽く頷いた。


「ご苦労」


そして言う。


「カティア、下がれ」


「……承知しました」


カティアは一礼すると、静かに部屋を出ていった。


扉が閉まる。


静寂。


広い部屋に、タクミと魔王の二人だけが残った。


魔王がゆっくり口を開く。


「鍛冶師タクミ」


「はい」


タクミは軽く頭を下げた。


魔王は机の上に置かれた短剣を指で叩く。


それはミスリルの刃だった。


「まさかここまで早くミスリルを使いこなすとは思わなかった」


低い声。


だが、そこにはわずかな興味が混じっている。


「ミスリルは扱いが難しい鉱石だ」


「熱が通りにくい」


「加工が難しい」


「多くの鍛冶師が挑み、諦めた」


視線がタクミへ向く。


「だが貴様は違う」


「初見で形にした」


「既存の技術体系では説明がつかん」


少しだけ身を乗り出す。


「……どこの技術だ?」


静かな問いだった。


タクミはしばらく黙っていた。


魔王の視線は鋭い。


だが敵意はない。


ただ純粋に――


興味を持っている。


タクミは小さく息を吐いた。


「……誰にも言っていないことがある」


魔王の眉がわずかに動く。


「ほう?」


タクミは言った。


「俺は――転生者だ」


部屋が静まり返る。


魔王は驚かなかった。


むしろ面白そうに目を細めた。


「続けろ」


タクミは肩をすくめた。


「前の世界で、俺は鍛冶師だった」


「包丁を作る鍛冶師だ」


魔王が少し首を傾げる。


「包丁?」


「料理に使う刃物だ」


「野菜を切ったり、肉を切ったりする」


タクミは机のミスリル短剣を指差す。


「これと似たようなもんだ」


魔王は小さく頷いた。


タクミは続ける。


「俺はずっと追い続けていた」


「至高の一振」


少し遠くを見る。


「完璧な刃」


「最高の切れ味」


「それを作るために、ずっと鍛冶をしていた」


魔王は黙って聞いている。


タクミは苦笑した。


「そして、完成した」


「俺が理想としていた刃が」


「その瞬間――」


少し間。


「死んだ」


魔王の眉がわずかに動く。


「どうやって?」


タクミは肩をすくめた。


「包丁が胸に落ちてきた」


魔王は一瞬黙った。


そして。


「……間抜けだな」


タクミは苦笑する。


「自分でもそう思う」


「でもな」


少しだけ真面目な顔になる。


「死ぬ直前、思ったんだ」


「すげぇ切れ味だなって」


魔王は小さく笑った。


「なるほど」


「鍛冶師らしい最期だ」


タクミは続ける。


「気がついたら、この世界にいた」


「魔族になっていた」


「それからは……まあ、知っての通りだ」


魔王はしばらく考えていた。


やがて頷く。


「なるほどな」


「貴様の技術は異世界のものだったのか」


タクミは肩をすくめた。


「俺からしたら、こっちが異世界だけどな」


魔王は笑った。


「違いない」


少し沈黙が流れる。


魔王が言う。


「それで」


「これからどうする?」


タクミは迷わなかった。


「やることは変わらない」


「鍛冶だ」


魔王は静かに聞いている。


タクミは続けた。


「至高の一振を追い続ける」


「それだけだ」


「でも」


少しだけ真剣な顔になる。


「俺の武器で」


「誰かの命が助かるなら」


「悪くない」


「仲間を死なせない武器」


「そういうのも、いいと思ってる」


魔王はしばらく黙っていた。


そして、ゆっくり立ち上がる。


大きな体。


威圧感。


だがその表情には、どこか楽しそうな色があった。


「面白い」


タクミを見る。


「至高の一振、か」


机の上のミスリル短剣を持ち上げる。


「いいだろう」


タクミの方へ向ける。


「その刃で」


「魔王軍を強くしてみせろ」


そして言った。


「期待している」


「鍛冶師タクミ」


タクミは軽く頭を下げた。


「……ああ」


それだけ答えた。


戦略室の窓の外では、夜の風が静かに吹いていた。


まだ戦争は動いていない。


だが確実に――


何かが変わり始めていた。



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