第26話 炉が変える戦争
魔王城の裏手。
石壁の奥に、新しく造られた建物があった。
分厚い扉。
高い煙突。
そして中から漂う鉄と炭の匂い。
専用工房。
魔王が命じて作らせた、ただ一人の鍛冶師のための場所だった。
扉が軋んで開く。
「広いッス……」
リアナが呆然と呟いた。
天井は高い。
炉は三基。
巨大な鉄床。
水槽。
研磨台。
材料棚。
後方工房とは比べものにならない設備だった。
タクミは中を見回した。
「悪くない」
リアナ
「悪くないどころじゃないッス!」
腕を広げる。
「これ完全にボス工房ッス!」
タクミは炉の前に立つ。
炭を手に取り、火を入れる。
炎がゆっくりと広がる。
その時、小さな声がした。
「素材」
リゼだった。
棚を見ている。
鉄のインゴット。
魔鉱石。
魔物の骨。
そして見慣れない金属。
リゼ
「これは」
タクミも近づく。
金属を手に取る。
少し重い。
「初めて見る」
リアナ
「魔王軍の新素材ッス」
説明する。
「魔物の巣から採れる鉱石」
リゼ
「魔力含有」
目を細める。
「多い」
タクミは金属を叩く。
カン。
音が少し鈍い。
タクミ
「柔らかい」
リゼ
「魔力流」
頷く。
「良い」
タクミは炉に金属を入れる。
炎が赤く染まる。
「試す」
リアナがニヤリと笑う。
「新武器ッスか」
タクミ
「そうだ」
リアナ
「オレのッス?」
タクミ
「まずお前だ」
リアナが拳を握る。
「来たッス!」
リゼが言う。
「でも」
首を振る。
「鋳造」
棚の武器を指す。
「限界」
タクミ
「だから鍛造」
リゼ
「魔力流」
タクミ
「流す」
リゼ
「共鳴」
タクミ
「試す」
リアナが笑う。
「完全に研究ッスね」
タクミは鉄を取り出す。
赤く光る金属。
鉄床に置く。
ハンマーを握る。
カン。
カン。
火花が散る。
リアナは黙って見ていた。
後方工房では何度も見た光景だ。
だが。
今日は違う。
タクミ
「硬さ」
リゼ
「中」
タクミ
「粘り」
リゼ
「高い」
タクミ
「いいな」
カン。
カン。
ハンマーの音が工房に響く。
タクミは言った。
「鋳造武器は」
叩く。
「形を作る」
もう一撃。
「鍛造は」
叩く。
「性質を作る」
リゼが小さく言う。
「構造」
タクミ
「そうだ」
リアナ
「なるほどッス」
しばらくして。
タクミは金属を水に入れた。
ジュウウウ。
蒸気が上がる。
タクミ
「焼き入れ」
リゼ
「魔力固定」
タクミ
「いや」
刃を見る。
「流す」
リゼが頷く。
「魔力焼入」
リアナ
「なんスかそれ」
タクミ
「新しい」
リアナ
「軽い!」
試しに振る。
ヒュン。
風が鳴る。
リアナの目が輝いた。
「これヤバいッス!」
タクミ
「まだ試作だ」
リゼ
「でも」
剣を見る。
「魔力流」
頷く。
「綺麗」
タクミ
「量産できる」
リアナ
「ほんとッス?」
タクミ
「後方工房で」
指を折る。
「整形」
「鍛造」
「焼き入れ」
「研磨」
リアナ
「分業ッスね」
タクミ
「そうだ」
リゼ
「革命」
リアナが笑う。
「魔王軍武器革命ッス!」
その時。
工房の扉が開いた。
重い足音。
巨大な影。
獣王ガルムだった。
リアナ
「うわ」
ガルム
「鍛冶師」
タクミ
「何だ」
リアナが慌てる。
「四天王ッス!」
ガルムは机の剣を見る。
「新武器か」
リアナ
「試作ッス」
ガルムは剣を持つ。
振る。
ヒュン。
空気が唸った。
ガルム
「いい」
リアナ
「でしょ!」
ガルムはタクミを見る。
「俺のも作れ」
リアナ
「ズルいッス!」
ガルム
「四天王だ」
リアナ
「オレだって試作ッス!」
タクミは言った。
「全員作る」
沈黙。
リアナ
「え」
ガルム
「四天王全員か」
タクミ
「そうだ」
リゼ
「試験」
タクミ
「データ」
リアナ
「研究ッスね」
タクミは炉を見る。
炎が揺れている。
そして言った。
「戦争を変える」
リアナ
「武器でッスね」
タクミ
「そうだ」
炉の火が大きく燃え上がる。
専用工房。
まだ始まったばかりだ。
だが。
ここから生まれる武器は。
確実に。
戦場を変えていく。
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