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第二王子フェレルドの策謀

 異界棟のなかは、酷いありさまだった。床や柱などの骨格というかは残っている。岩づくりの壁も辛うじて姿がある。

 

 そのほかの壁やら装具やら、調度類は粉々だ。

 マティマナが通路を封じた厚い絨毯は、吹き飛ばされて岩壁にめり込んでいた。

 

 何より酷いのは、死霊蟲や死霊たちが壁にめり込んで動けなくなっている状況だ。動けていた死霊たちは、シェルモギが消滅した後、異界へと通路を渡って戻ったのだろう。

 

「わたしの魔法だと、直接的には倒せないんですよね」

 

 マティマナは魔法を撒き、死霊の核を視えるようにしながら呟いた。

 たぶん、核に入っている聖なる成分の影響だろう。

 

「異界棟の修繕は、ちょっと時間がかかりそうだね」

 

 ルードランは惨状を眺めながら呟く。

 とはいえマティマナが修繕の魔法を撒きまくると、かなり形は取り戻せた。

 

「異界から戻ったら、集中的に魔法撒きます!」

 

 死霊を片づけながら異界へと渡って行く予定なので、戻ってきてからの作業となるだろう。

 騎士たちも複数連れ、後始末の加勢に行く形だ。

 もうシェルモギはいないので、マティマナも同行できる。ルードランと寄り添って階段を下り始めた。

 

 騎士たちが先頭に立ち、背後からルードランとマティマナが続く。マティマナは広範囲に魔法を撒き、騎士達は螺旋階段の死霊蟲や骨騎士なとを倒しながら異界へと向かった。

 

 

 

 丁度、公爵城では城に取り憑かれていた死霊たちを退治できたところだったようだ。

 広場に出てきて死霊の始末をしていた。

 

 グウィク公爵がルードランとマティマナの気配を察したのか、城から飛び出してきた。

 

「第二王子が……何やらベルドベル国への対応をしてくれたらしいのです」

 

 とはいえグウィク公爵は、何が起こったのか分かっていない様子だ。

 

「シェルモギは倒しました」

「ええ。ルードラン様が、ガナイテールにいらしてますから。見事なものです」

 

 心底感心した様子でグウィク公爵は安堵の吐息をついていた。

 

「不意に、死霊の流入が止まったお陰です! 一体、何が起こったのですか?」

 

 マティマナの問いに、グウィク公爵は首を傾げる。

 その時、転移の閃きと共に、ふたりの姿が現れた。第二王子フェレルドと、その婚約者クラリッサだ。

 

「お陰で、ベルドベル国は、我が国の第一王子テビエン・ガナが王となる」

 

 上機嫌なフェレルドは、そう告げた後で、ライセルの者たちに厚く礼を述べた。

 

「どういうことです?」

 

 ルードランの問いに、フェレルドはグウィク公爵を下がらせる。ルードランも、マティマナ以外の者たちを広場の死霊退治に向かわせた。人払いしての立ち話だ。

 

「兄上は、訳あってガナイテールの王位継承からは外れている。だから、王位に就くには他国を攻めるしか方法はなかった」

 

 元より死霊を送り込んでくるベルドベル国とは戦時であり、一触即発で大戦が始まるところだったようだ。

 シェルモギが異界のマティマナに固執しているという噂が、フェレルドを動かしたらしい。

 

「王宮近くのポース公爵家が、良からぬ企みをしていてね。軍備を増強し兵を増やしていた。その企みへの処罰のひとつだよ。ポース公爵と令息、徴兵された兵は、第一王子の近衛たちと、ベルドベル国の城へと飛ばした。王宮の大がかりな転移を使ってね」

 

 とても的確な判断でした、と、婚約者のクラリッサが呟きを足した。

 

「シェルモギがなかなか通路を渡っていかないので、かなりやきもきしたよ」

 

 フェレルドはにっこりと笑む。国王が不在になると予期し、その瞬間を狙い定めて待っていたのだろう。

 

「第一王子の軍勢が、ベルドベル国で死霊たちを退治したので流入が止まったのですね?」

「国は、元より、もぬけの殻だ。ただ、王座に死霊を吐き出し続ける魔道具が設置されていた。それを封じたから、死霊は限りあるものとなったのだろうね」

「お陰で助かりました」

 

 ルードランは丁寧に礼をする。

 

「ライセル城を巻き込んでしまって、申し訳なかったね」

 

 フェレルドも、丁寧な礼を返してくる。冷徹王子との噂どおり、何やら随分と無茶な計画を実行したようだが、笑みは穏やかで綺麗な貌を引き立てている。

 

 マティマナは自分のせいで戦乱が引き起こされたように思っていたが、フェレルドは違う認識らしい。

 

「ベルドベル国は、ガナイテール国から独立する形なのかな?」

 

 ルードランが確認するように訊いている。

 

「当面は後片づけと、生者捜しだろうね。国としての体裁が整うのは、ずっと先だ。食糧も恐らく皆無で、自立できるまでは、ガナイテールが支援するしかない。当分属国でしょう」

 

 成る程、と、ルードランは頷いた。

 死霊が国に満ちていたような場所、マティマナを虜囚とした不浄な場所。あんな酷い状態から人が住める国へ変えるのは、並大抵の苦労ではないだろう。

 

 まして、死霊ばかりで農地も産業もなかっただろう国だ。

 王位を得ても、嘗胆をなめるような日々だろう。冷徹王子は処罰といっていたから、送り込まれた者たちも並大抵の苦労では済まされないはずだ。

 

 

 

 フェレルドは、ガナイテール側の異界通路の上に、館を建てることにしたらしい。

 館のなかから、グウィク公爵領の市場や、王宮近くの交易市場へと直接転移できる魔法陣を往復で設置するとのことだ。

 

 館は王宮より、グウィク公爵へと寄贈される。辺境の国境を護ることで疲弊し続けたグウィク公爵へのねぎらいでもあるようだ。

 

「死霊の害がなくなりますので、領地民が増えてくれるだろうと思います。今後とも、交易での行き来を、ぜひ宜しく願いたい」

 

 フェレルドが王宮に戻った後、グウィク公爵が寄ってきて話してくれた内容だ。

 

「状況を知らせていただけて、とても助かりました。今後とも、ぜひ末永く友好関係を築きましょう」

 

 ルードランも、異界棟を修繕した後に、異界棟を都と繋げる算段を約束していた。

 互いに死霊の心配がなくなったので、安心して都の商人たちを交易に行かせることができそうだ。

 

 

 

 ライセル城の死霊退治は、なんとか一段落だ。

 城や別棟などで修繕の必要なところは多々あるが、少なくとも居城内の死霊は一掃された。

 外には若干、残っているかもしれないが後回しでよいだろう。

 

 城壁の上の魔法陣の防御壁は、シェルモギを倒した折に消失した。再度、使用できるまでには魔気を溜める必要がありそうだ。死霊の残党を外に出さないため、まだ城壁は閉めている。

 

 幸い、怪我人はいなかった。生気を奪われた者や、毒を受けた者はいたが、法師やライリラウンがその都度対応してくれたので人的な被害は皆無だ。

 ただ、さすがに誰もが休息が必要な状態だった。一段落したところで、一斉に皆、力が抜けている。

 

 聖なる光が残り城内はどこも目映(まばゆ)いが、眠りの邪魔にはならないだろう。

 

 


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