表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朔姫  作者: 星 雪花
PR
22/56

夕暮れの家屋


教えられた通り山を下り、若狭街道に出て八瀬を抜けて行くと、大原の地はほどなく見えてきた。


(すすき)が一面に生い茂っている。

これが照臣ならば、こんな辺境に人知れず幻の姫君が住んでいると聞けば、胸躍らせて忍んで行くのだろう。


だが、今となっては、もうその場所に姫君がいるはずもない。

しかし高麻呂が言うように、まだ誰かが残っているのなら、当時の話を聞くことはできるだろう。


馬に揺られながら、

真雪は、こんな風に時間を費やしている自分をどこか不思議に思った。


あの夢のせいだ、と真雪は自覚する。


あの姫君が、あんな風にひとりで泣いていた理由を、真雪は知りたかった。

そして今も窮地に立たされているのなら、力になりたい、と。

それは、普段公務に励んだり、武芸を磨くのとは違う感覚だった。

もし自分にできることがあるなら、それを差しだしたかった。

それができた時、真雪は今までとは全く違う地平に立てる気がしたのだ。




高麻呂に場所を聞いていたこともあり、真雪はやがて桧垣(ひがき)をめぐらせた屋敷に見当をつけると、その隙間から、なかを垣間見た。


幸いなことに、

桧垣のそば近くには、大きく簀子縁が張り出されており、白と薄い縹色の尾花に重ねた袿を着た(おみな)が縁側で寛いでいるのが目にとまった。


ちょうど日の暮れかかる時刻であり、夕闇に混ざって、顔はよく見えない。



昔男で有名な雅男(みやびお)なら、こういう時、和歌のひとつでも従者に持たせて届けさせるのだろう。

だが生憎、携帯できる筆筒(ひっとう)や和紙の準備などない。代わりに、身には太刀を帯びるばかりだ。

やはり邦光を連れてくるべきだったかと、一瞬だけ真雪はそう思った。



次第にそうしているのももどかしくなり、無理を承知で押し入ろうかと考えあぐねていると、簀子縁から怯えるような、女の声がした。



「誰かいるのですか」



こうなると、真雪も呼びかけに応じないわけにもいかない。

思い直って、桧垣ごしに答えた。



「右兵衛佐真雪と申します。月影神社の宮司、高麻呂殿にこの場所を聞いてやってきたのです」



その名を出そうか真雪は迷ったが、

女性はそれを聞いて、少しだけ警戒を緩めたようだった。



「讃岐の高麻呂殿の……」



口のなかでそう呟くと、改めて真雪に言った。



「家人も少なく狭いところですが、よければお入り下さい」



真雪はその言葉に甘えて馬を繋ぐと、

門のなかへ足を踏み入れた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ