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異界棟と都を繋ぐ

 マティマナはルードランと手をつなぎ、一緒にあちこち点検に回っていた。

 細かなところから、大きなものまで、死霊たちは意外に物に対しては破壊行動をしていたようだ。これで良く人的被害がなかったものだと、少し安堵めく思いはある。

 

 些細な破壊であれば、マティマナの雑用魔法のなかの修繕が効果覿面(てきめん)だった。

 死霊の残党は、見回りをしている騎士たちが片づけてくれている。

 

「マティマナの修繕というか、復元のお陰で異界棟も元通りになりそうだね」

「良かったです。一時はどうなることかと」

「修繕のお陰で、城のあちこちで以前より却って綺麗になった場所もあるくらいだ。本当に凄いよ」

 

 聖なる光でできていた死霊を退治する雑貨たちは、役目が終わるとキラキラと光になって消えていった。

 死霊に踏み潰されてから魔法で甦った庭園の植物たちは、数日間、光を撒き散らしていたが徐々におさまり今は普通の植物に戻っている。

 

「なんだか、夢のなかにでもいたような感じです」

 

 皆で造り出した光に満ちたライセル城は、熾烈な戦いの最中ではあったが幻想的すぎた。

 慌ただしさのなかで、目眩(めくるめ)くように魔法が進化し展開している。

 一気にできることが増えたような気もするし、あのような緊急時だったから使えただけの気もする。

 

「ライセル城に、魔法の品があふれているのは良いね」

 

 ルードランはにっこりと笑みを深める。

 

「消えてしまったものも多いですが、魔法の品として定着したものも大量ですね」

 

 片づけるのが大変だ。マティマナは自分の関与した魔法の品を雑用魔法で片づけることができない。

 

「魔法の品になってしまったものも多いようだね。でも、そのままで良いと思うよ」

「片づけ、お手伝いできなくて心苦しいです」

「もっとずっと大変な魔法を使い続けているのだから、そんな風に思う必要はないよ?」

 

 とはいえ城のなかに、マティマナの魔法が関与した品が増えたことで、簡単に片づけができないのは焦れったかった。

 

「ふたつの鉱石は、元に戻せそうですけど、当分、飾りのままで良いですかね?」

「飾り、マティマナに似合うし、元に戻すより便利そうだ。そのまま使うのが良い」

 

 

 

「異界棟と、外の専用棟との連結が完了しました」

 

 法師ウレン・ソビが、マティマナとルードランを見つけて駆け寄ってきた。

 

「ライセル城の外に、ライセル家の棟があるのですか?」

「最近は余り使われていなかった、ライセル城の来客対応用だよ。城壁のなかに招き入れたくない場合に使用していたようだね」

 

 異界棟へと法師に誘導されながら、ルードランはマティマナに応えてくれている。

 

「こちらです」

 

 異界棟へは今回は法師の転移で入った。一階が、受け付け対応できる形に改装されている。

 

「まあ! すっかり綺麗になって素敵です」

 

 マティマナは、入った場所を眺めながら感動した声を上げている。

 

「外の専用棟への移動は、この魔法陣です」

 

 受け付けの隣は、ちょっとした広間で、その中央に大きめの魔法陣が固定されていた。

 

「乗れば良いのですか?」

「そう。行き来は簡単だよ」

 

 ルードランに手を引かれて魔法陣に乗ると、次の瞬間には別の広間の魔法陣の外に移動していた。

 専用棟へ入ったようだ。こちらも、受け付け対応できる形になっている。

 

「これで、ライセル城を介さなくても、商人方々は異界との交易が可能になります」

 

 ライセル城の外の専用棟から、異界棟へと直接入れる。城の敷地に建つ異界棟は、扉が封印されている。なので異界からの来客も都からの商人も、基本的にはライセル城の敷地には出ることができない。

 ただ、異界棟と専用棟には、働く使用人たちのため秘密の通路は作られているらしい。

 

「一応、専用棟の受け付けはライセル城から案内の者を派遣するよ」

「異界棟の受け付けは、言語の提供や通行証の発行が必要となりますので、しばらくは私が対応します」

「あら、それは大変すぎるのでは?」

 

 法師の言葉に、マティマナは驚いて訊く。

 

「大丈夫です。ライセル家で、専用の者を雇うまでの短期間ですから」

「告知は、まだ少し先だから、それまでには整うようにしよう」

 

 法師が他の雑事に追われるのは良くない。マティマナはルードランの言葉に深く頷いた。

 

「不思議。ここは、ライセル城の外なんですよね?」

 

 けれど、ちゃんとライセル城と同じように、護られている感覚がある。

 

「城壁の外だけれど、護りが働くライセル家の広場に建っているからね」

 

 マティマナの言葉の意味を、ちゃんと感じとってルードランは応えてくれた。

 

「わたしが鳳永境(ほうえいきょう)に行きたいときは、どうやって異界棟に入れば良いのですか?」

「ひとりでは行かせないし、必ず僕が連れて行くよ」

「あ、それは嬉しいです!」

 

 当分、行くことはないと思うのだが、一応、確認しておきたかった。怖い思いはしたけれど、鳳永境には魅力的なものも多い。好奇心はうずくので、ルードランと一緒に行くことができるのは愉しみだ。

 

 

 

 城の修復はマティマナの魔法での処置が終わり、使用人たちが引き継いでいる。襲撃され余分な仕事が増えたのに、皆、生き生きと仕事をしていた。

 

「城の方々が、鳳永境に行くときは、どんな形になるのですか?」

 

 厨房の者や、品の調達係たちが出かけて行くことはあるだろう。また、個人的に異界への興味を持つ者が、休暇を利用して行きたい場合もありそうに思う。

 

「異界の詳細を知ってくれる者がいれば、ライセル城としては益になるから積極的に出かけて行ってほしいと思っているよ。同行者が必要だから申請してもらって準備する形になるね。異界棟には転移で送ることになるよ」

 

 ちゃんと色々な事態を想定し、準備しているようだ。

 

「異界に死霊がいなくなったのは、やはり朗報ですよね」

 

 安心して送り出すことができる。

 

「後は、通貨代わりの品をどうするか、ということだろうね」

「あ、もう、わたしの品では交換できないですかね?」

 

 死霊は居なくなったし、聖なる付与品は不要な気がする。

 

「死霊とは関係なしに、聖なる品の需要はなくならないそうだよ」

 

 ルードランはグウィク公爵と情報交換しているらしく、交易の事情も知っているようだ。

 

「そうなんですか? じゃあ、わたし、魔法の品を造り続けても良いのかしら?」

 

 マティマナは、ちょっとドキドキしながらルードランに訊いた。魔法で物を造る楽しみを思い切り味わってしまったので、止められるのは辛い。

 

「ぜひ、造り続けてほしいよ。何より僕が愉しい。異界の通貨として買い取りたい者たちも大挙して押し寄せるだろうね」

 

 ルードランが笑みを深めるのを見詰めながら、マティマナはうるうると緑の瞳を輝かせていた。

 

 


いつも、お読み頂きありがとうございます!


前話のあとがき部分にも追記しましたが、

ガナイテール国の第二王子フェレルドと、クラリッサとの出逢いの短編を書きました!

本作二章の、ガナイテール側の一幕でもあります。


「初夜に前世を思い出した悪役令嬢は、冷徹王子に拾われる」

https://ncode.syosetu.com/n6665id/


合わせてお読みいただけたら嬉しいです!




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