筒井
目が覚めた時、辺りは朝焼けがもたらす清浄な空気で既に満たされていた。
この社が山のなかにあることとも関係するのだろう。
その清々しさに包まれると、夕べの昔語りは夢のことにも思えた。
簡単に身支度を終え、高麻呂に見送られつつ、その場を去ろうとする時、真雪は、ふとあるものに目をとめた。
今まで気づかなかったが、手水所の陰に隠れるように、ひっそりと筒井があり、小さな釣瓶が縄にかけられている。
真雪の視線に気づいた高麻呂が言った。
「あそこの井戸は、地下の水脈に続いているのです。その水には、変若の力があるとか」
「玉かずらの力と同じだな」
真雪が呟くと、
高麻呂は頷いた。
「この社の玉かずらは、筒井の水が結晶化したものだと言われています。
そしてそれは、この地に宿る神霊と、その意思を汲む巫女姫のものでした」
「この地に宿る神とは……」
真雪が尋ねると、高麻呂は厳かに言った。
「白い龍神です。
私の言う月代の大蛇とは、その龍神の異名。
畢竟、筒井は、龍穴と繋がる場所でした。私は、この地に宝珠である玉かずらをお返ししたいのです。そうすれば姫君も、『月読』から解放されるでしょう。それにはあなたの力が必要なのです」
改めてそう言われ、
真雪は身が引き締まる思いがした。
そして予想以上に、その姫君の置かれている立場は、特殊なものかもしれないと思うのだった。




