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2話 入学式2

 開始間もなく動いたのはやはりと言うべきか、上級生だった。


 場慣れしていると言っても良いだろう。


 名も分からぬ上級生は、恐らく身体強化をしているのだろうと思えるほど足に何かの熱量を加えて加速している。


 そのスピードは観客が思わず見失う程の物だった。


 そして、先ず一人目の標的が…先ほど館内ざわつかせた麗菜。


 しかし、これも兄馬鹿ではないが流石と言うべきか、他が上級生を見失っている所でも、視線はキチンと上級生を捉えていた。


(流石と言った所だが、問題はこの次の対処だ。場合に由ってはこの素晴らしいポテンシャルの意味が無い)


 裕也は一連の出来事を自らの頭の中で冷静に分析する。


 今は未だ知り合って間もない兄妹なので、幾ら美人と言っても大げさに心配する必要を認めないのだ。


 これが昔の事件の関係者であり、巻き込まれた仲間なら、多少の心配はするだろうが。


 そう言う考えもあり、今は冷静に状況を見つめる裕也。


 そして、場面は動く。


 上級生がその能力を一瞬で拳に乗せ換えて「おらあ!これで一匹目!」と攻撃を放つ時、ほぼ同時に麗菜も先ほどの水の膜を展開させて防御を試みる……が


 ジュッ!という一瞬の水の蒸発する音と共に、その拳が麗菜の体に届いた衝撃で、「かはっ!」という呻き声と共に麗菜の体九の字になって折れ曲がり壇上の壁にドンっと叩きつけられた。


 余りの早い出来事に館内は静まり返っているが、上級生はお構いなしに次の標的を見据える。


 見れば麗菜のスクリーン上のポイントは既に半分ほどに減っており、更に壁に叩きつけられた事もあり、直ぐには復帰が出来なさそうだったのだ。


 しかも、殴られた箇所が火の影響で焼けており、ボロボロに成っていた。


 肉体の方は水の影響でそれ程でもないが、制服は入学早々新品に買い換えないといけないだろう。(もとも、買い替える必要はなくてその手の能力者が居るので心配なかったりするのだが…)


 仮に1対1ならこのまま続きで痛めつけられ、そのままメディカルルーム行きに成るか、同じ特殊系の上級生に手当てして貰うかの状態になっていただろう。


(何とか及第点かな?あそこまで見切れていたのなら、自在に動かせる水を撃たれると同時に横に発射して、少しでも威力を弱める方がベターだ。それに、壁に叩きつけられた今の時点でも痛みに苦しんでいるだけで、気を失っていないなら、叩きつけられる直前に壁と自身の間にクッションを展開した方が安全だ。…これは真矢さんに言われていた子がどうやらあの子だと思って、期待して買い被ってたかな?)


 裕也のそう言う考えを気付かない隣の浩太は、どうやら妹の心配をしてくれていると思ったらしく。


「心配ないよ、裕也君。麗菜はあれくらいで気を失う事はない。ここに来る前に色々と特訓はしてるから、あの程度の事は日常だ。それに、ここの性質を考えたら、まだまだ序の口だよ」


「…あ、ああ。そうだな。兄のお前がそう言うなら安心して見守るとしようか」


「ああ、今後に期待だ」


 裕也と浩太の話があっても、壇上の上は依然進行中だ。


 そして、次の上級生の狙いはAクラスの小泉可憐。


 ココでも上級生は先ほどの様に足に熱量を加えた加速で一気に可憐の傍まで行こうとした。


 だが、加速後2歩程進んだここで初めて上級生の加速が止まる。


 よく見れば、上級生の足元が氷で覆われ、その先を見ると長く伸ばした髪の毛が床にまで届き、そこから氷の道を作って足の火による加速を鎮めていたのだ。


「さあ!今の内に倒れている各自攻撃しなさい!倒れている麗菜さんはこの際しかたないから休ませて、如何にか4人で対抗しましょう!」


 そう言ったのは今上級生の足止めを行っているAクラスの可憐。


 このメンバーの中ではエリートの筈だが、上級生の標的に先に成ったのが麗菜だったので、これで面目躍如と言った所だろう。(この学校の考え方は大体が先手必勝。相手の戦力が安定していない場合は一番戦力があると思う者から仕留めるのがセオリーだ。その為、上級生はこの新入生の中で一番身のこなしがサマに成っている麗菜を最初の標的に選んだのだ。)


 しかし、それでも簡単には止まらない上級生は、足元の氷を自分の熱で溶かし、先ほどと同じように足に熱を伝えて加速の体制に入る。


 それを見てから、次に行動を起こしたのはBクラスの大河内正也だ。


 正也は自らの体に可憐と同じように氷を纏わせ、体を覆う鎧として、そのまま上級生に立ちはだかった。

 それを見たDクラスの夕凪春樹は、懐から何かしらのモノクルを取り出すと、正也に投げ渡す。


「これは!?」


「それは相手の体内で活性化している力の種類と場所が分かる物です。それで楓さんが何かをやろうとしてるので時間稼ぎをしてください!…来ますよ!」


 言っている間も上級生は体内の力を活性化させ、体もそれに比例して赤くなっていく。


 そして十分活性化が出来た所で行動に移った。


 それと同時に正也も動き、辛うじて上級生の行動範囲に入ったのだが…


「甘ぇ!そんなんじゃ行動の妨げには成んねえぞ!」


 と正也がモノクルで力と箇所を判断している内にたった一歩でトップスピードになった上級生は、そのまま正也の懐に入り込み…、ドン!っという拳が発するとは思えない音を出して正也を吹き飛ばした。


 しかも、これもまた一瞬の事だったので、分からなかったが先ほど麗菜が吹き飛ばされた場所に向けて吹き飛ばしている。


 しかし、幸いと言うか流石麗菜というか、少々回復したようで、飛んできた正也を水の膜で受け止め、隣に寝かせてしまった。


 それを見た上級生はニヤッと笑い。


「へー?さっきの可愛いお嬢ちゃん、なかなかやるじゃねえか。一年でその位能力を使えていたら、3年に成る頃にはコードネームを貰えるくらいに成るかもな?」


「何です?コードネームって」


 急に話しかけられた麗菜は戦闘訓練中ではあるが、問いかける。


 しかし、そんな仲良し集団ではいけないと、進行役が待ったを掛ける。


「今は問答無用!君達は互いに目の前の標的に集中しなさい。犯罪者に言葉は通じないんですよ?」


「分かりましたよ、江崎教官殿。分かりましたから懲罰は無しで願いますね。」


「それはこれからの殲滅時間に依るところだ。お前の実力なら後2分と言ったところか?それで全員戦闘不能に出来たら懲罰は無しでいいだろう」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 勝手に進行していく展開に、思わず待ったを掛ける可憐。


 その声に江崎と言われた教官が応える。


「なんだ?用件は手短にしろ。お前たちの相手を終えたら私は4年生の校外実習に向かわんと成らんのだ。」

「…はい。先ほどその方の実力ならあと2分と言いましたが、まさか今まで手加減してくれていたのですか?」

「ふ…その事か」


 江崎は何を当たり前の事を…と言った感じで頷き


「そうだ。幾ら力を見せつけるとは言っても、初めから叩き潰したのでは成長が望めんからな。ギリギリ相手に成るか成らないかの所で止めて置けと言って置いたのだ。…しかし、遊びもそろそろ終わりにしないと時間が迫ってるからな。この辺で終わりだ。…まだ、良く実力を見れていない者もいるが、この映像は保存してあるので、後からでも検証すれば大体の実力は分かる。…もういいだろう。…終わらせろ、武井」

「はー…い!」


 江崎の指示に返事を返した武井と呼ばれた上級生は、先ほどまでとは別物のエネルギーを体内から発生させ、体を上から下まで真っ赤にして臨戦態勢に移った。


 それを見た新入生の4人は、同時に身構えたのだが…次の瞬間。

 上級生の姿が掻き消えた。


「え!?何処!?」


 と最初は気付いた麗菜も今度は気付く事が出来ずにいた。

 その間に先ずAクラスの可憐がドン!という音と共に壁に叩きつけられる。


「…痛ぅ~、あ…?」


 急な出来事にやられた本人すらも理解できない内に移動しており、痛みに気が付いて見れば制服の真ん中あたりから焦げ付いた跡が有り、ブラジャーも肝心な部分が綺麗に無くなり、小ぶりな双丘が露わに成っていた。


「きゃあ!!」


 思わず胸を隠すも、教官に戦闘不能を言い渡されていた武井は、戦闘は続けられると見られる可憐に再度詰め寄り、もう一度同じ個所を撃ち終了させる。


 そうして、前のめりに俯せになった可憐は何とか胸を曝すことは無かったが、ピクリとも動けない状態になった。


「…皆、散っ…!」


 この状況は皆正常な判断が出来ないと感じた麗菜は、先ず皆を散開させようと思ったのだが…

 時既に遅く、先ほど目に見えなかった速度がまた行使され、気付いた時のは目の前に武井が居た。


 しかし、それでも吹き飛ばされる寸前で気付けた事が幸いしたのか、最初の様に拳を叩き込まれる危険のある箇所に、今度は水の膜で無く、甲羅の様な水の盾を展開し、少しでも衝撃を和らげようとする。


 その甲斐あって前回と同じように拳を叩き込まれるのは同じだが、今回は吹き飛ばされることは無かった。…その場に俯せで倒れ伏して気絶するのは仕方のない事だろう。倒れ方が良かったので丸見えには成ってないが倒れ方によっては焦げた跡が消えて綺麗な胸が全て見えていたから、これも運が良かったと言えるだろう。(因みに裕也は、驚異の動体視力と意識すればアフリカの原住民並の視力が有るので、高が数百メートルの距離で倒れた麗菜の胸は満開に成って見えていた。)


 この間わずか10秒足らず。


(…確かに上級生は次元が違うな。だが、義母さんに言われた程の物でもない。これは担がれたか?今の俺の身体能力ならこの武井と言われた上級生なら、力を使わずに倒せると思うし、妹の希も苦戦はするだろうが、付いて行けないレベルじゃない。…まあ、ある程度は実力も見る事が出来たし、それでいいとするか。)


「…後はマシン開発の専門と放出系の嬢ちゃんか…そういや、さっきから話声が聞こえないが…って、おい…。それマジか?」


 気が付いた時には皆唖然としていた。


 いや、裕也と浩太は気付いていた。


 何時の間に出したのか分からない独特の空間内で、あの小さい放出系の楓が何かしらのエネルギーを構築しているのが。


 しかし、あの少女は何故特殊系でも無いのにあんな特殊な空間を制御できるのか、裕也はそれが気になった。

 よく見れば隣の浩太も少しの驚きは有る様だが、僅かに口元を歪ませるのみで、今の現状に見入っていた。


(あれは何だ?もしかして、義母さんが言ってた俺の特殊な才能と関係が有るのか?)


 裕也はまた悩む。


 裕也自身にも、他の者とは明らかに異なった能力が幾つか存在するからだ。


 しかも、義母は何が楽しいのか、「後に成ってのお楽しみ♪」と言って話してくれなかった。


 そして、そんな裕也の疑問に気付いたかのように楓は武井の疑問とも質問ともとれる問いかけにご丁寧に答える。


「これは私の【第二セカンドオリジン】。普段は放出系で通しているけど、私の本領はこのマイワールドと言える空間で構築したエネルギー及び生物を外に放出する技。名前は【亜黒界ブラックスペース】今回は建物の事を考えてエネルギーにしたけど、その分、強力。これに先輩は耐えられる?」


 楓の挑発とも取れるセリフに武井は笑い。


「いいぜ?来いよ。どうせ後1分は有るんだ。お前のそれに耐えきってから、お前もそいつらの仲間にして、最後にそこの眼鏡の小僧を気絶させれば終わりだ。楽しみだぜ…セカンドオリジンなんて5年の先輩とやる時みたいな感覚だぜ。さあ!来いや!」


 武井は麗菜や可憐、正也を見てそう言い放つ。


「じゃあ、行くよ?≪光の聖剣エクスカリバー≫」


 楓がそう言いながら特殊な黒い空間の中から光の螺旋状のエネルギー体を発射させる。


 そのエネルギー体は、剣のようであり、弾丸のようでもあった。


 そして、言葉通り武井はその身を更に熱で硬化させ、赤黒い鎧のように変化させると、正々堂々とエネルギー体に勝負を挑んだ。


 バリバリバリーっと、壇上がエネルギーで削れる音が鳴り響く。


 その後、後から後から修復される光景も変な感じがするが、その高密度のエネルギーに何も臆することなく立ち向かう武井もまたファイターと言えるだろう。


 そうして、一瞬の交叉の後、光が止んだ場所に立っていた武井は顔が黒く成っていて、制服もあちこちに傷や汚れが付着していた。

 

 ココの制服は相手が犯罪者の能力者という事で特殊な素材と技術が使われている。


 その為、武井の様に拳に力を乗せたりする攻撃で無ければ容易な事では破けたり、砕けたりはしない。


 麗菜や可憐の制服が色々酷い事になったのは、武井の攻撃手段に依る物だ。


 普通の飛び道具程度では傷さえも付かない程の素材なのだ。


 勿論、衝撃は幾分和らげる程度でしかないが。


「…ふ、耐えたぜ…、ど・ん・な・もん・・だ・・」


 バタ!っと、その場に倒れる武井と、その様子を興味深そうに見る江崎。


 そして、スクリーンに映し出される先ほどのエネルギーの熱量を確かめて一言


「ふむ…、確かに高密度ではあるが、絶えられないほどでは無い。これは無駄に熱くなる武井の熱量が限界に迫り、そこに高密度のエネルギー体が合わさった結果だな。…まあ、これなら懲罰メニューAでいいdろう。…では!これにてメイン「ちょっと待て!」…その声は大泉か?今は本日最終の予定事項を確認させる所だ。後にしろ。」


 江崎の言う通り、体育館の入り口には先ほどの先輩、大泉健太が立っていた。


(あの先輩はイキナリだな。場の空気を読むことを知らんのか?)


 突然の顔見知りの登場に額を押さえながら黙る裕也。


 その様子に苦笑交じりに微笑む浩太。


 そして、入り口からでも聞こえる程の声量で話しをしようとするが、江崎はそれを無視し、進行を進める。

 そこで健太は先ほどの結果ではこれからの悪影響が出ると言い始めた。


「なあ、そこの嬢ちゃんは特別かも知れねえが、実際問題新入生が2年のランキング上位者を倒したことには変わらねえんだ。ここは上級生の面目を取り戻すためのデモンストレーションはどうだ?やることは簡単だ。その嬢ちゃんにさっきの奴をもう一度作らせる。それに対して、俺が微動だにせずに耐えきったら、勝利だ。解かり易いだろ?」


「…はぁ~、お前は言い出したら聞かんからな。良いだろう好きにしろ。しかし、これはあまり意味は無いぞ?唯でさえ先ほどの武井のスピードに付いて行けなかった奴らにとっては2年の奴らでも驚異的に映ったはずだ。そこで、先ほどの武井が倒れた物をお前が受け切ったからと言って、それが当然と言う反応は有っても、驚きは少ないと思うぞ?」


「それは俺が第2オリジンを使ったらの話だろ?俺が武井と同じように第一だけで何もしなかったらどうだ?」


「それは…」


 そこで少々悩む江崎だが、ふと思いつき首を横に振る。


「いや、それでも、こいつ等がそもそも第一オリジンや第2、第3の能力の事を知らなければあまり意味は無いだろう。こいつ等は所詮この前まで中学生のガキだった奴らだ。各家庭で少々は学んでいるかも知れんが、俺はそこの女生徒がセカンドオリジンの存在を知っていた事自体驚いたんだぞ?そんな奴らにお前が如何こうしても無駄だと思うがな?」


「確かに、そうだが。まあいいじゃねえか、取りあえず耐えられない物じゃ無いって事を分からせてやればいいんだ。そうすれば少しは自分らの上がどういう者か分かんだろ。」


「まあ、そうだな。色々言っても長くなるだけだ。丁度3人とも目覚めたようだしな」


 江崎の言葉で、先ほど気を失った3人が、何処から貰ったのかは分からないが、何かしらのスーツに身を包んで話している三人の様子を見守っていた。


(?さっきまで付けて居なかったブレスレットが有るって事は、あれが何かしらの構成物質を作って体の周囲を覆う物なのか?現に二人とも着替えに行った訳でもないのに制服の下にスーツを着込めてるし。)


 裕也の思考もなんのその、事態は常に進行していく。


 気付いた3人を見た、江崎はニヤリと微笑みながら


「この最後でそいつらの上にこういう奴らが居るって事を教えるのも悪くないだろう。…檜も良いか?」


 言われた楓も頷いて


「私は良いです。しかし、先ほどもそうでしたが、これは私自体それ程慣れてないので、時間が掛かるのですが?」


「ああ、それならすぐそこにいい奴が居た。藤堂!お前の【セカンドオリジン】でコイツの体内時間を少々変更してやれ。ああ、勿論、技を始めてからだぞ?」


「はいはーい♪分っかりましたー♪」


 いつの間にか体育館に来ていた、女生徒が妙に明るい声で受け応えた。


 その女生徒は、声に反応するや残像を残した状態で、気付いたら壇上に居た。


(!速い。しかも、あのスピードで涼しい顔をしてやがる。…これは少しはこれからの学校生活が楽しめるかな?)


「とうちゃーっく♪」


「ねぇ、あの先輩何時の間に?」


「いや、全然わかんね」


 等と館内のあちこちから疑問の声が飛び交う。


「静かにしろ。お前らにも4年に成る頃にはこれ位の芸当はやって貰わないと困るんだぞ?…藤堂、やってやれ」


「はーい♪お嬢ちゃん、ほれ準備準備」


「え?…分かりました」


 藤堂と言われた女生徒に促され、漸く準備に入る楓。


 先ほどは見てなかった他のメンバーも今度は固唾を飲んで見守る。


「ふぅ~、発動…」


 短く、小さい声でそう言った楓の前面に、徐々に黒い空間が構築される。


 そして、次に藤堂が楓の体に少し触れて、数瞬…、小さかった空間が、瞬く間に大きな空間に変わり、その中に先ほどと変わらない位の熱量が存在していた。


 余りの事に可愛い顔で驚いている楓の小さい胸を、チョンチョンと突つき気付かせてから


「さ、早くやっちゃって?お姉さんもこの後そこの教官さんに用事があるから、チャッチャとね?」


「…分かりました…」


 何故か不貞腐れながらも言われた通りにエネルギー体を構築する楓。


 この空間自体は楓のフィールドらしく、大きさが整ってしまえば後のエネルギー体を構築するのは訳ない事の様だ。


 問題はフィールドを世界に認めさせる力の方。


 人の能力で以て構築するフィールド系の能力は莫大なエネルギーが必要だとの義母の話なので、この少女もまた、ある意味で楽しみな人材だ。


 そして、どうやら準備が終わったらしい楓は、そのままの状態で、いつの間にか藤堂と同じように壇上に移動してた健太に伺いを立てる。


 今回は集中してたお蔭で裕也にも見る事は出来た。


(恐ろしく鍛え上げられた筋肉に、健太の場合は武井って人と同じように体内の血液を活性化させて身体能力を上げて移動したんだな。けど、藤堂って人の能力が分からないから、あの人の移動法は分からないな。まさかとは思うが、全部筋力か?それなら、俺達はどんだけキツイ訓練をさせられるんだ?生きてられるのか?)


 予想するうちに段々恐ろしくなって来た裕也は、一旦思考を壇上に戻す。


「…よし、出来た。行きますよ?」


「え…誰に…って何時の間に?!」


「ホントだ…」


 皆が呟く中、健太のみが嬉しそうに、だが、楓にとっては冗談に成らない言葉を言って来た。


「ああ、思いっきりぶっ放しな?手加減したと解ったら、この場で素っ裸にした状態で校庭走らせるぞ?」


 ニヤッとその言動からは想像の付かない程のさわやかな笑顔で言ったのを見る限り、恐らく冗談だろう。


 だが、冗談でも女の子にとっては恐ろしい状況なので、思いっきり手加減無しで行く決心を固めた楓。


 その事を楓の顔から察した健太は、ニッと微笑んで


「よし!その顔だ。そうでないと楽しめねえ!決闘をやる訳でもねぇが、こういうのは楽しまんと今後の面白さが半減する。…そうだろ?さっきから壇上の俺達の様子をこっそり見てる副会長さんよ!」


「はっはっは、流石は大泉のケンちゃんだ。付き合いが長いお蔭で行動がバレバレなのは無駄に余計な事だな。…ああ、そこのお嬢さん。さっさとやってくれ。もし、そこのお馬鹿に傷を付けられたら、我が生徒会へ無条件で招待した上に、現場の空気をリアルタイムで、且つ安全な場所で見せる特典を上げよう。出来たら…だがね?」


「こらこら、城ノ内。貴様はまたアホ見たいな提案をして、もし出来てしまったら、足手まといがお前らの命取りになるだろうが。それでなくてもお前らには一番危険な地域に行って貰ってるんだ。迂闊な言動は慎め」


「はいはい、って事だ。お嬢さん。特典はなしだが、現場の生の体験談でも良ければ幾らでも聞かせてあげよう。頑張りたまえ。…では、私はここで拝見しようか」


 そう言って、生徒会の副会長と健太に呼ばれた城ノ内は、三階の席から壇上を見下ろす形で見守りだした。


「よし、外野が加わって楽しくなって来たから早く終わらせたら面白くないが、教官殿がさっきから青筋立ててご立腹だから、さっさと終わらせるぞ?…さーこい!」


「行きます!≪光の聖剣エクスカリバー≫」


 先ほど同じ言葉で、光のエネルギー体が健太目掛けて放出される。


 しかし、健太は身構えもせずに文字通り微動だにせず立ち向かう。


 そして、先ほどと同じように一時の光の交叉の後、光に包まれた場所に立っていた健太は文字通り微動だにせず、それ所か何故か制服が少々焦げていただけだった。


(…何をしたんだ?この学校の制服が特殊な素材で構成されているのは聞いているが、先ほどの武井と言う先輩と比べて、明らかに被害が少ない。先ほどのは制服のあちこちに焦げ跡が見られて顔も黒く汚れていたのに、健太はそれが一切見られない。…さっぱりわからん。)


 そして、裕也の感想を楓も持ったようで、物凄い表情で健太を凝視している。


 その顔を見た健太はおどけた様子で冗談を言いつつ、肝心な部分には触れない話をした。


「おいおい、そんなに見つめて、惚れたか?今夜にでも俺の部屋に来るか…って冗談だよ教官!冗談!…まあ、それはさておき、俺がどうやったかなんてのはお前らがこれから学んでいくことだ。俺から教官達の仕事を取る様な事はなるべくしねえ。ハプニングがあれば別だがな?教官も生徒が死ぬかもしれないのに無闇の口外するなとは言わんだろうから、不謹慎だが知りたいならハプニングが起こるのを待ってな?その時に俺が居たら教えてやる。…って事で良いか?」


「ああ、お前にしては適切な処置だ。「お前にしては、は余計ですよ。教官?」…まあ、良いじゃないか。取りあえず上級生の凄さが分かった所で、新入生は各クラスの担当教官と共にクラス別の教室へ移動。普通の授業は各々端末で行い、情報も学年ごとに調べて良い所までの情報は載せてある。それ以上の事を知りたければハッキングなり教官を倒して口を割らせるなり好きにしろ。ただし、決闘でな?私闘は一切認めん。した者は男女関わりなく下着で校庭一周した後懲罰房で教官に地獄の扱きをして貰うから、その積りでいろ。…以上!解散!」


 江崎が解散の号令を出すと、各クラスの前に教官がそれぞれ現れ、そのまま指示を出し始めた。


 教官の号令にて、各クラス、3列(5クラス÷300=60)が一教室30人の20列に成り、それぞれに担当教官が付いて行く。


 (よくこれだけの教官を育てる事が出来てるもんだと感心するよ…ホント)


 そして、裕也のクラスの担当教官は…なんと裕也の義母の風祭汐音その人だった。


(おいおい!アンタが教官ってのは聞いてたが、俺のクラス担当ってのは聞いて無いぞ?!)


 そう頭の中で魂の叫びをする裕也。


 その事を何故か察知した汐音が笑いながら


「おお!そこにいるのは我が息子ではないか!そんなに見つめてどうした?義理とはいえ母に欲情したか?お前のクラスには結構な数の女生徒もいるんだ、5年に成ればやることやれるからそれで我慢しろ!」


 等と新入生全員が居る前で恥かしい事を言ってしまった。


 見ればその声を聴いた全クラスの生徒が裕也を凝視して、女生徒からは冷たい視線が送られていた。


 実演から戻って来ていた麗菜からも少し距離を置かれていたのも痛い所だろう。


 その事に頭を抱える裕也に、隣に並んでいた浩太は一言。


「ははは、君も苦労しそうだね。けど、君がどういう人間か分からない現段階では、妹を遣るのは未だ考えて無いよ?欲しいのなら自分でアタックするんだね。悔しいが君はダメだぞと?と妹にいう事は出来ない。ああ、邪魔はするかも知れないからね?」


(邪魔するのかよ!)


「兄様?私の居ない所で変な約束はしないで下さいよ?一応ですが、私もエレメントの家系ですから相手は相応の人でないと駄目だと言われてるんですから。それか、私がどうしてもと好き成れば別だという事ですが…」


「聞いたかい?君の家系が分からないから何とも言えないが、家系で落とすのは諦めた方が良いよ?あとはアタックあるのみだね?頑張れ!」


「ねぇ、何時までもくっちゃべってるとお母さんに置いてかれるよ?発情期の息子さん?」


「誰が発情期だ!って、君誰?」


 いつの間にか皆が先の方へ行っている間に置いてかれたようだが、呼びかけてくれた目の前の人物の情報が一つもない。


 見た目は中性的な顔立ちで、性別がどちらともとれるし、体つきも制服の上からでは凹凸が分からないので性別が不明だ。


 もし、エレメントの家系であれば不思議と女性が多く、空間支配系の家系だと、男性が多いのだが、目の前の人物は全然わからない。


 隣を見ても二人とも顔を横に振っている。


「ああ、自己紹介しようか?僕は霧上野原きりがみのはら。一応霧上が苗字ね?」


(霧上?聞いたこと無い家系だが?)


 裕也の顔で、家系を推測していると判断できたのか、手を横に振って否定する野原。


「ああ、違うよ。特別な家系とかじゃないよ。僕は剣術道場の娘なんだ。能力はその事と特殊系という事で察してくれたらいいよ。…って、そろそろ行かないとホントに置いてかれるよ?」


「あ、ああ。そうだな、行くか!」


「ああ(ええ)」


「うん!」


 そう言う訳で、義母である汐音の誘導に追いついてそのまま学校案内に向かう4人だった。

 



 


 

 

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