第30話 戦場が変わる日
空は低かった。
灰色の雲が戦場を覆っている。
風が吹く。
冷たい風だ。
その風の中で――
魔王軍の兵士たちが武器を握っていた。
剣。
槍。
盾。
どれも新品ではない。
何度も戦場をくぐり抜けた武器だ。
だが。
折れていない。
欠けていない。
一人の兵士が剣を見つめる。
刃を撫でる。
「……本当に折れねぇ」
隣の兵士が笑う。
「だから言っただろ」
「タクミの武器だ」
最初に剣を見ていた兵士が言う。
「俺さ」
「この剣で五戦目だ」
もう一人の兵士が目を丸くする。
「五戦?」
「普通なら二戦で終わるぞ」
兵士が笑う。
「普通じゃねぇんだよ」
剣を振る。
ヒュン。
風を切る音。
軽い。
だが――
重い。
不思議な感覚だった。
「これな」
兵士が言う。
「折れない」
「曲がらない」
「刃こぼれしない」
そして笑った。
「つまり最強だ」
周囲の兵士たちが笑う。
だがその笑いには――
恐怖がない。
いつもの戦場前とは違う。
誰もが理解していた。
武器が違う。
それだけで
戦場は変わる。
その時だった。
ブオオオオオ!!
角笛が鳴った。
丘の向こう。
白い旗。
王国軍。
隊列が動く。
兵士が叫ぶ。
「来たぞ!!」
魔王軍隊長が剣を抜く。
「構えろ!」
兵士たちが武器を構える。
その目に宿っているのは
恐怖ではない。
確信だ。
――折れない。
その確信。
王国軍が走る。
鎧が光る。
槍が並ぶ。
騎士たちの突撃。
そして。
戦場がぶつかった。
ドォン!!
金属が衝突する。
剣と剣。
槍と盾。
怒号。
土煙。
戦場が爆発した。
王国騎士が剣を振る。
ガァン!!
魔族兵士が受ける。
騎士が目を見開く。
「……!?」
折れない。
魔王軍の剣が。
もう一度振る。
ガキン!!
止まる。
騎士が叫ぶ。
「馬鹿な!」
魔族兵士が笑った。
「どうした」
騎士が怒鳴る。
「壊れろ!」
再び斬る。
ガァン!!
火花が散る。
しかし。
剣は折れない。
魔族兵士が言う。
「終わりか?」
そして踏み込む。
剣を振る。
ドン!!
騎士の盾が弾けた。
騎士が地面に転がる。
戦場のあちこちで
同じ光景が起きていた。
魔王軍の武器。
折れない。
王国軍が押される。
隊列が乱れる。
「押せ!!」
「押し返せ!!」
魔族兵士が叫ぶ。
「武器は壊れねえ!!」
歓声が上がる。
その中央。
赤い影が走った。
リアナ。
大剣を振るう。
王国騎士が槍を突き出す。
リアナはそれを弾いた。
ガァン!!
槍が宙に舞う。
騎士が驚く。
「重い……!?」
リアナが笑う。
「そりゃそうッス」
大剣を肩に担ぐ。
「タクミさんの武器ッスから」
そして振る。
ドォン!!
騎士が吹き飛ぶ。
別の騎士が斬りかかる。
リアナが受ける。
ガキン!!
騎士が叫ぶ。
「刃が欠けない!?」
リアナが笑う。
「しないッス!」
剣を回す。
風が唸る。
そして叩き込む。
ガァァン!!
騎士が地面に沈む。
リアナが息を吐く。
剣を見る。
美しい刃。
傷一つない。
リアナが小さく呟いた。
「やっぱり」
「反則ッス」
そして振り返る。
兵士たち。
リアナが叫んだ。
「押すッス!!」
魔王軍が吠える。
「おおおお!!」
戦場が動いた。
王国軍が――
押される。
丘の上。
レオンがそれを見ていた。
静かに。
副官が言う。
「団長」
「これは……」
レオンが言う。
「鍛冶師」
副官が息を飲む。
レオンは続ける。
「武器が違う」
「兵の顔が違う」
副官が言う。
「戦況が……」
レオンが頷く。
「変わった」
戦場を見る。
赤髪の女。
リアナ。
騎士が吹き飛ぶ。
レオンが呟く。
「象徴」
副官が聞く。
「何のです?」
レオンが言う。
「新しい戦場の」
そして静かに言った。
「撤退だ」
副官が驚く。
「団長!?」
レオンは言う。
「今は勝てない」
戦場を見つめる。
そして小さく笑った。
「面白い」
「その鍛冶師」
「必ず見つける」
――――――――――
魔王城。
玉座の間。
兵士が跪く。
「報告します!」
「前線戦闘」
「魔王軍優勢!」
炎将バルグが笑う。
「だろうな」
獣王ガルドが牙を見せる。
「ガハハ!」
「壊れねぇ武器だからな!」
兵士が続ける。
「武器の損耗」
「ほぼ無し!」
氷姫セレナが静かに言う。
「理論通り」
闇宰相ヴァルツが微笑む。
「実戦証明ですね」
バルグが腕を組む。
「戦場で証明されたか」
ガルドが言う。
「つまり」
「量産すりゃ勝てる」
セレナが頷く。
「戦力比」
「逆転します」
ヴァルツが笑う。
「戦争が変わる」
魔王が静かに言った。
「タクミ」
玉座の間が静まる。
魔王は続けた。
「戦争を作る鍛冶師だ」
誰も否定しなかった。
戦場は――
変わった。
――――――――――
その頃。
工房。
カン。
カン。
タクミが槌を振るう。
火花が舞う。
リゼが言う。
「戦場」
「変わった」
タクミは答える。
「まだだ」
槌を振る。
カン!!
「これからだ」
炉の炎が揺れた。
戦争は
まだ始まったばかりだった。
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