ライセル城への宣戦布告
ライセル城への宣戦布告の声が不気味に響き渡った。異界棟から轟音となって地響きのようにライセル城を揺らしている。
血相をかえたギノバマリサが、転移でマティマナの作業部屋へと飛び込んできた。バザックスも連れている。
「マリサ、ペンダントが……」
マティマナはギノバマリサが首から提げていた宝石に光のヒビが入っているのを見て呟いた。宝石は、砕け、光を放ち、舞い散って消える。
「ええ。こういう時のため、転移に使う宝石魔法なの。使い切りよ」
「凄まじい数の死霊でライセル城の敷地は溢れかえっている」
ギノバマリサの言葉に続けるように、バザックスが告げる。
「宣戦布告の声は聞こえたが、もう溢れているのか?」
ルードランが驚いたような声を立てた。
「異界棟から、爆発したみたいに飛び出してきたようなの。騎士たちは戦い始めてる」
ギノバマリサは蒼白だ。
「棟も封印したのに……」
マティマナは通路の封印が長く持つとは思っていなかったが、異界棟の封印が解けたのは意外だった。
「封印は解けていないです。死霊が大量に集結し、内圧が高まりすぎた勢いのようです」
法師が驚いたように呟く。どれだけの量の死霊が詰め込まれたのか。死霊たちは棟の外へと弾き出されるほど、密集しているようだ。
「今のところ、他の棟や城への侵入はないようです」
聖女の杖を翳し、城の敷地中を状況確認しながらライリラウンが告げる。
「外にいる者は建物へ入り、すべての扉を閉ざせ。城門は直ぐに閉めるんだ。死霊を都に出すんじゃない!」
ルードランの声は、ライセル家の魔法で城の敷地中に響き渡った。迅速に城門が閉められ、城壁からライセル家の魔法が立ち昇って行く。
魔法陣めいた光の結界が上空まで張り巡らされて行った。
「凄い……」
マティマナは窓の外に拡がる、魔法陣の防御に思わず呟く。規模の大きな魔法の結界だ。
だが、護りのためではなく、城内の死霊を外に出さないために張られている。
あふれだした死霊は、城の敷地内にいる者だけで倒さねばならない。
「ディアートは、僕の父上母上と合流して、ライセル城の魔法を強めるのを手伝って」
「分かったわ」
「バザックスも、マリサと一緒に……」
「いえ! バズ様、戦えます!」
ルードランは、バザックスとギノバマリサも、当主に合流させて護りの魔法の手伝いに行かせようとしたが、ギノバマリサが止めた。
「戦う?」
「ああ。以前に義姉上に頂いた『空鏡の魔石』が進化して、空からの攻撃が可能になっている」
バザックスは、ギノバマリサの勢いに押されるままに応えた。
「凄いのよ! 死角になっている場所も、部屋にいながらに空から狙えるの。光の魔法だから死霊に効くはずよ」
「分かった。じゃあ、魔法の攻撃で加勢してくれ。どこだと魔法が使いやすい?」
ルードランとしては、戦い手はひとりでも多いほうが良いのだろう。
「場所はどこでも構わん」
「じゃあ、ここで」
マティマナの作業場は、そのまま戦闘の司令室だ。
ライセル城の敷地はぐんぐん、死霊であふれかえっていった。異界棟からは出ても、他の棟や主城へは入れないようだ。幸い、城壁も越えられない。
舞い上がる死霊は、今のところいないようだ。
マティマナは階段をあがり、二階の張りだしから増えて行く死霊へと魔法を撒いた。骨戦士や武器を持つ骨剣士が闊歩している。
魔法は死霊たちへと降り注ぐ。だが、死霊たちを苦しそうに蠢かせはしたが消滅はさせなかった。地面を埋め尽くす様々な種類の死霊蟲も、ざわめきを増すばかりで消えてはくれない。
「魔法が効かない?」
うそ~! どうしましょう?
マティマナの魔法では倒せなくなっている。
蒼白だ。マティマナの魔法へと対策されているだろうことは予測していたが、実際に、全く効かなくなっている。
死霊たちは、異界棟から次々に城の敷地内に溢れ出してきていた。
「何か、聖なるものへの対策をしてるわよ!」
付いてきていたキーラが騒ぐ。
「でも、マティマナの力が完全に効かないわけじゃないと思うんだ」
張りだしへと着いてきたルードランが呟く。
「掛けまくってみます!」
マティマナはルードランの言葉に励まされ、諦めずに魔法を撒き続けた。
「地道に倒せ! 城壁の外に出さないように気をつけるんだ!」
ルードランから騎士たちへと指令が飛ぶ。騎士たちは、聖なる力を付与した武器で、何回も死霊を突く。時々、急所に触れたかのように光を放って消滅する死霊もいた。
倒すことは可能なようだが、とても手間がかかっている。
死霊が増え密集した場所は、周囲に闇を纏っているのか暗い空間になっていた。地面近くは夜のように真っ暗だ。
戦う騎士たちが近づくと、聖なる身支度から光が流れるように闇を弾く。死霊たちに囲まれた騎士たちは光り輝いているようにも見えた。
死霊からの攻撃は、今のところ聖なる力を付与した防具に弾かれている。
「僕も、少し攻撃してみるよ」
張りだしで弓の形の武器にし、矢をつがえる。ルードランの矢は、ほとんど死霊をすり抜けてしまった。
だが、時々、光を放って消える死霊がいる。
「あ、空からの光の攻撃! バザックスさまですね?」
いくつかの光の弾が降り注いでいた。弾は全て死霊に命中したが、消えたのは一体だけだ。
「何か、異界で戦ったときと変わった部分があるはずだ」
ルードランが呟く。死霊が消えるとき攻撃が当たった場所はバラバラだが、何かに的中した手ごたえのような感覚が視てとれた。
「……聖なる攻撃を弾く術が埋められているのだと思うのだけど」
たぶん、それに命中したときに消滅しているような気がする。
消滅する前に、その術の形を見定められないだろうか?
「消滅させるのではなく、術の塊みたいなものを取りだせれば良いのかな?」
ルードランは、マティマナの形にならないような思考が分かるらしく、何か試しはじめた。
つがえた矢が、攻撃とは違う動きで闊歩する何体かの骨騎士に当たる。
そのうちの一体から、拉げた悲鳴が聞こえ、何かが骨の間から転がり出てきた。
その骨騎士は、別の攻撃に当たるとあっけなく消えた。
転がり出てきたのは禍々しき玉。
マティマナは、その不浄の玉を二階の手元までゴミとして浮かべさせる。ゴミ箱に放り込まれる前に、魔法の布に包んで掴んだ。
「これ、かな?」
呪いの品とは、全然別の忌まわしさ。聖なる力を弾く膜を張り、死霊の効果を高めるような、そんな品だ。闇の力を、どんどん増幅している感じがしている。
「何か、見つかったかい?」
「たぶん、全部の死霊の滅茶苦茶な場所に、これが埋めこまれているのだと思います」
魔法の布に包んだ死霊の玉を見せた。小さい蟲には小さい玉が入っているのだろう。
どこに埋められているのか分からない。何度も攻撃するうち、偶然当たれば倒せる、という感じだ。
「聖なるものを弾く核のようなものかしら? 元々死んでるから、魂魄擬きが入れられてるのだけど……、それを強化して核にしたのかも」
キーラは何か方法はないものかと、一緒に考えてくれている気配だ。
「なんとか、みんなに視えるようにできないかしら」
探し物の魔法で、この玉を探せばいいのかな?
マティマナは、探し物として玉を設定し、探し物の魔法を広範囲に撒いてみた。それだけでは、効かなそうだ。
裁縫の印付けとか? 縫い代を記す……なんて、使ったことないけど。
色を付けるなら他にはなさそうかな?
マティマナは思案しながら、裁縫系の印付けを探し物の魔法に混ぜて撒いてみる。
「あ、何か見えるようになってきたよ!」
「視えてる! 核よ!」
ルードランとキーラが弾んだ声を立てた。
核は、変な闇色で鈍く紫に発光している。
「それです。たぶん、弱点!」
それを狙えば、聖なる力が触れただけで消滅させられる!






