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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第6節:見えざる脅威

ボルツが仲間になったことで、グレイウォールの変革は、さらに加速した。

鋼鉄製の頑丈な鍬や鋤が量産され、領民たちの開墾スピードは、今までの数倍、いや数十倍に跳ね上がった。固く痩せた大地は次々と掘り返され、そこに大量の堆肥が鋤き込まれていく。村の畑は、日に日に黒々とした生命力あふれる土壌へと生まれ変わっていった。

食料生産が安定したことで、人々の生活にも余裕が生まれた。村には共同の炊事場や洗い場が作られ、女たちは楽しそうにおしゃべりをしながら食事の準備をするようになった。子供たちの笑い声が、以前よりもずっと大きく、頻繁に聞こえる。集落全体が、活気と希望に満ち溢れていた。

俺は、科学教室の生徒たちと共に、次のステップへと進んでいた。ボルツの協力で手に入れた鋼を使い、より精密な道具――天秤やメスシリンダー代わりの目盛り付きの壺など――を作り、本格的な化学実験の準備を始めていたのだ。

そんな、誰もが未来は明るいと信じていた、ある日の午後だった。

「領主様! 大変です!」

アリアが、血相を変えて俺の仮住まいに飛び込んできた。

「どうした、アリア。そんなに慌てて」

「ミミが……ミミが高熱を出して、倒れたんです!」

ミミとは、村の子供たちの中でも一番元気な、そばかすの女の子だ。

俺が急いで彼女の家へ駆けつけると、ミミは藁の寝床で、真っ赤な顔をして苦しそうに息をしていた。額に触れると、火のように熱い。

「ただの風邪だろう」と、ミミの父親は言う。だが、俺にはそうは思えなかった。

その日の夕方には、別の家の子供が。次の日の朝には、共同炊事場で働いていた女性が。一人、また一人と、同じように高熱を出して倒れる者が出始めたのだ。

すぐに、薬草師のセーラお婆さんが呼ばれた。彼女は、豊富な経験から調合した解熱作用のある薬草を患者たちに飲ませたが、熱は一向に下がる気配を見せなかった。

三日後、最初の患者であるミミの容態が急変した。呼吸は浅く速くなり、意識も朦朧とし始めている。

「……だめだ」

セーラお婆さんが、俺の元へやってきて、悔しそうに首を横に振った。

「これは、ただの風邪や熱病じゃない。わしが知っている、どんな病とも違う。まるで、目に見えない何かが、体の中から命を喰らっているような……。これは、悪い『病』だ」

彼女の言葉に、俺はハッとした。

目に見えない、何か。

俺は、ミミが寝ている部屋に入り、彼女の手をそっと取った。そして、意識を集中させる。

「【観察者の眼】」

俺の視界が、一瞬でミクロの世界へと切り替わる。

ミミの皮膚の表面、その組織のさらに奥、血流の中……。そこには、俺が今までこの世界で見たことのない、異質な存在が映し出されていた。

それは、赤血球や白血球ではない。蠢く、無数の、小さな「点」。それぞれが鞭のようなものを持ち、活発に動き回っている。明らかに、生命を持った「何か」だ。

《対象:未知の病原性微生物》

《分類:細菌(Bacillus)属の近縁種か》

《特徴:鞭毛を持ち、水中での運動性が高い。集団でバイオフィルムを形成する傾向あり》

《感染経路の推定:汚染された水、または食物からの経口感染の可能性》

「……こいつらが、原因か」

俺の呟きは、誰にも聞こえなかった。

水は濾過して綺麗にしたはずだ。だが、生活全体の衛生環境は? 共同炊事場の排水は? ゴミの処理は? 人口が密集し、交流が活発になったことで、以前にはなかった新たなリスクが生まれていたのだ。

俺たちの次の敵は、隣国の軍隊でも、魔物でもない。

人の目には見えない、しかし確実に命を蝕む、小さな、小さな―――細菌。

『公衆衛生』という、全く新しい授業の必要性を、俺は痛感していた。

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