表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

 既に高エネルギー反応を見つけてから一時間程経過、発進してから三十分程経過していた。モト・サイコ発射まで八時間になっていた。ハンガー18は現在の様子を見ながら地球の日本列島の遥か上空で待機していた。こちらが見つかる前には決着をつけたいと思った第四十五師団はハンガー18からANと更に二種類の巨大な機体が発進した。

 一つは『ラ・サライ』と言い、無人の大型宇宙戦闘機である。地球の生物で言えばかたつむりのような形をしていた。殻のような外装は核ミサイル発射口となっている。もう一つは『レ・ゴヌ』と言い、こちらは鮭のような形をしており、機動力が売りの無人の大型宇宙戦闘機であり、標準装備であるレーザーやミサイルで牽制しながら目標物へ亜光速で突き刺さった後、爆発する無人の特攻兵器である。

 それらは太陽系の一割を埋め尽くす程あり、それだけで太陽系の惑星全てを破壊出来そうなぐらいであった。

「よし、全機発進完了したな! 所定の位置に着き次第、作戦開始だ!」

 師団長がそういうと各機散らばり、日本列島を覆うようにレ・ゴヌが配置され、そこから少し離れてユーラシア大陸と北米大陸を覆うようにANとラ・サライが配置された。

「師団長! 全員位置に着きました!」

 ハンガー18のメインブリッジのオペレーターがそう叫ぶと師団長が口を開いた。

「FINAL OPERATION発動!」

 すると、レ・ゴヌのエンジンが点火したと思ったと目の前から消え、それと同時に地球では大輪の炎の華が咲いては消え、咲いては消えてを繰り返していく、レ・ゴヌが目標に着弾したのだ。爆発と煙で視界はおろか、電波障害を起こし、レーダーも使えなかった。

「よし! 反応はどうなった?」

 興奮気味に師団長は叫ぶがそれとは対照的に淡々とオペレーターが伝える。

「目標に全弾命中したと考えられます、レーダーが回復までしばらくお待ち下さい」

「そうか、なるべく早くな」

 その一方でサイコトロンのメインブリッジ内では歓喜の声が上がっていた。レ・ゴヌの亜光速での特攻を防いだものはメタル・ミリティアの歴史の中でこれまでおらず、防ぐとしたらそれは亜光速で動き出す前に撃ち落すしかなく、何百万機もまともに食らってはこのサイコトロンのような超巨大宇宙戦艦すらひとたまりもないぐらいの威力がある。

「よし! 状況が分かり次第作戦は終了し、モト・サイコの発射準備に取り掛かれ」

 マーダー・ワンは辛うじて冷静を保っていたが目の前に広がる華がメタル・ミリティアへの勝利を讃えていると思うと思わずニヤリと笑いを押さえつけられなかった。しかし、そんな中で一人だけ青ざめた男がいた。そそうかれは電波障害から回復を待ち続けたレーダーを見ていたレーダー手であった。

「い、いや……反応は消えていません!」

 レーダー手がそう叫ぶ。メインブリッジ内は騒然となりながらも現実を受け止めようと……いや、ある意味現実逃避とも言えるだろう、レーダーが映されたメインモニターに目をやると彼らを何事もなかったかのように赤いポイントが映っていた。ただの赤いポイントがまるで彼らを嘲笑っているかのように見えた。

 しかし、おかしいのはそれだけではなかった。高エネルギー反応のある列島はおろか隣の大陸すら傷一つないようであった。あれだけの数と威力を誇る攻撃がこれも何事もなかったかのようであった。

「い、一体……あれは何なんだ?」

 あれだけ兵士達の士気を上げ、山の如く動じない冷静さと火の如く闘争心を燃やし続けていたマーダー・ワンすら恐怖に慄いてしまう程であった。

「あの高エネルギー反応が一体何かモニターには映せないのか⁉︎」

 そうマーダー・ワンが指示を出すとすぐにレーダー手が叫んだ。

「今、レーダーから消えました!」

「すぐに探しだすんだ!」

 すると、ハンガー18から通信が入った。

「サ、サイコトロン! こちらはハンガー18! 高エネルギー反応の発生原が今、我々の目の前にいます!」

「なんだと⁉︎ い、いや待て! それはどこだ?」

 マーダー・ワンが叫ぶと同時にモニターはハンガー18を中心に映すと小さく赤く光る球体が見えた。その球体は包囲している第四十五師団の中心に静止していた。そこから高エネルギーを発していた。直径三m程の赤い球体が彼らには悪魔のように、いや、ようにではなく、実際悪魔と呼んでも良いだろう。

「あれは一体、なんだと言うんだ……?」

 マーダー・ワンはこれまでの知識と経験であの球体の正体を推理していたが検討がつかなかった。そもそもあれが機械なのか有機体なのかすら分からなかった。またはあれは正体すら表してないのかもしれない。

 しかし、蛇に睨まれた蛙の如く身動きが取れなくなっていたサイコトロンとは対照的にハンガー18が動いた。ラ・サライから核ミサイルが赤い球体に向けて発射されたのだ。核ミサイルは赤い球体に着弾し、爆発と共に閃光と衝撃が走る。

「い、いかん! ハンガー18! 今は攻撃は止すんだ! そいつはこちらの攻撃に対して反応する兵器なのかもしれないんだぞ!」

 マーダー・ワンの言葉も虚しく、メインブリッジに響くだけでハンガー18には届かなかった。すると、核ミサイルを撃ち尽くしたのか攻撃が止んだ。しかし、赤い球体の周りには緑色に輝く光が覆っており、無傷のようであった。更に緑色の光が収縮し、赤い球体に取り込まれたかと思うと爆発的に広がっていった。それにぶつかった全てのラ・サライとANはバラバラになり、残骸の大半は地球の大気圏に引っ張られ、燃え尽きていった。あれはバリアでもあり、攻撃手段でもあったと言うのか、赤い球体だけでなく、地球すら無傷だった理由はこれだと皆は確信した。

「各砲座しっかり狙え! 奴はレーザーならば効くかもしれない! 全弾撃ち尽くせ!」

 師団長が叫ぶとすぐにレーザー機銃を赤い球体に向けて撃ち始めた。赤い球体に当たったと思うとビクともしなかった、むしろ、そのまま機銃に突っ込んで来た。赤い球体は亜光速程ではなかったがかなり速くマッハ二十は超えており、バリアを展開されながらぶつかってこられてはひとたまりもない。

「効かないだと?」

「赤い球体はこちらに向かって来ます!」

「ならば、こちらもバリアを展開させろ!」

 師団長がそう叫ぶとハンガー18の周りを白い膜のようなものが覆っていった。だが、触れた部分は削り取られていくように破壊されていくだけであった。

「これも効かない⁉︎」

「触れただけで奴は核ミサイルすら防ぐ装甲を破壊していくのか⁉︎」

「ならば! 艦首砲の用意を急ぐんだ!」

 ハンガー18の艦首砲に光が集まると赤い球体を艦首砲に誘導しようと触手で赤い球体を叩きのめそうとしたが触手を突き破っていく。誘導は難しいと判断した師団長が亜光速で移動してようやく赤い球体から離れることに成功した。すぐに赤い球体はハンガー18に近づこうとした。しかし、艦首砲の射程に入っているのを確認するとすかさず発射準備に入った。

「よし……今だ! 艦首砲撃てぇ!」

 師団長が叫ぶと艦首砲の砲口から光を発したと思うと赤い球体を包んだ。

「め、命中しました! 艦首砲が赤い球体に命中しました!」

「ふふふ……流石に直撃してはひとたまりもあるまい! この艦首砲は直撃したらサイコトロンの機動力を奪うことも可能なんだ!」

 警告音がなると艦内に衝撃が走る。赤い球体が生きていたのだ。球体は傷一つない状態であり、彼らをあざ笑うかのように静止していた。すると、赤い球体は少しずつ色が薄くなっていった。段々、赤い球体の中のものが見えてきた。それは黒いフードを深く被った人間であった。顔は辛うじて見えないが顎に少し髭が生えているのが見えた。男のようであった。彼の体の周りには緑に光るバリアのようなものがうっすら見えていた。

 すると、彼は拳を握り、腕を胸で交差させ、顔を少し俯かせた。すると、体に纏ったバリアが広がっていき、そこは大きな球体になり、更にそこから無数のエネルギーの球体をハンガー18へ放っていった。それらは機銃と装甲を削り取っていき、着々とハンガー18を破壊していった。

 対称的に半狂乱になるハンガー18のメインブリッジ内は最早支離滅裂になりながら攻撃をするしか手はなかった。

 一方、サイコトロンのメインブリッジでは戦況を静かに見ていた……いや、恐怖で彼らは声が出ないため沈み切った雰囲気の中で見ていたと言うべきだろうか。そんな中でマーダー・ワンが口を開いた。

「モト・サイコはどうなっている?」

 マーダー・ワンの言葉にオペレーターは動揺した。彼はすぐにこの言葉の意味を理解したからだ。

「は、はい! 現在モト・サイコは二十二%のところまで充填が来ましたが」

「それでは足りんな、直ちにこのサイコトロンの全てのエネルギーをモト・サイコに送るんだ!」

「え? それでもかなり時間がかかりますし、今撃ってしまうとハンガー18を巻き込むようになりますが」

「かまわん!」

 マーダー・ワンがそう叫ぶとメインブリッジ内は騒然とした。

「何を言っているんですか? まだハンガー18が戦っているんですよ⁉」

 たまりかねたオペレーターが叫んだ。

「だからなんだと言うんだ? 今は奴を倒すことが最優先だ! 何も分かってないか?」

「それに恒星は……いや、銀河なんか他にもあるんだ! 他の所を探せば良いんだ! わざわざ、あんな危ない奴がいるこんな銀河を手中に収めようとする方がおかしいんだ!」

 すると、轟音が鳴り響いた。マーダー・ワンが歯向かったオペレーターの眉間を素早く右腕に仕込んだ小銃で打ち抜いていたのだ。

「お前は一体、何を言っているのか分かっているのか? 忘れたか? 我々は選ばれた生命体であり、宇宙の支配者であることを!」

 すると、後部のドアから何十人もの兵士が現れ、その一番後ろにはコブダイのような兵士がいた。偵察に行っていた隊長であった。

「もうこれ以上は無理です、ここは撤退しましょう!」

 隊長がマーダー・ワンに近づき、銃を後頭部に突き付けた。すると、マーダー・ワン何故か不敵で不気味な笑みを浮かべていた。

「お前までそんなことを言うのか? そもそもだ、あいつを発見出来なかったのはお前なんだぞ? その責任を全て私に押し付けるのか? それにもう遅い! あいつは我々の存在を知ったのだ、恐らく銀河の果て、いや、宇宙の果てへ逃げる方が困難だと思うのだがな?」

 しかし、何も答えずに隊長が引き金を引くと轟音と共にマーダー・ワンの頭を貫いていた。すると、艦内に警報が鳴り響いた。

「サイコトロンの艦長が死んだら鳴るようになっていたな。大丈夫だと皆に説明し、ここを脱出しよう。ハンガー18にも伝えろ」

「ちょっと待って下さい! 何か違います! ……これは……まさか……」

 メインモニターに何かが映った。それは先程撃ち殺したはずのマーダー・ワンだった。

「私はマーダー・ワン、サイコトロンの生態ユニットであり、サイコトロン本体とも言える存在だ! 諸君の行動は見ていた! そこに横たわっているのは私の人形であり、諸君は謂わば、私の腹の中である!」

 艦内全てでパニック状態となり、誰しも告げられた事実を受け止め切れなかった。

「諸君、今までご苦労であった、最早、諸君の役目は私の養分となることだけである!」

 サイコトロンの艦内は蠢き、機械だと思っていたものは全てマーダー・ワンの体であった。体に触れていない者はおらず、マーダー・ワンに体を吸収されていった。

「フハハハハハ! 最初からこうしていれば良かったのだ、この百%になったモト・サイコを食らうが良い! 宇宙の塵となれぃ!」

 モト・サイコの砲口に光が集まり、それが放出された。モト・サイコの光は様々な星を破壊していった。彼はそれを見て、攻撃を止めたが遅かった。ハンガー18をも破壊していき、そして、彼にその光が覆っていった。

「他愛ないことであったな」

 勝利の美酒とはこのことを言うのかと思うと笑みがこぼれた。しかし、その笑みは恐怖に歪んだ。なんと彼は生きていた。彼は光を受け止め、地球のギリギリのところにいた。

「これが神なのか?  もう出会った時点で負けが決まっていたのか……ならば、仮に過去の彼ならばどうであったのか?」

 そんなナンセンスな仮定や疑問を抱くしか出来なかった。一方、彼の体は緑色に光輝いていた。その輝きは宇宙の隅々まで届くのではないかと思う程の眩さであった。すると、彼の両腕からモト・サイコの光を覆いながら光輝くエネルギーの二条の剣となっていく。その二条の光の剣はマーダー・ワンの体を遥かに超えた大きさとなり覆いつくすように貫いていった。光は輝きを増し、彼の体すら覆い尽くしていき、それはやがて、銀河を……宇宙を……全てを覆い尽くした。マーダー・ワンは自分の運命を呪い、後悔しながらも、その光の輝きとその力の強大さを否定し続けていたがすぐに意識を失い、消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ