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第三話 ヒロイン役から逃げたい私は、お兄様と仲良くなりました

 本日は一話のみ更新です。

短編には無い内容となっています。


 ある日メアリ先生の講習が午前中で終わり、一息ついていた。その日もいつもの様に、授業が終わった後すぐに復習に取り掛かろうと思ったのだが、メアリ先生から「今日は休みなさい」と授業内で復習の時間も取ってもらえたため、午後はお言葉に甘えてゆっくりする事にした。


 自分で言って良いのか分からないが、メアリ先生やアナベル先生曰く、私は出来の良い生徒らしい--もしかしたら、社交辞令かもしれないが。まぁ、私も予習復習を欠かさず取り組んでいるので、私にしてはよく出来ているのでは?と自画自賛している。予習復習をしていると、生前の学生時代を思い出したが、ここまで頭が良い訳では無かったはずだ……多分主人公のスペックが高いのだろう。


「貴族って覚えることが多いのね。大変だわ」


「本当ですか?お嬢様を見ていると、そんなに大変そうには見えないですけれど……」


「大変よ。相手によって礼儀作法を変えないといけないなんて……貴族の顔と名前を一致させないといけないし。私は顔と名前をきちんと暗記できるかしら……?」


「お嬢様なら出来そうですけどね」


「そんな事ないわ。買い被りすぎよ」


 今は庭園で侍女のゾーイに紅茶を入れてもらっている。ゾーイはムーア男爵が贔屓にしている商会の会頭の三女であるが、商人という職業が合わないらしく、以前から侍女としてムーア家に勤めていたそうだ。最初は必要最低限しか話していなかったが、私が「話し相手になってくれ」とお願いしたところ、彼女からも話しかけてくれるようになった。


 そんなゾーイと二人でティータイムを送っていたところに、コツコツと石畳の上を歩く音がする。この音は多分--


「レクシー!ここに居たんだね」


「マーク様!」


 今世も平民である私はどうしても彼を言葉では義兄とは呼べず、名前に様付けになっている。茶髪にエメラルドの瞳、そして男爵の息子とは思えないスタイルの良さと顔立ち。ちなみに男爵は顔も身体もふっくらとしているが、奥様が細身なのだ。瞳や髪の色は男爵と同じで、体型は奥様からの遺伝だろうか……いいとこ取りで羨ましいものだ。


 私がこの家に来る前から、学園は夏休みらしくマーク様は家で過ごしている。寮で生活することも可能なのだが、彼は領地経営の勉強と王宮で見習いとして勉強をしていることもあり、王宮に近い男爵家に帰ってきているとのこと。伝聞である理由は、彼から聞いたのではなく、ゾーイが教えてくれたからだ。マーク様を含めた男爵家の事は大体ゾーイに聞けばわかるのである。


「マーク様、今日は王宮に呼ばれているとお聞きしましたが……」


「ああ、午後からの予定が急遽取り止めになってしまってね。やる事もないし、帰ってきたんだよ。レクシーは休憩中かい?」


「はい。メアリ先生から、今日は休むようにと仰せつかったので……」


「そうだね。レクシーは頑張り過ぎているからね……折角だから、僕も良いかな?」


「是非。ご一緒させてください」


 ゾーイが入れてくれた紅茶を飲みつつ、穏やかに時は過ぎていく。マーク様はメアリ先生やアナベル先生と顔見知りらしく、彼女たちの話から派生して私の勉強についてだったり、マーク様の学園生活についてなどを話していく。ついでにゲームでも学園の様子は描かれていたので、不審に思われない程度に尋ねていく。 マーク様の話を聞き、「やはりゲームの舞台である学園だ」と改めて確信した。

 

……そこで話しているマーク様を見てふと思う。

 乙女ゲーム内のマーク様と主人公は、仲が良かったような描写はなかった。本編でもマーク様はほぼゲームに出ることなく、最後の断罪の時にチラッと描かれていただけに過ぎない所謂モブ役だったはず。


 しかし今は、顔を合わせれば挨拶をしてくれるし、こうやってお茶を飲むくらいは仲良くなっている。これもゲームとは違うのかもしれない。


--それにこんな美形の兄が出来るなんて最高よね!!!!!

 

 イケメンは側から見ているだけで癒しである。私の癒しが、こんなに近くに居てくれるなんて夢のよう。


 なんて、ニコニコと……内心ニマニマと笑っているところに、マーク様から声を掛けられた。


「そう言えば、レクシー。少し気になっていた事があるんだけど良いかな?」


「何でしょうか、マーク様」


「レクシーは、何故そんなに必死になってマナーの勉強をしているんだい?ある程度覚えていれば、学園でも通用すると思うよ」


 男爵が「学園に入学するように」と命じられた日のことである。確かにあの日、マーク様は目を見開いて驚いていた。……まあ、普通は「勉強したいです」なんて言わないよなぁ、と思いつつもその問いに答える。--勿論、「攻略対象に目を付けられたくないから」という本当の理由は隠すが。


「貴族の武器は学問とマナーだから、しっかりと学びなさいと、聞いたからです」


「……誰からかな?」


「孤児院の院長先生です。私が男爵家に引き取られる事が決まった際に、色々と教えてもらいました。その時に最低限の読み書きと計算だけでなく、「貴族とは何か」と言う事も説明してくださいました。その時に、貴族の武器は学問とマナーだ、と聞いたものですから」


 この事は事実である。ただし、その時は、「ふーん、そうなんだー」と話半分に聞いていた感は否めないけれど……

 少し強引な言い訳かな?とも思ったのだが、この説明にマーク様は納得したらしく、笑顔で頷いていた。


「そうだったのか。それで頑張っているんだね……メアリ先生もアナベル先生も、僕が研修で王宮に勤めていた時にレクシーのことを話してくれたんだよ。『妹さんは優秀ですね。これなら他の貴族に引けをとりません』って。僕はこんなに可愛くて努力家の妹が出来て嬉しいよ!……だからそんな他人行儀な呼び方じゃなくて、レクシーが良ければ僕のことを『兄さん』って呼んで欲しいな。ダメかな?」


 只でさえ美形のマーク様。そんなマーク様が首を少しだけ傾げて、これで落ちない女性はいないだろう……と思うくらいの笑みを湛えて私に笑いかけてくる。そんな笑顔でお願いされて、断る女性がいるだろうか?いや、いない。


「わ、分かりましたわ……お兄様」


 改めてマーク様をお兄様と呼ぶのは照れ臭かった。なので彼の顔を伺いながら、私は思い切ってお兄様と呼んでみると、彼はニコニコと向日葵のような笑顔を私に魅せる。

……心の中で「美形は癒し!」と叫んでいる。彼の微笑みを私は見つめながら、叫び出したい衝動を抑えるのに必死だった。

 

 読んでいただきありがとうございます。

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