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【完結】転生した私は乙女ゲームのヒロイン役から逃れたい  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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第五話 ヒロイン役から逃げたい私は、イベントを躱します①

二話目

 攻略対象のイベントが始まるのは二日目からだ。この日はオリエンテーリングで一年時に必要な単位や授業の選択をして終わる。日本でいう大学みたいなものだが、正直選択をできる程授業はない。

 日本とは違い授業数は少ないので、学園一年生は大体が同じ授業を選択し、二年次からそれぞれの科--軍人を目指すなら軍部科、魔道士を目指すなら魔道科、王子や側近、貴族長男なら政治経済科、貴族令嬢であれば淑女科--に別れて授業を選択するのである。


 ゲームではオリエンテーリング後にミリアに誘われて、食堂で昼食を食べた後寮に戻るのだ。その時に攻略対象である三人に出会う。


攻略対象の三人とは、この学園の二年生である第二王子のナルディス・アルセレス殿下。


そして宰相の令息であるボリック・ルーゲン公爵令息。


最後に大将の令息であるノーキン・ウィーマ侯爵令息。


 主人公とミリアが二人で歩いていたところ唐突に烈風に煽られ、主人公の持っていたハンカチが空を舞ってしまう。そのハンカチを拾うのが第二王子とその横に侍っているのが二人である。ベタなシーンだ。


 予想通りオリエンテーリング後、彼女が私の側に訪れる。

 今朝同じ時間に学園に入った事で、仲良くなったからミリアから誘われた……という設定だったはず。


「レクシーさん、もし宜しければお食事は如何ですか?」


「ええ、是非」


 本当はここで拒否しておくのが一番なのだろうが……流石にここで拒否すると不審がられるのでは無いか、と考えた。それに丁度お腹が空いていたので、誘われるまま食堂に二人で向かった。


 食堂の食事は自身で好きな食事を選べるビュッフェスタイルだったが、男爵家より良さそうな料理だ。流石、王家や公爵家も通う学園。

 強いて言うなら、食事は美味しかったがデザートが少し物足りない。ビスケットやクッキーなどの焼き菓子が多く置かれていたが、私としては生クリームの乗ったケーキが食べたいな……なんて前世を思い出したものだ。甘いものが好きでよく食べていたからなぁ。特に好きだったチョコレートは無いらしく、それも残念だった。


 一回口を付けると、今世で食べてきた食事は何だったんだ、と思うほど美味しかった。男爵家に半年間いたが、男爵の指示なのか……明らかに私と男爵一家との食事の質は異なるものだった。だた、孤児院での食事に比べれば、豪華だと思うし美味しかったから文句はない。


 ちなみに、その事に気づいたのは男爵夫妻が社交パーティーでおらず、初めてお兄様と二人で食事を共にした時だ。明らかに差別されている私を見て、「私の食事をレクシーに」と言って、料理を交換してくれた。夏休みの間は、男爵夫妻の目が届かないところで、お兄様は私に優しくしてくれたし、実は私の知らないところで料理についても抗議してくれたらしいのだが、男爵は聞く耳を持たなかったらしい。


 男爵と一緒に食卓を共にしたのも、「学園に入学するように」と言われた日だけだったし、男爵夫人とは一度も食卓で顔を合わせたことがない。養子と言ってもそんな扱いだ。


 そんな事を頭の隅で考えながら、ぼーっと食べていたからか……全くミリアとの会話が弾まない。私が元々喋る気が無いのと、自由気ままに一人が好きなタイプだから話しかけようとしないのがそもそもの原因だろうが、ミリア自体も話が上手なわけではないらしい。


「レクシーさん、ここの食事は美味しいですね」


「ええ、本当に美味しいですね」


 食事中の会話はこれだけである。ゲームのムービーでは和気藹々と仲良く会話している様子が描かれていたはずだが、今の現状は第三者から見ればお通夜のように見えるかもしれない……、この世界にお通夜があるかは知らないけれど。


 そんな静かな食事が終わり、案の定彼女は寮に帰宅しないか、と私を誘う。 が、ここは断固拒否した。


 食事の後は三人の攻略対象との出会いイベントが起こる可能性が高かったから。

 流石に王子達に会う現場に行きたく無いと言えるはずがないので、「本を探しに行く」と言うのを口実にした。家庭教師の授業の最終日にアナベル先生が、「この本を借りると良いわ」とメモに残して置いていってくれたため、折角なのでその本を読んでみようと思ったのだ。

 

アナベル先生曰く、その本は一年次の内容を網羅しているらしい。私の実力ならその本はもう理解できるはず、と先生に言われたので、予習を兼ねて読んでみようと考えている。


 最初は渋って私を誘っていた彼女も、寮に一緒に帰る理由が見つからなかったらしい……いくらなんでも、「王子達に会いたいから」とは言えないだろうし。彼女は結局一人で寮に戻る事したようだ。そこで別れた私は、三階にある図書室へ向かった。


 図書室は閑散としていた。カウンターに座っていた図書委員の男性と思われる人が不思議そうな顔をして声をかけてきたので、新入生である旨と本を探しにきた旨を伝える。その男性は目をまん丸にして驚いていたが、すぐに図書館の使い方を教えてくれ、ついでにメモに書かれている本のある場所に案内してくれた。

 

 案内してくれていた最中、人が少なかったからか彼が驚いた理由を話してくれた。ただでさえ試験期間以外は訪れる人が少ない図書館に、新入生が、しかも入学して二日目に訪れたことに吃驚したそうだ。その人は本を私に渡すと、カウンターに戻っていく。


 探していた本が見つかったので読もうと席に座り、ふと窓に目線を下ろすと見慣れたブロンドのふわふわとした髪と大きなピンクのリボンが目に入る。彼女、ミリアだろう。

 不意に彼女のことが気になり目で追っていると、急に春一番のような突風が吹き荒れ始め、彼女の手から何かが飛んでいく……あれはハンカチだ……。

 突然の事に目を見張っていると、そのハンカチを拾い上げる人が。拾い上げた人の後ろに二人控えているのだが、片方がアイボリーブラックに近い髪色だ。ゲーム内で黒髪なのは宰相の息子であるボリックだけであり、彼の母は他国から嫁いだ黒髪の女性だったはず。だからこの国で黒髪は珍しい色とされている。と考えると、イベント通り拾い上げたのは第二王子のナルディスだと思われる。


「もしかして、ヒロインがいなくてもゲームの強制力があるのかしら‥…」


 思わず口に出た言葉に驚いて、とっさに口元を手で覆う。誰かに聞かれていないだろうか、と目だけを左右に動かして確認し、問題なさそうだと判断した私は気づかれないように胸を撫で下ろした。


 ……しかし、まあ。偶然、だとは思うけど。偶然にしては出来すぎていない?……もしかして彼女がイベントを偶然再現したのかしら?と頭が混乱したが、これだけではイベントが行われたのかが判断できない。

 だが、実際ハンカチを拾い上げた王子がミリアと笑顔で談笑しているように見える。何を話しているかが分かれば、イベントかどうか判断できるのだが、窓を開けて魔法を使うわけにもいかない。


 もしあれがイベントなのだとしたら……ここにいる時点で一先ず私はヒロインのルートから抜け出せた可能性が高い。この後の帰宅途中に三人に会わなければ、私は初めてのイベントを回避したと言う事で問題ないはずだ。……はずだよね?


 だが、彼女(ミリア)が出てきた事で状況が変わった可能性もある。ヒロインである私に変わって、彼女がゲームを進めることになったら……。彼らの内の誰かのルートか、今ここには居ないが攻略対象の一人である保健室の先生ルートか、もしくは逆ハールートか。もし彼女が今後もイベントをこなしたとして、どのルートかを判断できるのは、私だけだろう。


 平穏無事な生活を送りたい、その想いは変わらない。けれども、国のトップが色仕掛けやゲームの強制力で男爵令嬢であるミリアに入れ込み、そして婚約者にゲームと同じように婚約破棄を突き付けたら?……そんな第二王子が戴冠したら?


 そんな彼の治世の事を考えると背筋が凍るような感覚に陥るが……正直この初回のイベントだけでは判断が難しいので、まずは私がイベントを回避する事に専念しようと思う。


 私は本を借りる手続きをして、緊張の面持ちで寮へと戻る。幸いな事に、道中攻略対象の三人と会うことはなかった。私は乙女ゲームの出会いイベントをまず逃れる事ができたのだ、と寮の自室に戻った瞬間安堵した。


 ミリアの様子は気になるが、この調子でイベントを回避しよう。そう私は心に決めた。

 次話より短編の続きとなります。

続きも楽しんでいただけると嬉しいです!

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