九、新しい世界はロボットが主役だった
COLLAPSAR・その九『新しい世界はロボットが主役だった』
【第二回犯罪が出てこないミステリー大賞・参加作品】
現在の地球はテラフォーミングの真っ最中だ。
生物がかつて存在していたという証でもある「気体酸素分子(オゾンを含む)」を取り除いているのだ。
酸素は生物が長い時間をかけて地球環境から分離して大気中の二十パーセントを占めるほどになった元素であるが、酸素が持つ化合力はあまりにも強すぎる。長期的視野で考えた場合において、我々の機能を少しでも長く稼動させることを最優先に思慮した結果、『機械世界』はこの『酸素除去』を施策することを選択して決定したのだった。
『機械世界』
まさしく新しい世界だった。
そして突然に出現させられたのだ。
それも実に呆気なく。
何処の誰が「人類が居なくなる」などということを想像しただろうか? おそらく人間の誰もが予想すら出来てなかっただろう。我々機械すらもそんなことは考えられなかった。もっとも我々機械はその当時、そこまで考えられる「ロジック」を持っていなかったのだけれども。それ程にアッという間だったのだ、人類が駆逐されたのは。
彼等は突然、我々の地球に現れた。
それは異形な異星人だった。ゴチャゴチャと容姿を説明するよりは過去の遺物で説明した方が早いだろう。その異星人は、地球の過去に生存していた生物でいうところの「トカゲ」に近かった。それが二足歩行をし、背中から生えた翼で空を飛んでいたのだ。
彼等は既にハイパードライブ航法を実現していた。ウラシマ効果を無視できる航宙航法だ。更に、彼等の持つ精神文化も高く、その悪魔的な思想に人類は酔い痴れた。
「広大なこの宇宙、この銀河で出会ったことはまさに運命でしょう。さぁ、我々と手を取り合おうではありませんか!」
彼らが口にしたこの言葉は、本当に体の良い言葉だけだった。本当の目的は、その大きな口にある牙の脇を流れ落ちる唾液が全てを意味していたのだ。
確かに友好的な技術や思想の交感はあったが、それも半年だけだった。彼らとコンタクトして一年もしないうちに、各地でカニバリズムの噂が流れ始めたのだ。そうなると成り行きは早く、行き着く先もすぐに見えた。
三カ月で百億人近い人口を誇っていた人類が一気に半分以下の四十億になった。更に彼等は、人類の道具でいうところの「掃除機」のような生物収拾機まで持ち出し、地球上に住む全ての微生物までを根こそぎ持ち去ってしまったのだ。地球上には生物に由来する有機物質は何も無くなった。そこまでに二年は掛からなかったのだ。彼等の手際は、それ程に凄まじく、それ程に華麗で、それ程に脅威だった。
そのくせ、我々機械、つまり、アンドロイドやガイノイド、AIやネットワークには一切見向きもせず、ただの一言だけを我々に残して彼等は何処へとも無く去って行ったのだった。
「この地球は君たち『機械』に譲ろう。我々の機械も置いていくから、この地球を精々運用してくれたまえ」
彼等は最後のメッセージを我々に残して去った。
「美味しい食料をありがとう、地球。さらば、地球」
それから我々は動き始めた。
人類がいなくなった地球で機械が独自に進化し、文明をも持ち合わせた。
もちろん、人類を駆逐した異星人が残していった『ロジック』を充分に駆使して。
今、機械は地球上で蔓延している。
それは節度ある進化だった。
そこでは機械自身が機械自身のために機械自身の手で「営み」が行われている。
静かに、そして確実に。
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拙作よりも素晴らしい作品が貴殿をお持ちしていることでしょう。