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都を護る指輪

「色は違いますが機能は同じですね」

 

 ふたりの弾む気配に、近くに寄ってきて見守っていたらしき鑑定士が会話に加わる。

 

「どんな効果ですか?」

 

 マティマナはここぞとばかりに問う。自分で造っておいて、聖なる効果の品ができたこと以外は分からない。

 

「身につけるだけで、邪系・闇系の魔法を弾きます。魔気量の多い方でしたら、聖なる攻撃魔法を放てますな」

「まぁ、それは便利そうですね!」

 

 護りだけでなく攻撃も可能らしきに、メリッサが灰色の瞳を煌めかせる。

 

「貝殻草の指輪から魔法が放たれるのですか?」

「そんな風に見えるでしょう。身につけた者が攻撃魔法を使う場合、指先からの攻撃になります。指さしで攻撃場所を示す必要がありますね。利き手の人差し指につけると効果的です」

 

 マティマナは頷いた。

 

「邪が弾けるなら、信徒にされずにすみますね!」

「はい。ただ、黒い石に魔気を吸われるのは避けられないでしょう」

 

 人混みで黒い石を使えば、四方八方から魔気を吸い取ることが可能だ。黒曜教としては信徒を増やすより、魔気を集めるほうが優先だと思う。

 とはいえ人目につく場所で魔気を集めるのは危険だ。信徒を増やすほうが魔気は格段に集めやすい。悩ましいところだろう。

 今後も、レュネライの魔法で信徒にされない工夫はますます必要になりそうだった。

 

「じゃあ、貝殻草の花で、指輪をたくさん造ってみましょう」

 

 そんな会話をしていると、ルードランが小箱をもって工房に入ってきた。

 

「あ、貝殻草ですか?」

 

 マティマナは思わず嬉しそうな声をたてた。小箱から、ちいさくカサカサと音がしている。

 

「良くわかったね。貝殻草は今集めやすいみたいだよ」

 

 貝殻草で聖なる品の同じものを造れることが分かったばかりだったので、マティマナは喜びを隠し切れない表情になっている。

 

「メリッサが、鉱石の比率に気づいてくださったの! 聖なる貝殻草の指輪が、大量に造れます。邪を弾くし、人によっては攻撃魔法が使えるかも、ですって」

 

 思わず、しとやかさなど吹き飛ぶような喋り方をしてしまっている。慌てながらも、貝殻草で造った幾つかの指輪をルードランに見せた。

 

「ああ、これは身につけやすそうだね! 貝殻草、たくさん集めてもらおうか。丁度季節が良いらしいから。あ、それと、一応、これも渡しておくよ」

 

 別の小箱からは、揺れるとちょっと違った音が聞こえた。つい、いそいそと開ける。

 視界に飛び込んできたのは、色とりどりで形もさまざまな綺麗な貝殻たち。

 

「まぁ、なんて綺麗! 色々な貝殻! ステキです!」

 

 品に変えるのが、もったいないような素敵さにうっとりしてしまう。こんな風に、綺麗な貝殻をまとめた状態で見たのははじめただった。思いの外、貝殻が好きだったのだと、マティマナは自分で驚いていた。

 

「そのまま、マティマナの部屋に飾っても構わないからね?」

 

 マティマナが貝殻を気に入った様子に気づいたらしく、ルードランは笑みを深めて促してくれる。

 

「宜しいのですか? 嬉しいです! しばらく眺めて愉しみます! 今は、貝殻草からの指輪を集中して造りますね!」

 

 一点物ばかり量産していたマティマナだったが、同じ品を造ることが可能だとわかった。

 同じ素材からなら、鉱石の混ぜる比率を同じにすれば同じ品が造れる。メリッサは気づいたときには、比率も記録して品の確認もしてくれている。既にある品と同じものを造るために何を集めれば良いか、ある程度分かってきそうだ。

 

 異界と違い、武器や防具への聖なる力の付与は、武装していないルルジェではあまり意味がない。指輪の形で、皆に行き渡れば武器を持たない領民たちでも、邪教から身を守ることが可能になりそうだった。

 

 

 

 ルードランは、貝殻草の指輪の販路を思案していた。

 丁度、メリッサは実家へと手紙をだしていたようだ。数日で返信が来ている。

 

「マティさま! 雑貨屋ナギで、貝殻草の指輪を販売させていただくことはできますでしょうか? うちは、大歓迎みたい。移動販売で、都中を回ることもできるそうです!」

「まあ、それは願ってもないことよ」

 

 マティマナは即答だ。メリッサの家が、魔法の品を普及させるのに協力してくれそうだとは嬉しい。繁華街の雑貨屋だが、高級すぎない程度の魔道具的なものも扱っている。貝殻草の指輪なら、小さいし売り場を占領してしまうこともないだろう。

 

「それは凄いね!」

 

 ちょうど工房に入ってきたルードランが、瞠目(どうもく)しながらも大歓迎の気配だ。

 

「あ、差し出がましいことを……申し訳ございません!」

 

 メリッサはちょっと真っ青になっている。マティマナに話し、それとなくルードランへと伝わる形にしたかったのかな? と、推測した。

 

「さしでがましいなんて、思う必要ないよ? メリッサはログス侯爵家の婚約者なのだし。それに、素晴らしい提案をするのに身分など関係ないからね? 何より都の救いになる」

 

 ルードランは諭すように笑み含みで囁いた。メリッサは、こくこく頷きながらも緊張した様子だ。

 

「貝殻草を持ってきてくれたら、割引する、って、どうかしら? 貝殻草をたくさん集めなくちゃならないし」

 

 マティマナは提案する。ルードランは賛成の表情で頷いてくれた。

 

「卸値はなしで良いから、値段や割引はナギ家に任せるよ? 貝殻草を集めてもらうのが優先かな?」

 

 儲けは全額、ナギ家のもの、という太っ腹ぶりだ。だが、貝殻草を集めるには良い手だと思う。元より原価は掛かっていない。

 

「そ、そんな。とんでもない、好条件過ぎます!」

「ルーさま、ありがとうございます! 品の普及が大事です! その上で貝殻草を集めることができるなら。素晴らしいです」

 

 メリッサが叫ぶように言って首を振っているので、マティマナは重ねて言葉を告げた。

 

「ああ、でも、それでは、マティさまの働きが……」

 

 ただ働きさせてしまう、と、思っているのだろう。優しい子だなあ、と、しみじみ思う。

 

「都を助けられる、って、わたしには物凄い報酬のように感じられるのよ?」

 

 金銭的なものよりも、誰かの役に立っている実感のほうが幸福感がある。

 

「心配しなくても、マティマナの働きは、ちゃんと金銭換算されるよ?」

 

 メリッサの心情を察したのかルードランは笑みを向け、言葉を続ける。

 

「マティマナの働きの分、財産はちゃんと増える形だから心配しなくて大丈夫。都を統治する予算を投入するから、メリッサも気兼ねなくナギ家に働いてもらうといい。値引きした分はライセル家が補充しよう」

 

 ルードランの言葉を聞くうちに、メリッサは呆気(あっけ)にとられた表情になっていた。

 

「えええ! 元より、卸値なしな上でですか?」

「都中に普及となれば、相当に難儀な仕事だからね。人を雇う必要もあるだろう?」

 

 にっこりと、ルードランは笑みを含めてメリッサに応える。マティマナは、ルードランの言葉が心強いし、とても嬉しく感じている。領民のことを第一に考えてくれるライセル家の次期当主。そんな素晴らしいルードランへと嫁げるなんて至福を通り越してしまい表現しようがないほどだ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 メリッサは困惑気味ながら、丁寧な礼をする。

 ふたりのやりとりを、マティマナは幸せな気持ちで眺めていた。

 

 


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