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赤い鳥は誰のもの  作者: ゆうひかんな


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26/26

赤い鳥のこぼれ話 全ては君のために

※9/20別ページに掲載していたお話をこちらへ移行しました。

内容には変更がありません。

『赤い鳥は誰のもの』の完結編です。

伏線を回収しまくるお話のため、恋愛要素は薄めです。


少年は祭りで見かけた異国の鳥に恋をした。

幾年過ぎようとも想いは枯れることなく身を焦がし、

やがて憧れは恋へと姿を変える。

その恋は幾多の困難を乗り越え、愛へと生まれ変わった。

身を焦がした灰から生まれるという不死鳥が如く。


地位や名誉すら及ばない。

豪奢な黄金も宝玉も不要である。


王よ、偉大なる王。

我が願いはただひとつ。

青き瞳をした異国の鳥を、我が献身の対価に望む…。



ーーーーーー


「こういう手段を使うあたりが彼女らしい。」

「確かに、女性ならではの発想ですよね。」

劉尚の言葉に、笑みを浮かべた鄭舜が同意する。

成安国から流行り、苟絽鶲国の女性を虜にしているという吟遊詩人の歌う物語。

それは異国の青年が青い瞳の鳥に例えた女性を求める、というお話。

言わずと知れた黄家当主と陶家の次女、華凉の恋愛話を原題としている。

「国を違えてもなお、相手を求めるなど情熱的だな。」

「全くです。そう歌わせた(・・・・)ところに作為があるとは気がつかないほどに。」

この歌が国内に浸透すればするほど、紅家の残党と黄家当主を結びつける者はいなくなる。秘密裏に紅家の残党が処分され何年もたっているが、自称"紅家の後継"を名乗る者が時々出没する程度に家の名は残っていた。

今は問題がなくとも、何かの拍子に彼の緋色の瞳を紅家と結びつけるものが現れるかもしれない。だからこそ、華凉は二人の馴れ初めを吟遊詩人に歌わせたのだ。

異国(・・)の鳥に恋をした』と。


本当を、偽りで隠すために。


「彼女を国外に、というのは正解でしたね。国外にあってもこの影響力だ。彼女の願い通り紅家の生き残りを当主に据え、負い目という楔を打ったとしても、将軍位程度で大人しくしていたかどうか。」

「そうだな。」

鄭舜の言葉に頷きつつも、心に浮かぶのは別のこと。

彼女が"緋葉"と呼んでいた、緋色の瞳を持つ青年の姿を思い浮かべる。

あの瞳の色だ。彼には色濃く紅家の血が流れているはず。

それでも時の帝の前で『決して支配を受けぬ』と告げたとされる傲慢さは伺えなかった。


ただ、底知れぬ存在感を湛える瞳の奥にある闇が不気味だった。

代々帝となるものは、あの瞳の色に罪の重さを思い知らされる。

家を絶やされてなお貶められ続ける、紅家の怨みが具現化したかのような血の色。

だからこそ、彼を吉事に紛れ込ませ国外へと追い払った。

華凉(陶家)という鎖をつけて。


「彼女の願い通り、陶を継がせつつ当主に紅家の血を継ぐものを据えるということも出来ないことはなかったのだけどね。紅家の存在は反逆者の末路としてだけ語られれば良いことだし。」

国の歴史とは勝者が語り紡ぐもの。

語られることのない事実を知るのもまた、勝者の特権故。

猩々緋色の瞳を持つ当主の存在など時間の経過と共に覚えている者も居なくなるだろう。


そのために報告書で猩々緋色の瞳を持つ者の存在には触れずにおいた。

建国にも貢献した勇猛な一族へ捧げる、せめてものはなむけとなるように。


「これで広寧国とランダールの一件は終わったということでよいだろう。ランダールに請求した賠償は継続するものだから残して、それ以外の書類は陶家当主の報告書と共に書庫へ保管するよう文官達に伝えてくれ。」

「御意に。」

押印し日付を記した書類が運ばれていくのを確認する。

それから劉尚は普段見せないような柔らかい笑みを浮かべた。


「これでやっと、彼女を迎える準備が整った。」


長い、長い間。

世の流れを読み、国の力を測っては、手を打って。

運に助けられ、見捨てられたと絶望することもあったが、それもまた次の一手を打つための布石とした。

そして、やっと彼女を迎える準備が整ったのだ。


「黄蟻からの報告は?」

「今は成安国に留学しているとのことです。聡明で闊達、とても美しく成長されていると。」

「好奇心旺盛なところは変わらないようだ。」

彼女を知る者は『まるで糸の切れた凧のようだ』と称していた。

だが彼女の破天荒に思える行動は思慮と決断からくるもの。

だからこうして劉尚の目に留まり、両国を繋ぐ架け橋となろうとしている。


未だ安定しない苟絽鶲国と隣接するバセニア皇国との関係。

皇国は、国土の形からこの国の人間に"龍爪国"とも呼ばれ、貧しい領地が飢饉に見舞われる度に南陵への野心を見せ争ってきた。

状況が変わったのは、当代の若き皇帝に代替わりしてから。

長く続く思わしくない戦況に、停戦の協定を結ぶことで終止符を打った。

皇帝としての温厚な表情の仮面の下に決して諦めてはいないという野心を隠して。

その彼には二人の妹がいた。

上の姫はアデラ、下の姫はアリフィナ。

国の言葉で"輝く太陽"と"優しい花"という対局の意味の名を持つ二人の性格もまた、名の通りであった。

昼の空に燦然と輝く太陽のように、明るく快活で好奇心旺盛な姉。

月の下で儚くも凛と咲く花のように、優しく穏やかな妹。

城内を走り回る姉の後を、一生懸命ついて回る妹の姿が大層愛らしかったという。

だがバセニア皇国の人々の気質が封建的であったことが災いしたのだろう。

やがて城の人間はお転婆で自己主張の強い姉姫を徐々に持て余すようになっていったらしい。


そしてある日。

姉姫は、その後の人生を変えてしまうような出来事を起こした。

彼女はあろうことか長く伸ばした髪を切ってしまったのだ。

王族の女性は公式行事には結い上げる必要があるため、暗黙のうちに髪は伸ばすものとされていた。それを肩に届くか位までバッサリと切り、短くなった髪を見て乳母が卒倒したという。

以降、彼女の行動は極端に悪い方へと解釈されるようになってしまったらしい。

国の金を使い、華美な衣装を必要以上に買うと噂されたことも拍車をかけた。

皆裏で彼女のことをこう呼ぶようになったという。


王族としての務めを放棄したくせに、金遣いだけは王族並みの『放蕩姫』と。


そして彼女が十五才となった春。

『世界を見てきます』と書き置きを残し城を出ていった。

もちろん一王族が簡単にハイそうですかと出国を許されるはずもなく、たいていは追手によって速やかに連れ戻されるか、市井に馴染めず自ら戻ってくるのだが。

城の人間が不在に気付いたのは、用意周到に策を巡らした彼女が鮮やかな手口で出国し、他国での噂が出回るようになってからだったという。


以降、五年間。

定期的に無事を知らせる手紙は届くものの、一向に帰ってくる気配はないらしい。

国が放つ追手も危なげなくかわし、上手く逃げおおせているという。


放蕩姫が、今度は『放浪姫』となったわけだ。


現在、公式に彼女は"病気のため床に臥せている"ことになっていた。

だが、ありがちな言い訳が通用しているのは国内だけだということに、上層部は気付いていない。

隣に立つ鄭舜が彼女に関する報告書を読みながら肩を震わせた。

「本当に面白い方ですよね。」

まるで水を得た魚のように生き生きと他国を巡る彼女は、行く先々で騒動を起こし、ついでに民の生活に関わるような問題を解決していった。

水不足の地域では設計段階から携わり水路を完成させ、食糧難に喘ぐ地域には適した植物の種と農耕の技術を授けた。

名乗りはしなくとも、女性の身でそれだけ活躍をすれば嫌でも各国の目に留まろうというもの。

水面下では各国の彼女に対する評価は非常に高いのだ。

「彼女は一種の天才なのだよ。積み重ねた知識から新たな技術を生み出し、些末な情報を繋ぎ合わせて何年先の未来をも見通すことができる。」

自国では生かされなかった彼女の"価値"。

妹姫のような古風な振る舞いを良しとする価値観では理解することなどできないだろう。


「だから私が全てを貰うこととした。」


今、バセニア皇国には劉尚の書状を携えた先触れとなる使節が向かっている。

姉姫との婚約の打診や結納金の額などの調整はすでにすませていた。

これから本隊が結納金を携えて、アデラ姫を迎えに行くことになっている。

ちなみに婚約を結ぶにあたっては、両国の関係改善に向けた第一歩と思われるように、緊急時の食料援助を付け加えた。

書状には両国の関係を思えば、破格の好条件が記されている。


切り札となるのは劉尚との婚姻、つまりは帝の正妃の座。


そのために、広寧国とランダールの戦で軍事力を背景とした国力を皇国に見せつけた。

皇国に時勢を読む力があるなら軍事的には簡単に手の出せない存在となったと判断するだろうと。

そうなった場合、苟絽鶲国内で皇国の影響力を伸ばすにはどうすれば良いか。

最も有効なのは両国の王族同士で婚姻関係を結び、そこから平和的に影響力を強めること。

そのためには、劉尚の隣の席(正妃の座)を魅力的に見せ、且つ時期が来るまで空席とする必要があった。

「だから沙羅様との婚約を避けたのですね。」

「成安国とは十分に交流を重ねている。これ以上の縁は不要だろう。」

鄭舜の言葉に、劉尚が頷く。関係の深い国同士で更に結び付きを強めると、他国からは閉鎖的と判断されてしまう。今回の成安国に関わる一件だけで煌達が沙羅姫を娶り、華凉が成安国へ嫁いだ。

これだけで暫くは両国の結び付きを気にすることはないだろう。


「さらにもう一つの手の方も上手くいきそうだ。」

それは、他国にある姉姫を手に入れようとする者への牽制。

事前に調べた時、嫁ぎ先の候補とされていたのがランダールと広寧国。

だから珀、欧の両国への内通を見逃した。

わざと狙わせて、逆に両国の首を押さえるために。

可能性があるとなれば野心ある二国は必ず動くだろうと予想がついたから。

『戦勝国の帝が彼女を欲している。』

調停の場で、こう両国の使節に話した。

両国がこれ以上我が国と争いたくはないと思うのなら、万が一皇国に婚約を打診されても辞退するだろう。

そして拐かし、無理矢理我が物としようとした愚か者達はすでに排除している。

成安国の混乱に乗じてと皆随分と頑張ったようだが、煌達と後を引き継いだ黄蟻が漏れなく対処した。排除された事すら気がつかせないほどの手際の良さで。

劉尚は笑みを浮かべる。

「彼女が最初に巡った国がこの国だったことに感謝せねばならないな。」

あの日の出来事が脳裏を過る。


今から五年ほど前。

南陵から緊急の知らせが届いた。

内容は砦の兵士が利用する酒場に残された未来の日付(・・・・)で書かれた一枚の地図。

バセニア皇国からランダールを経由し、秘密裏に苟絽鶲国へと侵入する手順が詳細に記されていた。

あまりの完成度の高さと、非の打ちようがない内容に度肝を抜かれた兵士の一人が隆輝に届けたことから発覚したのだ。


そして地図の裏面には、古い文字で書かれた覚え書きが記されていた。

明らかに地位が上の人物…国の中枢に関わる者へと与えられた謎かけ。

それを解き、筋書きに手を加えつつ課題を乗り越えた苟絽鶲国は今、各国から勢いのある国の一つと目される存在となることができた。

「あの謎かけは我々への課題だ。彼女が各国で同じようなことをしているということは…見極めたかったのかもしれないね。どの国に自身を委ねるべきか。」

彼女が起こした騒動には、必ず従来の価値観を覆す()()を紛れ込ませてあった。

例えば祖国で起こしたという"伸ばした髪を切る"という行為。

たぶん彼女は自身の得意とする能力の危うさも気が付いていたのだろう。

下手な人物に利用された場合、国を巻き込み騒動を起こされては堪らない。

最悪、いいように踊らされ、多くの人間を不幸にする可能性があるからだ。

だから騒動を通じ、自身を活かしてくれる余地がその国にあるかどうかを見極めたかったのかも知れない。


「彼女が祖国のためだけにと行動しなかったところが逆に好感がもてるよね。今のバセニア皇国の評価は残念ながら他国では低い。自国の利益だけを追求した結果だから自業自得なんだけど、その影響を受ける民の立場からすれば蔑まれるだけで利益にもならない現状は堪らない。不満を糧に暴動が起きたとしたら、鎮圧する前に国が滅びるかもね。そんな殺伐とした時代に先見の明がある彼女が生まれて、バセニア皇国はむしろ運がよかったと思うよ。」

交通の便の悪い閉鎖的な時代ならともかく、国交と交易が海を越えて行われようとするこれからの時代に、大国だからと自国の利益のみを追求する態度は不要な軋轢を生むだけ。

他国との協調が必要となる場面で、従来の皇国の姿勢である自国至上主義に染まった価値観では、いつか国を滅ぼしかねない。

アデラ姫は、そんな皇国に生まれながら他国にあっても自身の知識を活かし、国を富ませる価値を示した。

彼女がいたからバセニア皇国皇室は、まだ付き合いを続ける価値があると判断されたのだ。

彼女のように国を越えて貪欲に手を打ち続けることが最終的には祖国を生き長らえさせる。

それは二回の戦を通じて劉尚が学んだことにも繋がっていた。


「本来、国を治める立場の者とはそういうものだと思うよ。」


王や王族とは、国の在り方を表す指標。

豊かであればあるほど、その在り方に付加価値や存在意義が問われる。

「ですがこの不安定な状況で書簡を送れば、正妃にと妹姫を薦められませんか?」

「大丈夫、向こうから薦めてくることは不測の事態でもない限りないと思うよ?彼女は国外でも有名なほど兄である皇帝に溺愛されている。南陵の地だけでなく、この国の支配を欲する彼が、滅ぼそうと狙っている国に彼女を嫁がせる気はないだろう。万が一、嫁がせたとしても取り返す前提で仕組むだろうね。妹姫は優しく可憐で妖精のようだと他国から持て囃されているらしいから、再婚も容易だと見込んで大切な彼女のためにと余計嫁ぎ先を厳選するだろう。」

「なるほど。可憐で美しい女性の特権、ですか。」

「皇帝や周囲の人間に従順だとも聞くしね。…鄭舜、そんな今にも射殺しそうな視線をするんじゃないよ。わかってるから、お前が一番嫌うタイプだっていうことくらい。」

「すみません。そういう生き物はどこにでも湧くのだなと思うと急に殺意が芽生えて。」

彼女の場合は姉姫を見て学んだのだろう。

あの封建的で閉鎖的な国で生きていくには従来からある価値観に染まるしかない。

女性は慎ましやかに、でしゃばらないようにすべしという価値観に。

決して彼女だけが悪いのではない。

彼女もまた、生に貪欲であった。

ただそれだけだ。


だが、もう一つ隠された問題点に彼らは気が付いているのだろうか?


不在を隠すため、表向きに用意された姉姫のための予算のほとんどが、妹姫の遊興費や衣装代に消えているという現実が孕む危うさを。

彼らからすれば残っているから使うという感覚なのだろうが、一国の姫が少なくない王族二人分の国家予算を使い続けるなど愚かにも程がある。

何年もその金銭感覚に染まってきた彼女が他国に嫁ぎ、自身の才覚で限られた予算を使い回すなど出来るのだろうか?

妹姫の嫁ぎ先とされるのは恐らくランダールか広寧国だろう。

もし彼女がどちらかの国に嫁いだ暁には、王妃と取り巻き達による浪費で徐々に国が蝕まれていくのも時間の問題かもしれない。

バセニア皇国を巻き込んで国同士の諍いに発展する可能性すらある。

そうなればバセニア皇国は苟絽鶲国へ野心を向けている場合ではなくなるというのに…。


これも全ては姉姫の思惑通り、なのだろうか?


執務室に入室を求める音が響く。

届けられた書状に押された印影は"女王蟻"。

黄蟻から届いた緊急を報せる印を見て執務室に緊張感が満ちる。

書状を開き急ぎ目を通すと、思わず笑みが溢れた。


「だから彼女…アデラ姫が大好きなんだよ。」


鄭舜の手元に書状が渡される。

記されていたのは姉姫の動向だった。

余白を広くとり、記されたのはただ一言。


"姉姫が帰国されるとのことです"


行程と日程の見通しが補足として小さく記されている。

彼女が皇国に到着するのは劉尚の書状が届くのとほぼ同日。

何が彼女を動かしたのかはわからない。

だが、このタイミングであることが彼女から劉尚への答えのように思えた。


「…鄭舜、使節に贈り物を追加させることはできるかい?」

「もちろんです、取り急ぎ用意させましょう。何になさいますか?」

「彼女に似合いそうな衣装と装飾品、あと彼女が好むという日持ちのする菓子を。それから侍女に女性の好みそうな物が他にあるか聞いて、あればそれも一緒に贈りたい。」

「かしこまりました。」

「そしてそれと同じだけの品をもう一組…妹姫の分として持参させるように。」

「…劉尚様、それは。」

「ちょっとした異種返しだよ、皇国への。」


『とびきり上等なものを贈るようにね。』

そう言って笑みを深めた劉尚に、鄭舜はため息をつく。


「本気にしたらどうするんですか?」

「妹姫は思い込みの強い質のようだからね。でも周りの人間が止めるだろうから大丈夫じゃないかな?彼女は周囲の人間の言いなりだそうだし。」

優しさに含まれる、少しばかりの毒。

そのくらいなら姉姫は許してくれるだろう。


「アデラ姫と会える日が楽しみだよ。」

愛していると言っても信じてはもらえないだろう。

一度も会ったことがないのだから。

だけど誰よりも彼女に惹かれた自負はある。

純粋さの欠片もないこの感情の根底にあるのは、たぶん欲。

欲するのは、妹姫のしたたかさではなく、姉姫の持つ本当のつよさ。


だからこの国が彼女の世界の中心となるよう舞台を調えた。

飽きさせぬよう、好奇心という羽を休めてくれるように。

そして彼女がこの国を、愛してくれるように願って。



全ては、君のために。





裏話『全ての始まりは誤解でした』


南陵の町。

とある居酒屋で旅装の女がカウンターに腰掛け、器に満たされた酒を飲む。

「あー、おいしー!!疲れた体に染みますね~。」

「お、お嬢ちゃん、良い飲みっぷりだね。」

「はいー。今年十五歳の成人になったお祝いなんですよ!!」

「おー、おめでとう!!ならこの一杯は店主として俺の奢りだ。」

「ありがとうございます!!」


やがて時が経つにつれて、酔いが回り、女のテンションが上がってくる。


「ここが南陵の町かー、賑やかで良いな。あ、そういえば帰り道わからなくなっちゃうと困るから地図に書いておこう。」

紙とペンを取りだし、ランダールを経由しこの国へと至る地図を書く。

「これでよしと。日付書いておこうかな。えーっと、今日って何日だっけ…ま、いいか適当で。それからここに来るまでに裏面に気が付いたことを適当に書いておこう、あとで読み返せば旅を思い出すきっかけになるし♪あ、でも誰かに読まれると恥ずかしいから、頑張って覚えた古代語で書いておこうっと。…よし、これでいいわ!!」


そのとき、窓から一匹の蝶が店の中へと舞い込み、女の前を横切ると再び店の外へと飛んでいく。


「ってええっ!!今通り過ぎた蝶ってオオルイロタテハじゃないの!!生きた天然記念物よ!!何でこんなところに?ああっ!!まってー!!」

蝶を追いかけ店を飛び出す女。

「ちょ、まて、お代!!一杯めの酒は有料だぞ!!」

「おう、オヤジどうした?飲み逃げされたのか?」

「丁度よかった、隊長。あそこの席で飲んだ女に飲み逃げされた!!」

「うん?この地図は?」

「その女が楽しそうに書いてた。」

「ふーん。南陵の砦を経由せずに…皇国から侵入する地図だと!!しかもこれは…日付は一年後…砦を突破するための計画書に違いない!!おい、お前、これを大至急隆輝様へ届けろ!!あとオヤジ、その女の人相を覚えてるか?!」

「おう!任せろ!!どえらい美人だったからな!」

「よし、手配書を作るから協力しろ!!」

こうして誤解が誤解を生んだ騒動の結果、アデラ姫は劉尚の網に引っ掛かり、根こそぎ 捕獲される未来が決まったのであった。


めでたし、めでたし。


ーーーーーーー


いかがでしょうかw

題して「放浪姫の世直し一人旅」。

アデラ姫は変人で天然ゆえにやらかす人で、優秀な人物っていうのは皆が良い方に解釈した結果でした、という裏設定を考えてましたw

アデラ姫はスピンオフの作品に出てきます。

そちらもお楽しみいただけると嬉しいです。

『女王蟻の献身』https://ncode.syosetu.com/n7762fc/


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