第四話 ヒロイン役から逃げたい私は、準備万端で学園に向かいます
本日は短編の内容である第五話まで更新します。
一話目
その後も暇があればお兄様とお茶を飲んだが、お兄様は学園の三年生である。日本で言う夏休みらしき長期休暇が終わると、学園寮に帰っていた。その後は、お兄様との文通を通して学園の知識を増やしていく……お兄様の手紙のお陰で思い出した事も多々あったので、そこは感謝しかない。思い出したら、本に日本語でまとめておいた。
そしてお兄様が学園に戻って半年が経っただろうか。入学の時期になる。
メアリ先生からは、「よく頑張りました!これなら社交界へ出ても良いでしょう」と、アナベル先生からは、「あとは学園で学べば問題ありません」と二人からお墨付きを貰った私は学園へ向かう。学園は寮に入るとのことなので、もうこの家とはおさらばだ。
馬の足音が止まり、私は手に取っていた冊子をパタン、と閉じる。
そう言えば、この場面はオープニングにあったな、と気づく。ゲームでも主人公は本を読んでいた……そして、私がこの後馬車を降りると同時に、隣の馬車から主人公をフォローするためのサポートキャラであるミリア・ベイリー男爵令嬢も降りてくるのだ。
乙女ゲームのルートを避けるにはミリアと会わなければ良いのでは……と考えたのだが、お兄様に聞いたところ初日は爵位が低い者から着席する、というのが暗黙の了解らしい。暗に馬車を早める事は出来ないか、とお兄様に聞いたところ、困り切った顔で愛想笑いを返されただけだった。
しかもその話を聞いていた男爵が眉を顰めてこちらを見ていたので、このシーンを回避するのではなく、再現にならないように着ていく服の色を変える事にした。些細な事かもしれないが、気持ちの問題だ。
冊子を鞄の中に入れ、御者の手を取り馬車から降りる。そして手前を見るとミリアと目が合ったのだが、彼女がポカンと口をあんぐりと開けている。
……もう少し顔色を隠す事は出来ないのかしら……仮にも貴族でしょう、とため息が出そうになるのをグッと堪えた上で、よそ行きの笑顔を貼り付け続ける。
そんなにドレスが似合わないのだろうか?いや、それはない。流石にドレス姿が滑稽であれば、お兄様が止めるはずだ。仮にも私は男爵家の一員なのだから、格好が悪ければ私も含めた男爵家の評判も落ちる。そもそもこのドレスはお兄様が用意してくれたものらしいから、問題があるはずがない。
と考えると、可能性は……うん、彼女もこの世界が乙女ゲームなのを知っているのかもしれない。
彼女が驚いた理由は、私の身なりがゲームとは違うからだと推測できる。
ゲームのヒロインはピンクのふわふわした、いかにも可愛らしさをアピールするようなドレスを着ていた。だが、そんなブリブリのドレスを着れるのか……いや、着れるはずがないから!やめてくれ!と思った私は、少し前に流行った青色のドレスを仕立ててもらっていた。侍女からは、「ピンクのドレスを!」と目を輝かせて切望されたのだが、断固拒否したのだ。今思えば、これもゲームの強制力だったのかもしれない。
本当はここでミリアから声が掛かるのだが、彼女はこちらを見て固まったまま微動だにしない。見つめ続けているのもどうかと思い、私は何食わぬ顔で彼女に声をかけた。
「初めまして。今年学園に入学予定のレクシー・ムーアと申します。どうかお見知りおきください」
「え、ええ。ミリア・ベイリーと申します。よろしくお願い致します。も……もし宜しければ、ご一緒しても?」
「ええ、勿論ですわ」
彼女はそのままゲームのシナリオ通りに動く事に決めたらしい。動くのは良いのだけれど、引き攣った顔を早く直すべきではないかしら?と思いつつ、私も学園に足を踏み入れる。ゲームではミリアが話しかけ、それに主人公が答えるという会話をしていた様子が描かれていたが、目の前の彼女は実際に何を話せば良いのか考えていなかったのか……驚きすぎて頭が真っ白なのか。ニコニコと表面的な笑顔を崩さない(ように心掛けている)私をちらちらと見ては、何かを言いかけようとして止めるを繰り返す。
あまりにも同じ事を繰り返すので、眉を下げて困った顔で「何か顔に付いていますか?」と聞くと、横に首を振る彼女。そこで話す内容を思い出したのか、彼女は吃りながらも私に話しかけ始めたのだった。
さて、ここから本格的に乙女ゲームに入る。ここからは将来の平凡平穏な生活のために、乙女ゲームのイベント、フラグを全力を以て潰す。そう決意を新たに私は一歩足を踏み出した私だったが、まさか想像だにしない方向へ進んでいくとは……この時は思いもしなかった。




