タンポポちゃんと三咲.END
「あとはリアの虐めの問題ね」
「あ……」
契約書作成後。ミサキの言った言葉にサブナリアはビクッと身体を強ばらせた。
「その事は僕が――」
「当たり前でしょ?でも、リアの心も関係してくるのよ。今の弱い心のままじゃ、次期王妃なんて務まらないわ」
「じ、次期王妃って!」
おそれ多いと言わんばかりにサブナリアが声をあげるが、
「リア。貴方の恋人は王太子よ。次の王であることは、へまをしない限り決まってることなの。だから、リアにもそれなりの心を身に付けてもらわないと」
「・・・」
ミサキは真剣に言葉をかえした。
「どうしてそこまでサブナリアによくしてくれるんですか?」
「初めてリアを見たとき似てると思ったの。私、元々お姫様の侍女をやってたの。
その時、陰湿な虐めにあってたお姫様とリアが重なったのよ。だから、助けたってわけじゃないけどね。でも、これから王妃になるのだから、王妃がどれだけ大変かを知っているから手を貸したいなと思ったのは今よ。半端な心じゃ勤まらないし、マナーや知識がないと、リアが辛くなるのよ」
「・・・」
「大丈夫よ。半年もあれば、そこそこ身に付けられるし、貴方とリアが結婚するまでには立派な王妃様にしてあげるから」
「あ、ありがとう、ございます?」
「いや、サブナリア。教育はこちらで用意を――」
「今の王妃様が快くリアを受け入れるとは思わないわ。貴方がやるのは陛下の説得でしょ?陛下のご命令ならば王妃も逆らえないわ。それにリアは聖女よ」
子爵の娘が聖女と呼ばれる魔法使いであったことも、サブナリアが虐められていた原因のひとつであった。
「……確かに」
「それじゃあ反逆者達!頑張りましょう!!!」
「物騒だな!」「物騒です!」「ミサキさんっ!」
「えー。なら、下克上?」
「ダメだ!」「やめてください!」「ダメです!」
こうして4人は自分達の目的のために行動を開始した。
デザロはより信頼が厚い留学生達に、ジューデンとサブナリアの祝福を援護するための根回し。
ジューデンは母親である王妃に悟られぬように、陛下にサブナリアの事を受け入れるように直談判。
幸い王家の魔力の高いものとの婚姻にリアは当てはまる。
ミサキは頻繁にサブナリアの家へと入り浸り、家庭教師のタダン・マッカードと共にマナー・所作・知識・ダンスを叩き込んだ。
そして束の間の休憩時間。
「うぅ、足が痛いです……」
「靴擦れね。ほら。なおしてあげるからこっちに来て」
「はい……」
ミサキもサブナリア程ではないが、なおす魔法が使えた。
「ありがとうございます……」
「どうしたの?暗い顔して」
「私、覚えが悪くないですか?」
サブリアナは俯き、このままではジューデンに迷惑をかけてしまうと、それならいっそこんなことをやめてしまえば……と考えそうになった。しかし、ミサキのハッキリとした答えをサブリアナにいった。
「悪いわよ?」
「うぅ……」
「でも、出来ない訳じゃないんだからいいのよ。自分の覚えられる速度で覚えれば」
「ミサキさん……」
少しだけ励まされたサブリアナ。
そんなサブリアナを見てミサキはあることを思い出す。それは故郷ヤマトにしかないものだった。
「・・・貴女に似た花の名前を思い出したわ」
「え?私に似た花?」
「えぇ。タンポポと言ってね、どんなに踏み潰されても、また立ち直って太陽の光を浴びようとするのよ」
「凄いですね」
「リアに今必要なことね」
「私に?」
「えぇ。どんなにくじけても、目標に向かって迷わず伸びて、花を咲かせて、いろんな人に貴女の心を届けるのよ」
「迷わず……」
「そうね、それが出来るまでは『タンポポちゃん』と呼ぶことにするわ。インベルージュにもリアと呼ぶなって言われてたし」
「それはっ――」
「これからも頑張りましょうね?『タンポポちゃん』」
「うぅ……いつか、絶対またリアって呼んでもらいますからね!!」
「タンポポちゃんの頑張り次第ね」
こうしてリアはミサキから『タンポポちゃん』と呼ばれるようになった。
それからリアはジューデンの王の隣に立ち支えるだけのマナーや知識をミサキや、ミサキが寄越した教師に教え込まれた。どんなに苦しくとも泣き言を吐くことがあっても、決してやめようとは言わなくなった。
ジューデンが王になりサブリアナが王妃となってようやく『タンポポちゃん』からは解放され、サブリアナは再びミサキからリアと呼ばれるようになったのだが、弱気になったりするとまた名前を呼ばれなくなってしまうので、それもまたサブリアナが王妃としての心構えを促進させた。
ジューデンが王となったことで約束を果たさせたミサキとテザロは、貴族の世界で生きるのはしょうに合わないと爵位を返上した。
サブリアナとミサキ、2人の間には身分差が生まれてしまったが密かにあったり、手紙を交わしたりと仲の良さは変わらなかった。
その間には子供が生まれたり、孫が生まれたりと忙しい時期もあり、会うことも手紙の頻度も年と共に減っていったが、2人が友であることは生涯代わりはなかったという。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




