第4話 七夕
4人テーブルに2人で座っている、ラグビー部かというようなごつい学生が、店主に聞こえないようキョロキョロしながら話している。
「ってことは、ここ二、三日中ってことだな」
「だな。店のおっさんさぁ、絶対いつかは教えてくれないんだよな。」
二、三日中?いつかがわからない?そしてどこかで聞いたフレーズ『七夕の季節だね―』
10年、20年と頭の中のフィルムが巻き戻っていく。
そして―
そうだ。あのときだ。
学生時代、この店で定食を食べたていた日。今日みたいに暑かった日。6月末か7月頭か忘れてしまったが。
先代の店主がこう言っていた
「いやー、七夕の季節だね―」
この言葉で店が「おぉー」と、どよめいた。
自分はただの何気ない店主の一人ごとだと思っていたが、なぜか店内の雰囲気が変わったので記憶の片隅に残っていた。
その次の日も、自分は定食屋に食べにいった。
この日は、ちょうど休講となり昼過ぎにご飯を食べにいくことになった。
一緒に行ったのは…確か友達だったか…。
生姜焼き定食を食べ終えたそのときだった。
ジリリリリッと目覚まし時計の音が店内に鳴り響いた。
店主は、音を止めて店の奥にある身長と同じくらいの看板を外にだした。
看板には大きな手書きの文字で、こう書いている。
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・七夕カレー 1杯2000円
・本日限定
・大学生限定
・2杯限定
・次回予定「来年!」
※注文特典あり!
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限定のオンパレードだけど、シンプルな内容だった。
生姜定食も食べてお腹は満たされている。それは相方も同じだった。
だけど、、、
次回予定の来年は卒業してるから学生限定に引っかかってしまう。
一年で2杯限定でしかも今日だけって、どんなレアなんだよ。
つまり、七夕カレーがどんなものか知らんけど、今日この時を逃すと一生食べることはできないカレーだという事は理解できた。
注文特典については何も詳細な情報がない。でも、このカレーを食べるれること自体が貴重な体験だ。
小遣いもままならない生活ではあったけど、相方に無理言ってもう一回、店に入ることにした。
店主が注文を取りに来た「彦星と織姫どっちにします?」
なるほど、だから2杯限定なのかと。
自分から聞かれたので、彦星を頼んだと思う。もちろん、各一杯ずつしかないから、相方は自動的に織姫だ。
しばらくして、カレーは運ばれてきた。
見た目は普通のカレーだが…。トッピングがまるで天の川の星のように大量に散りばめられた、見たことのない具材全部盛りのカレーだ。
とはいえ、量はちょっきり1人前というところか。カレー自体はそこまで特別ではないけど、普通に旨い。これなら食べれない事はない、とは思ったが…。
後にも先にも、カレーが嫌いな食べ物になったのは、この時が最後だろう。
相方の方は限界だったようだ。あと3口が入らない。
それを自分が、せっかくだからと代わりに食べた。
深いため息とともに、完食を遂げた二人に店主はいった。
「はい、じゃぁ注文特典ね―」
あの、特別なカレーを食べた記憶の糸は今度は最後までつながった。




