公爵家の封鎖
異界通路を塞ぐために、マティマナはルードランと法師に付き添われ螺旋階段を眺めていた。
小さなキーラはすぐに戻り、もの凄い速度で通路から飛び上がる。
「国境は破られたわけじゃないけど、守る者が皆無よ。だから、死霊たちが次々に乗り越えて来てる」
緊迫した声でキーラは告げた。あっという間に、国境まで偵察に行ってきたようだ。
「死霊たち……蟲ばかりじゃないのよね?」
違う形の死霊もいるらしいことは、公爵からの報告を聞いていて気づいていた。
「そうね。人型というか、骸骨系が多い印象よ。蟲は、気味の悪いのが増えてる」
墓荒しが増えていたようだから、墓から掘り出した骨を死霊使いの術で動かしているのだろう。小さな蟲の類いばかりでは、城を包囲することは難しい気がする。
「広場は占拠されてるのかな?」
ルードランは気掛かりそうに訊く。国境が破られはしないものの護れていないなら、異界通路のある広場はベルドベル国の手に落ちたも同然だ。
「それが、今のところ通路は無視して公爵城に取り付いてる感じなの。公爵家の方々は、城が取り巻かれて、外に出られないみたい」
通路に繋がる広場は、まだ占拠された状態ではないらしい。
「応戦しているのかしら?」
「今のところ、倒せてはいるようね。でも、倒す速度が落ちてるかも」
城は取り巻かれているらしいが、公爵領は平気なのだろうか?
「公爵を完全に動けなくさせたいのでしょう」
法師は深刻そうに呟く。
「その後に、国境から広場に集結させた死霊を送り込んでくるつもりでしょうか?」
「互いに援軍は送れない、ということだね」
公爵のことは気掛かりだが、今はライセル城を護るほうが先決だろう。
「とにかく、通路を塞ぎます」
マティマナは告げるものの最良の方法かは分からないので、不安でいっぱいだ。
「ええ。塞いでも公爵家や第二王子との連絡は可能だから」
キーラは頷きながら勧める。
もう、転移を応用した連絡網は出来上がった。
転移を使うには、通路を往復する必要があるから、往復した書簡を再利用する。
一度も往復していない者や品は、転移で送ることは不可だ。
「何人か、残ってしまったね。急いで帰るなら今のうちだけど」
異界棟の上階には、ガナイテール国の者たちが滞在している。
「こっちに残りたいらしいわよ」
キーラは事情を知っているようだ。
「戻っても公爵城に入れないし、今からでは危ないです」
マティマナは呟く。
「通路を封じて、この異界棟自体も封じましょう。異界からの方々は、他の棟に移動してもらいます」
法師は、マティマナを促すように告げた。異界棟自体を封じるなら、通路の封じが解かれても時間は稼げるだろう。
マティマナは、灰鉱石を使って造った大きく厚い魔法の布を、通路の穴に乗せた。絨毯のような感じだ。床に接する部分は、タップリの魔法の糊で接着する。その上から、聖なる魔法を何重にも振りかけた。厚い布は新たな魔法の力で、固い石板のように変わって行く。
「気休めにもなりませんが」
マティマナは、これで封じることができたとは、とても思えず呟いた。
「聖なる力が強いです。簡単には破れません」
法師は勇気づけるように声を掛けてくれた。
「棟も封印するから、充分だよ」
ルードランは、安心させるように言ってくれるが、異界棟周辺での戦闘は覚悟しているようだ。
聖なる効果をつけた武器と防具、更に聖なる外套をまとった騎士たちが多数、異界棟の周囲で見張りに立っている。
異界棟の中に居た者は、法師が別の棟へと転移させた。
外に出るとマティマナは扉や窓を中心に、異界棟の全体に灰鉱石を使いながら魔法を撒く。
法師は法師で、封じる術を重ねた。
ベルドベル国の死霊たちが攻め込んでくるのを待機する状態だ。待ちたくはないが、公爵城は包囲されてしまい、流入してくる死霊たちは野放しだ。遅かれ早かれ、必ず異界通路を下って来るだろう。
待機中だからこそ、マティマナは魔法の品を造り続けていた。魔法の力の消費は少ないし、すぐに回復できる量での作業だ。
ライリラウンは鑑定をしながら、転移を習得中らしい。難儀している。
「転移なんて、見当もつかないのよね」
マティマナは、色々試している気配のライリラウンへと呟きを向けた。
「あれ? でも、マティマナは、ゴミとか皿とか、物は転移させていたね?」
近くの椅子に座っていたルードランがマティマナへと訊く。
「あら? そういえば。え? あれって転移させてるんですか?」
ゴミ捨てし、皿の回収をして厨房に届けたり。片づけをしているだけで、転移させている、という認識はなかった。
「一瞬で棚の収納を整えるのも、物を転移させているような気がするよ?」
ルードランは愉しそうに笑みを向けてきた。
片づけだと認識していたが、物の転移をしているらしい。
「今度、ゴミや食器以外でも試してみようかしら?」
会話しながらも、いつ攻めこまれるか冷や冷やビクビクしている。
ただ、独り囚われるのとは今度は違う。頼もしい者たちに囲まれている。
ひらりと、キーラの羽が舞い降りてきた。マティマナが作業する霊鉱石の魔法を浴び、小さく可愛らしい羽は、一気に兇悪な武器めいた。
緑から橙色に色合いを変えて行く羽そのままの色。聖なる槍?
「ああっ、わたしの羽が武器になったわぁぁぁ! なんて綺麗なの~!」
キーラは感激した様子で、ふるふると身体を揺すり次々に羽を落とした。
武器に変えてほしいらしい。
マティマナは、どんどん霊鉱石の魔法を浴びせて行く。
「一旦、聖女マティの魔法を浴びたから、羽が強化されてるみたいね」
キーラは嬉しそうに声を上げている。
羽は、色とりどりな羽色に合わせ、様々な形の武器になった。切れ味が鋭そうだが、聖なる力に特化しているようだ。
「吃驚ね!」
マティマナは優秀そうな武器に驚きの声を上げた。槍の類型が多いが、様々な形の装飾的な剣も混じっている。
「聖霊魔槍や、聖霊魔剣、といった呼び名のようです。聖なる力の攻撃力がかなり強い武器になっているわね。武術に慣れてなくても使えるみたい」
ライリラウンが鑑定して教えてくれた。何やら強そうだ。
「この調子だと、なんでも武器になっちゃうのかしら?」
マティマナは驚きながら呟く。花は装飾品の形が多かったが、霊鉱石で造ったものは、聖なる攻撃魔法を発動するものが多い。
「神獣とかの髭や、脱皮した爪や皮なんて、良い武器や防具になりそうね!」
キーラは弾む声ではしゃいでいる。
「羽の武器は主城の護りをする者に、配っておこう」
ルードランは、キーラの許可を得つつ、決めたようだった。






