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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第5節:科学への目覚め

実験区画の成功は、決定的な転換点となった。

以前は俺の「授業」を遠巻きに眺めているだけだった領民たちが、今や積極的に俺の元へと集まってくるようになったのだ。特に、村の若者たちの目の色は、明らかに変わっていた。

「領主様! 俺にも教えてくれ!」

「どうすれば、あんな元気な芽を育てられるんだ?」

「堆肥の作り方のコツって、何かあるのか?」

俺の仮住まいである、村で一番マシな小屋の前には、毎朝のように若者たちが押しかけ、質問攻めにしてきた。その熱意は、かつて俺が教えていた日本の高校生たちを彷彿とさせ、教師としての血が騒ぐのを感じた。

「――よし、わかった。そこまで言うなら、正式に『学校』を開こう」

俺のその一言に、集まった若者たちは「がっこう?」と首を傾げた。

「ああ。俺の知っている知識を、体系的に、誰にでも分かりやすく教える場所だ。名付けて、『グレイウォール科学教室』。どうだ、カッコいいだろ?」

俺が胸を張ると、若者たちは顔を見合わせ、やがて一人が「よくわかんねえけど、面白そうだ!」と笑った。それでいい。興味を持つこと、それが全ての始まりだ。

こうして、青空の下の科学教室が始まった。

黒板の代わりは、固くならした地面。チョークの代わりは、先を尖らせた木の枝だ。生徒は、十代半ばから二十代前半の若者たち、十数名。その最前列には、もちろんアリアが座っている。彼女はもう、単なる生徒ではない。俺の言葉を誰よりも早く理解し、他の若者たちに噛み砕いて説明する、優秀な助手の役割を果たしていた。

最初の授業は、これまでの活動の総復習から始めた。

「いいか、みんな。俺たちがやってきたことは、魔法じゃない。全てに『理由』がある。水がなぜ綺麗になったのか? それは、大きさの違うフィルターで、順番にゴミを取り除いたからだ。土地がなぜ元気になったのか? それは、足りない栄養を堆肥で補い、酸性の腐葉土で体質を改善したからだ」

俺は、濾過装置の図や、土壌の成分について、改めて地面に描きながら説明する。

「この『なぜ?』を突き詰めて、世界の仕組みを解き明かしていく学問を、『科学』という。そして、科学の知識は、あんたたちの生活を間違いなく豊かにする」

若者たちは、真剣な表情で俺の言葉に聞き入っていた。彼らはもう、自分たちの身をもって科学の力を体験している。その言葉には、疑いようのない重みがあった。

授業は、実践が中心だった。

堆肥の切り返し作業では、温度の変化や匂いの違いを全員で確認し、発酵の進み具合を議論した。

「最初はアンモニアのツンとした匂いがしたが、今は森の土みたいな良い匂いがする。これは、分解が進んだ証拠だ」

「領主様、こっちの山は、あっちの山より温度が高いぞ。水が足りなかったのかもしれない!」

彼らは、五感を使って自然現象を観察し、仮説を立て、検証する、という科学のプロセスを、無意識のうちに実践し始めていた。

アリアの成長は、特に目覚ましかった。彼女は、植物の成長日記をつけ始めたのだ。毎日、実験区画の芽の高さを測り、葉の数や色を記録し、天候との関係を考察する。それは、まさに生物学者のフィールドワークそのものだった。

「領主様! 雨が降った次の日は、芽がぐんっと伸びるみたいです。やっぱり、水は大事なんですね!」

「すごい発見だな、アリア。じゃあ、もし雨が降らない日が続いたら、どうすればいいと思う?」

「えっと……濾過した綺麗な水を、畑に運んであげればいいと思います!」

「正解だ。それが『灌漑かんがい』の第一歩だな」

俺との問答を通じて、彼女は自ら問題を発見し、解決策を導き出す思考力を身につけていった。彼女の好奇心は、もはや留まることを知らなかった。

科学教室の噂は、若者たちだけでなく、村の大人たちの間にも広まっていった。

ある日、授業が終わると、村で唯一の鍛冶師であるボルツが、腕を組んで遠くからこちらを睨んでいることに気づいた。彼は、俺が村に来てから、一度も俺と口を利こうとしなかった、頑固そうな中年男だ。

またある日には、薬草師のセーラお婆さんが、俺たちの堆肥の山を、何かを確かめるようにじっと観察していた。

彼らのような、古くからの知識と経験を持つ職人たちが、俺たちの活動に興味を示し始めている。それは、この村に、より大きな変革が起きる前触れのように思えた。

俺は、活気に満ちた生徒たちの顔を見回しながら、心の中で呟いた。

(ああ、やっぱり俺は、教えるのが好きなんだ)

異世界に来て、役立たずと罵られ、辺境に追放された。だが、今、俺の周りには、知ることに喜びを見出し、未来を自分たちの手で作り変えようと目を輝かせる「生徒」たちがいる。

これ以上のやりがいが、他にあるだろうか。

俺の異世界での教師生活は、まだ始まったばかりだった。

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