雪崩込み続ける死霊の群れ
ただ、どうすれば、満遍なく死霊たちへ魔法を浴びせさせられるだろう?
建物のなかには入り込んでいないが、色々と遮蔽物はある。
それに異界棟からライセル城へと雪崩込んでくる死霊は、種類を増やしていた。
「多数の死霊騎士が、猛攻撃を仕掛けてきました! 動きが速いので気をつけて」
ライセル家の魔法が、法師の声を城中に響かせた。
馬の骨格にまたがった死霊騎士が、槍や剣を使って攻撃を始めているらしい。のろのろの死霊蟲や骨戦士と違い、機敏な動きのようだ。
「ここからだと視えませんね」
この二階の張りだしから、すべての場所を狙うのは無理だ。それに、それなり掛け続けないと核は視えないし、時間が経つと薄れてしまう。
マティマナは焦り、焦るほどに、大量の魔法を撒いた。裁縫系の印付けと探し物を混ぜた魔法だ。
「マティマナが混ぜた魔法、一定量で、その核みたいな玉が視えるようになってる」
言いながら、ルードランはその核を目掛けて矢を射った。
的中した五体の骨騎士が光を放出しながら消滅する。
「すごい! やっぱり、核みたいなのが弱点ですね! 屋上から撒きましょうか?」
魔法で核が視えるようになるなら、もっと広範囲に撒きたい。
「いや、僕の魔法で上昇して、もっと上から撒こう」
ルードランは矢を射るのを止めてマティマナと手を繋ぐ。二階の張りだしから、ふたりの身体は宙へ浮いて行った。
「あ、確かに! 上空からなら、あちこちに撒けますね! 移動って可能ですか?」
「動かせるよ。ゆっくり巡回するように上空を移動させよう」
その間も、マティマナは混ぜた魔法を撒き続ける。
「魔法が当たると核のようなものが視える。それが弱点だ!」
ルードランは、上昇しながらライセル城全体へと声を響かせた。
「マティマナ様の魔法で、核が見えるようになってます! 核を狙えば一撃で消滅させられます!」
法師の声も、全体へと響いた。
あちこちから、騎士たちの歓喜めく声が聞こえてくる。視えた核の攻撃が効いた者たちと、弱点が見つかったことへの歓喜の声だろう。
先程までルードランとマティマナがいた二階の張りだしには、ライリラウンが来ていた。
「攻撃、加わります!」
聖女の杖から、攻撃魔法を繰り出している。細い稲妻のような光が幾筋も、死霊蟲の核を目掛けて放たれる。独特の光を放ちながら、地面を埋め尽くす死霊蟲が少しずつ消滅しはじめた。
法師は、宙を闊歩しながら、やはり雷に似た術を使っている。広範囲の雷では効かないらしく、ライリラウンのように細い光で核を貫く必要があるようだ。
「私も核を狙ってみよう」
城中に響き渡るのはバザックスの声だ。マティマナの作業部屋から、魔石の力で核が視えるらしい。
いくつかの光の弾が核を狙って降り注ぐ。弾は全て死霊の核に命中し、消滅させていた。
「良い感じに移動できてるみたい! 魔法、撒き続けますね!」
かなり上空だ。舞い上がる死霊は今のところいない。城壁から立ち上る魔法陣めく防御の光は、もっと高い位置まで続いて城を取り囲んでいる。
マティマナの混合した雑用魔法は、きらきらと煌めきながら地面へと積もるように下りて行く。
「魔法使いすぎてない?」
移動が軌道に乗ると、ルードランはマティマナから手を離す。矢をつがえ、上空から地上の動きの速い死霊騎士を倒しながら訊いてきた。
「大丈夫です! この魔法は、ほとんど魔気の消費がないです!」
しかし、倒せど倒せど異界棟から湧いてくる死霊の数のほうが勝っているらしい。
地面は常に死霊で埋め尽くされ、騎士たちは死霊蟲や骨剣士や骨戦士に取り囲まれている。
屍術を使う、骨法師も雪崩込む死霊に混じったようだ。
紫がかった闇の力が拡大し、死霊たちに力を与えている。
ときどき、巨大な穴のような闇の術を騎士たちへと放つ。幸い、騎士たちの纏う魔法の外套が、闇の術を弾いて消滅させていた。
「厄介な術を使う者は、先に倒したほうがいいね」
「はい。ですが魔法を当てているのですけど、術に弾かれてしまって核が視えないです」
マティマナが思案気に呟くと、宙を走る法師が聞きつけたようだ。
「雷は死霊を倒すには効きませんが、闇は祓えるかもしれないです」
少し下降した法師が、骨法師の近くで雷技を炸裂させた。
その技で消滅する死霊はいないが、死霊たちを包んでいた闇めいたものが少し消えたように思う。マティマナは、そこを狙って魔法を投げつけた。
「視えた! 今だ!」
ルードランがつがえた光の矢で骨法師の核を狙い、的中させた。パシュっと、闇めいた光を裂くように光が散乱し骨法師は消える。
「凄い! 倒せましたね! 今のうちに、どんどん撒きます!」
「また、術を使う者がでてきたら、同じように雷を掛けてみます」
法師は、宙を移動しながら追い詰められている騎士たちを助けたり、異界棟の様子を見たりしてくれている。
マティマナはルードランの空間から、真下の状況を見ながら魔法を撒き続けた。
ずっずっずっと、嫌な音が響いている。
異界棟から何かが出てきたようだ。
巨大な死霊蟲?
どす黒く、ヒビが紫に発光する大きな蛆蟲系だ。小さい死霊蟲や、骨戦士などを下敷きにしながら地面を這っている。下敷きになった死霊たちは死にはせず、潰れたような状態のまま動きだした。
「あんな大きなもの、どうやって異界通路を通ってきたの?」
「無理矢理に押し込んだのだろうね。他の死霊たちも、圧力で飛び出してきている」
気色悪いし、早く消したい。マティマナは集中的に魔法を浴びせた。しかし、巨大すぎて魔法が核まで届いてくれない。
「ああ、どうしましょう」
それでも、浴びせるしかない。死霊たちは下敷きになっても死なないが、ライセル城の騎士たちは下敷きになったら一溜まりもない。
「その混ぜた魔法、球にできる?」
ふぁさふぁさと羽の音をさせながら、キーラが近づいてきて訊く。
「できるけど、どうするの?」
「口の中に、放り込んでみるわ。口なのかどうか、良く分からないけど」
「そんな! 危なすぎるわよ」
「平気平気。動きは鈍いし、そんなに近づかないから」
マティマナは小さなキーラが抱えられるくらいの大きさに、混ぜた魔法を集約させて球にしてみた。
「あんまり長持ちしないから」
「ありがと! 行ってくる!」
小さなキーラは羽を出すと大きな球を抱えて巨大な死霊蛆蟲へと近づき、挑発する。
クワッと、身を持ち上げ大きく口が開いた。
キーラは、的確に蟲の口中へと魔法の球を投げ入れ、直ぐに舞い上がる。
マティマナが集約させた魔法は、蟲の体内で炸裂した。
「視えた!」
ルードランは、奥深くで鈍く光る核を目掛けて矢を射る。
「さすがね! 倒せたわ!」
気味悪く蠢きながら光に分解されて消滅して行く死霊蛆蟲を眺め、キーラは歓喜の声を上げていた。






