1話 入学式1
「いよいよだね、兄さん。僕が来年行くまで如何にか生きててよ?一人で先に死んじゃったら許さないからね?」
「分かってるよ、希。そんなに心配しなくても、お義母さんが教官なんだから無茶な事件に駆り出される事も無いさ。それに、どうせ最初の年は自己訓練で終わりだろうし、上の学年には真矢さんも居るし、義母さんの話では義父もいる筈だしな。それはお前も分かってるだろ?」
兄と言われた男の子・・制服を着ているので何処かの学校の男子生徒だろう・・が妹を落ち着かせるように理由を述べる。
僕と言っているが見た目が何処からどう見ても、百人が百人足を止めて見惚れるだろう美少女だ。
その少女が男子生徒に向かってまだ何か言い足りないのか唇を尖らせて言ってくる。
「分かってるけどさ?お義母さんの目の届かない所で嫌がらせみたいに変な犯罪者の相手をさせられないとも限ら無いんでしょ?なんたって向こうは国立と違って、民間の機関なんだし。僕は技術畑が大半だけど、兄さんは能力の割に両方を齧ってんだから何かにつけて文句を言ってくる奴もぜーーーっったい居るよ。」
「いや、俺は文句どころか寧ろ自分らの力を誇示しようと入学式から決闘を挑んで来そうで怖いよ。俺の能力は単体ではそんなに強くないからな。」
妹の予想を兄が否定する形ではあるが、その表情は何処か苦笑に近い。
それもその筈。この会話自体昨日から数度のやり取りをしているのだから。
そして、彼が今から行く学校は全国に4か所ある民間の超能力者養成特務機関。
その実態は同様な超能力を秘めた犯罪者に対する犯罪を抑止する事を生業とする者たちの集団だ。
この犯罪者たちの多くは後天的に得た力の持ち主の集団。人は皆いきなり力を手に入れればそれを欲望のままに使いたいと思うもの。
その対抗手段として、ある民間の警備会社が独自の調査網から超能力者の家系を調べ上げ、実戦レベルの者達に満16歳に成った者に通達して育成を図るのだ。
そして、各家庭の代表に理由を言って、莫大な支援金をその家庭へと渡す事で犯罪者に対抗できる若者を預かるのが、彼が行く場所が先ほど言った民間の超能力者養成学校だ。
しかし、その兄の言葉に未だ納得が行かない妹は、兄に対して情けない提案をする。
「兄さんの能力の一つがパートナーになる人に左右されるのは仕方ないけど、それでも良い人を選んでよね?どうしても駄目なら来年まで目立たずジッとしてること。僕が行けば兄さんの手足になる人形の1体や二体直ぐに作れる筈だから。」
この様に、後から行く自分の方が優秀だという事を言い、安心させようとしているのだが、もし、この会話を聞く者が居れば、なんと傲慢な奴だと言うだろう。
しかし、兄の方はそれでも笑顔で応える。
「まあ、期待して待ってるよ。・・もう行くから、向こうに行けば恐らく義母さんのコネで個人宅の生活だからネットを立ち上げられる迄は情報交換も出来ないからな。寮生活なら直ぐだと思うんだが、コネは大事にしないと駄目だしな?だから、なるべく夜は出歩くなよ?3年前の様な事になってまた家族を失うのは御免だからな。」
「それはお互い様だよ。兄さんも気を付けてね?」
「ああ。」
兄妹はお互いに手を振って別れる。
兄はこれからの学校生活に思いを馳せながら学校への道を進み、妹は兄の無事を家で只ひたすら祈る。
お互いが無事であることを信じて。
☆
「早速厄介ごとか?って言うかあそこはもう学校の前だぞ?何してんだ?」
少年は一人そう呟いてから目の前に居る集団に声を掛ける。
家から学校まではさしてトラブルもなく来れたのだが、ココに来てトラブル発生だ。
しかも、既に登校時間はギリギリの筈だ。
こんな所で足止めを食らっては入学式に間に合わないだろう。
「おい、ここはもう学校の前だぞ?登校の邪魔になるだろうが。」
「あーん?手前は何者だ!学年を言え!」
集団のリーダーらしき男子に問われた少年は即座に応える。
ここは既に学校の敷地内の為、こういった問いかけをされた場合は相手は在校生で上級生の可能性が非常に高い上に、自分より強い者が殆どだと思うからだ。(実際は兄妹の予想に反して義母からの熱烈な指導と言う名の模擬特訓によって鍛えられた実力は既に学生の中でも上位にランキングされるのだが、本人達は其れを知らない。)
「はい。俺は今年度の新入生、1年Eクラスに入る予定の風祭裕也です。」
「Eって事は特殊系のクラスか・・なら目の前の体育館に入って、Eって書かれたプレートの所の椅子に座って、教官の指示を待て。腕時計型の端末は持ってるな?」
「はい!ここに。」
上級生に促されて自分の端末を見せる裕也。
その態度に顔を綻ばせて笑顔に成る上級生は、自らも自己紹介をする。
「よし、元気が有って結構!しかし、ここではなるべく俺ってのは止めとけ、新入生の間は特にな?ココは民間の機関だけに、隠れての私闘も日常的だ。見つかったら下着での校庭1週が待ってるけどな?やるなら届を出しての決闘が良いぞ?けど、同じやるなら上は止めとけ、上級生は大抵下よりは強いからな。下手したら犯罪者の前にそいつらに殺されるからな?それと・・下級生に対する一人称は自分の自由だ。だから、今の段階では俺は、お前に俺と言っても文句は出ない。で、自己紹介だ。俺は5年の大泉健太。Bクラスで火の系統の能力者だ。お前とは学年が違い過ぎるからどうなるか分からんが、見かけたら声を掛けてこい。そこの奴らよりよっぽど良い面で骨が有りそうだ。」
「はい!ありがとうございます。・・・失礼します!」
「おう、・・・はしゃぎ過ぎて死に急ぐなよ?・・じゃな!」
「はい!」
「おう、手前らは問題あり過ぎだ!今の奴みたいな返事がココでは常識だ。少しは相手の学年を予想して対処しろ。そんな事じゃあここでは即脱落ぞ!だいたい・・」
未だ何かを言い続けてる大泉健太に目線で別れを告げて言われた様に体育館に入ろうとすると・・・目の前に見知った顔を見つけた裕也。
更に、その人物も裕也に気が付き、手を振って応える。
「やっほー、裕也君。元気してた?」
「お久しぶりです、真矢さん。・・・っと、真矢先輩・・でしたね。」
「お!?上出来じゃないか、裕也君。さては早速上級生に絞られたかな?」
「ええ、先ほど門の前で大泉先輩に色々と教えて貰いました。ココでは色々と大変そうですね?」
裕也が真矢と呼んだ上級生は、裕也のその問いに苦笑を浮かべながらも頷き。
「ああ、特に女性にはキツイ学校だよ。仮想敵が犯罪者だけに普通の訓練とも違うしね?まあ、君ら男にも最初だけ嬉しいけど、あとから嬉しがってる余裕も無くなる位の訓練が待ってるよ。・・目の保養には成るかもだけどね?」
「んん?どういうことですか?義母さんにはそんな事は聞いてませんよ?」
真矢のニヤツキとも苦笑いともとれる顔を不思議そうに見つめる裕也に、真矢は「フフフ・・」と不気味に笑って
「それは訓練開始のお楽しみだ。・・あと、一年生の中間実技発表でランキング上位(各クラスでトップ1名のみ)になったら専用の特殊スーツが貰えて、選抜代表入りが決まるから、裕也君はどれ位腕を上げたのか知らないけど、可能性は有るからその時はよろしくね?・・ささ、もう入学式が始まるから行った方が良いよ?・・恐らく君と同じEクラスにとんでもなく美人な子が居るから、君の能力を見せつけて骨抜きにしても面白いよ?じゃあね?」
「へー、楽しみだな。ええ、それでは後で。」
そう言って真矢と別れた裕也は、知り合いと話していて時間もそろそろいい頃合いになったので、体育館に足を運ぶことにした。
それから5分位で目的地に着いた裕也は、その大きさに眼を見開いて驚いた。
(デカい!幾ら日本に4か所しかない民間の施設だとしても、ここまで大きくする必要があるのか?)
そう、目的地に着いた裕也が見た物、それはどう考えても何かしらの結界を張っている大きな建造物。
普通にこのような大きさの建物がこんな大都会に建てられれば誰でも気付きそうな物なのだが、周辺の住宅からの抗議の電話は無いようなので、何かしらの遮断結界でも張ってあるのだろう。
犯罪者の能力者と対峙するときに周辺に張る結界がそう言うたぐいの物だと裕也の義理の母親、風祭汐音が裕也と希に言っていたのを思い出した。
「よし、行くか!」
一声そう発した裕也は、気を引き締めて体育館に入った。
☆
体育館は外見からして大きかったが、中に入ると、更にデカく見えた。無駄に広いフローリングの中に、各クラス100人ほどの生徒が座れる椅子が、合計3列あり、隣のクラスの邪魔になると言う理由からだろうか、間が10メートル位開いている。
(こんなに日本に能力者が居たのか…、しかしこれでも犯罪者に対抗できるようになる奴らは一握りらしいから、犯罪者は恐ろしいな。もしかして、犯罪者の能力者を育成してる機関もあるんじゃないのか?)
裕也はまさかと思う予想をするが、答えは当然ながら出ない。
それから気を取り直して体育館の中を進み、大泉健太に言われた場所で静かに待っていると、裕也の目の前に思わず声を上げそうになる位の美少女と、同じ位美形の少年の恐らく兄妹の様な二人が、裕也に話しかけてきた。
少女の方は長い髪をストレートに流して背中で止めている。
兄の方は邪魔になるのか、同じように長い髪を首の後ろで縛っている。
それにしても、日本人の筈なのに金髪の碧眼なのはどういう事だろうか?
(もしかしてハーフか?それとも染めてるのか?いや、それとも外国のエレメントの血が少量混ざってるのか?しかし、それでも金髪は珍しいな)
「あのー、ここ空いてるかな?」
「すみませんが、二人座らせて貰いますね?」
「ああ、誰も居ないから気にするな。」
裕也はそう言って隣に座るのを許可する。
すると、男の方が「ごめんね?」と詫びを入れて右に座り、少女が左に座る。
(何故空いてるのに一緒に座らないんだ?)
そう思ってみていると(勿論少女)、不意に少女と眼が合ってお互い微笑合ってから。
「では、新入生の挨拶に呼ばれてますから行ってきますね?・・っと、お名前は?」
言ってから、鞄を足元に置き、裕也の名を尋ねてくる。
「ああ、言ってなかったな。俺は風祭裕也だ。」
「裕也さんですね?私は水守麗菜。そちらが従兄の炎堂浩太。苗字は違いますが、顔が似ている通り、従兄妹です。それと、私は水の系統の能力者ですが、ココに座っている事から分かるように、特殊系の部類の能力者です。そして、兄は同じ特殊系でも火のタイプですね。ここで言わなくても良いかもしれませんけどね?…では、行ってきます。兄様」
「うん。出来る限り無理はしないようにね?何をやらされるのか聞いて無いんだから。麗菜の能力なら今の時点では同じ一年に敵は居ないだろうけど、安心は出来ないから」
「ええ、分かってます…っと、イキナリですか!」
兄妹が意味深な話をしている時、背後から何かが飛んできた。
しかし、それを後ろも見ずに背後に水の膜を張って防ぐ。
どうやらこの水の膜の様な物がこの水守麗菜の能力なのだろう。
そして、その水の膜に絡め取られた石が5つ。
更に、背後から偉そうな声が届く。
「おー、悪い悪い。自分の能力の練習してたらうっかり狙いがずれちまった。すまねえな、エレメントのご令嬢殿?」
そう言いながら、やって来たのは偉そうな声に似て、矢鱈大きい体格の青年と言っても良いような顔の新入生だった。(制服の色で1~3年は区別できる。4・5・6年は私服が認められているが、態々買ってくるような者はあまり居ない。その為制服で見る場合に備えて、バッジででも学年が分かるようになっている。)
その同じ新入生に、麗菜は笑顔で応える。
「いえ?あれぐらいのハプニングは慣れてます。それより、其方は私の事をご存じのようですが、私は存じ上げないので、自己紹介をして貰えませんか?…それとも、オープニングの実演に貴方も呼ばれているなら、一緒に行きながらでいいですが?」
「ふん!俺はアンタらみたいな優秀な家系じゃねえから挨拶になんか呼ばれる訳ねえんだよ!優秀だからって嫌味か!?ああん?!」
もう、やけくそに成って恨み言を言いながら顔を真っ赤にさせた少年に少女は肩を竦めながら呆れ顔で諭す。
「そんな事は言ってないでしょう?私は呼ばれていたら…と言ったんです。呼ばれてないなら、今後顔を合わせるかどうか分かりませんから、名前だけでもお願いします。私は家の世間体から、記憶力には自信が有りますから、名前と顔くらいはこの場で説明されても覚えますよ?」
その返答で更に顔真っ赤にさせた少年は、怒鳴り声と言える程の声量で己の名を聞かせる。
「俺は石橋重語だ!Cクラスで鉱物の能力者だ。クラスが違っても実技は一緒になる事が多いんだからんだから、良く覚えとけ!…じゃあな!」
そう言って、石橋重語は地団太を踏むような足取りでCと言うプレートの席に着いた。
「では、裕也さんにお従兄様。改めて行ってきますね?」
「ああ、気を付けてね?」と従兄の炎堂浩太が言い
「実演の方、期待してるよ」と裕也が言ってから
「はい、任せて下さい。」と水守麗菜が応えて壇上に向かう。
そうして、麗菜が去ってから、不意に浩太が裕也の方を見て
「どう?惚れた?可愛いでしょ?内の妹」
「…浩太ってシスコン?」
何故か急に妹の自慢をされたので、裕也は聞いてみたのだが…
「シスコンの何が悪いの?!妹って最高だよ!?朝寝坊したら起しにベッドに来てくれるんだよ?!これが嬉しくない兄が居ると思う?!いや、断じて居ないね!僕は言い切れるよ」
「浩太…声が大きい…。周りの視線が痛い…」
そう、裕也と浩太の会話を周りで居た生徒が興味深げに聞いていたのだ…
しかも、男女比が恐ろしく偏ってる。・・・と言うより片方の視線しかない。
普通の特殊系統の男女比は3:7なのだが、今裕也達に向けられている視線は100パーセント男子生徒の生暖かい視線だった。
「ま、まあお前の妹が可愛いのは分かるが、今は入学式のオープニング実演の方を楽しく見せて貰おうじゃないか?この実演に選ばれるって事は、次期生徒会の重鎮に名乗りを上げている様な物なんだろ?興味深いじゃないか。今の段階でどれだけ上と差が有るのか見て置いて損は無いだろ」
「まあね。その中に我が愛しの妹君も入っていると思うと光栄の極みだね」
「ハハハ…」
裕也はもう、浩太のシスコンに付いて行けなくなっていた。
それから数分後、予定通りに式は始まり、ココの説明が行われた。
先ずは能力者の割合。
ここの能力者は民間の関係の施設という関係もあり能力的な物に色々と区別を付けている。
その能力は男女比で表すなら特殊系統(E)には3:7で女生徒が多いのに対し、身体強化(火や水などを己の体に付着させ、その力を利用して筋力を上げたりする)系(B)に関しては8:2で圧倒的に男子生徒が占めているなど。
マシン関連の系統(主に製造)(D)に関してのみ、5:5の割合だ。これは民間の関係にしては女性の比率が高い様だ。(能力者のマシン関連の技能者の話はここではしなくても良いだろう。)
先ほどの石橋重語の放出系(C)は、6:4で何とか民間の関係の施設としては平均的な部類だろう。
そして、この学校に於けるエリートと言ってもよい、現象は元より周囲の物質を利用できる念動力系(A)クラスは、その多くが女生徒で占められる。
その割合はなんと2:8で、強化系が男性の体内の男性ホルモンを燃焼させて構成物質を変更するのが主なら、念動力系は女性の体内の女性ホルモンを燃焼させて物を動かしたりする物だ。
他にも、マシン関係の物では、この体育館に入る前に裕也が会い真矢と呼んでいた結城真矢が先ほどの大泉健太と同じ5年生で、Dクラスに所属し、汐音の情報ではオリジナルの戦闘用スーツを考案、開発した才女なのだという。
そして、極稀にだが、空間自体を掌握できる空間支配系の者も居るが、本当に少ないので、学校では区別はされないらしい。
この様に、施設内でも色々と別れており(当たり前なのだが)、戦闘訓練であっても同じ学年でも訓練を合同でするのは関連の訓練内容で無ければ週一のランキング戦位だ。
理由は簡単で訓練自体が同じクラスの1学年上の者との簡単な実戦格闘訓練であったり、同学年の違うクラスの性質を理解するための模擬戦だったり、何かしらの違反をした場合の懲罰として、三学年以上離れた者との公開懲罰試合。(まるで軍隊の様だが、最高責任者が軍隊出身者だからこういう物に成る。)
懲罰試合はその名の通り、上級生の実力を見せつける試合で、余程の違反をした者でないと行われない試合だ。
この他にも色々とあるのだが、情報が有り過ぎて、一日では終わらないと言う事で、各自情報端末から入手せよとの言葉で幕を閉じた。
次に施設は結界が有ると言う事を利用し、様々な物が有る。
訓練施設は勿論のこと。各種レジャー施設に娯楽施設。下が未成年の施設だけあって流石に歓楽街などは無いが(これは表向きで、あるには有るが複雑な手続きが必要な上、上級生の5・6年生と教官のみ立ち入りが許されている。)この施設だけで大都市で生活している全ての事が出来る。
されど、それは飴と鞭であり飴である。
その裏側の鞭は違反者に対しての物だ。
これも詳しくは情報端末での確認となった。
ココまでの説明で約2時間。
あっという間の時間であったが、これが極僅かな説明だったと裕也が知るのは端末を見た時だった。
因みに母が教官とはいえ、本当にこの学校に入る意志が有るかどうかも分からない二人にはそれ程多くは語っていない。
全てが極秘事項の為もあるが、予め知っていては新鮮味が半減すると言う理由だ。
そうしていよいよこの入学式でのメインイベントである在校生の中での裕也達より一つ上である最低学年の2年生と、新入生のそれぞれのクラス代表一人ずつの5人の、1:5の実戦能力対決が始められることになった。
このイベントは裕也達の義母であり、ここの教官である風祭汐音に言わせれば、謂わば実力の見せしめだ。
ココでは生半可な訓練はやっていないと言う意味のもので、1年でもここで過ごせば一つ下の、新入生如きでは相手に成らない事を知らしめ、後の態度の改めに使うのだ。
そして、その開始の言葉はこの学校の最高責任者であり、全国でも名の知れた実力者である校長、西園寺公康が放つ。
「初めまして、新入生諸君。長い話で疲れたと思うのでワシからは1つの事しかも言わん。唯、生き残れ。生き残った者だけが勝者だ。犯罪者にとっては我々は目の上のタンコブにしか過ぎん。女性にとっても男性にとっても向こうからすれば邪魔者であり、排除の対象だ。死ぬのが怖ければ強く成れ。…以上だ。始めろ」
「はい!……予め言われていた生徒は壇上へ!他の生徒はスクリーンを視ろ。このイベントではダメージのポイント制が採用されるが相応の衝撃もあるから注意はしていろ。恐らくは殆ど時間が掛からないだろうが、早々脱落では面白くないので、一分以内の脱落者は今日の全スケジュールが終了した後に個人レッスンを予定している。…死にたくない奴は粘れ!…集まったな?それでは自己紹介だ。スクリーンに映ってはいるが、確認の意味も込めての処置だ。Aクラスから名を言って行け!」
校長の話の後で、司会の担当者(勿論彼もこの言動で解かる通り元軍関係者だ)がイベントを開始させる。
先ずはAクラスで、勿論女生徒だ。長身であり、長い青髪で行動の邪魔に成らない様に後ろで縛っている。切れ長の目が勝気な性格をイメージさせる美少女だが、念動力者という事で、もしかしたらあの髪も何かに利用するのかも知れない…と裕也は予想した。
「はい!私は小泉可憐と言います。家は…」
「名前だけでいい!」
バシン!といつの間にか手に持っていた鞭で可憐と名乗った少女の足元に亀裂を入れた。
その状況に新入生はザワメキ、後に静かに成る。
この様に、幾ら民間の機関であっても、指導者が元軍の関係者だと、指導法もそれに準ずるのだ。
「次!」
次はBクラスで男子生徒だ。こちらも長身だが、丸刈りで強面の偉丈夫だ。
本当に同じ学年かと裕也が疑問に思う位の体格と威圧感がある。
この体格から更に身体強化をして頑丈に成るのは少し怖いんじゃないか?と裕也はこれも疑問に思った。
「はい!俺「お前は何様だ!新入生が目上に向かって俺はここでは殺されるぞ!」…僕は大河内正也です」
自己紹介の最中に言われたので分からなかったが、良く見ると先ほどの物と同じような亀裂が足元に入っていた。
「今度から気を付けろ!…次!」
次はCクラスで一応男子生徒が多い中で、女生徒の代表だ。
しかも割と小柄な子で、言っては何だが、小動物の様な感じさえする。
…しかし、これでも能力を使えば先ほどの石橋重語よりは確実に強いと言うとだろう。
それでなくては代表には成らない。
「はい…。私は檜楓…です」
バシン!っとまたも鞭が響き、またも修復されていた壇上の亀裂にまたも同じような亀裂が入った。
「声が小さい!それでは犯罪者に襲われた場合の助けを呼べずに無駄死にだ!一応出動命令があれば各自無線機を持たされ、発信機も食事に混入されているが、万が一の場合や敵の能力で通信障害が発生しないとも限らん!その時重要なのは己の声のみだ!特に貴様の様な放出系の者は声を遠くに飛ばせる様な能力もあるが、それも殆どは元の声量をベースに決まる。今がその小ささでは助けが来る前に敵の餌食だ!…分かったなら、もう一度!」
「はい!私は檜楓です!」
今度は最後まで大声で言ったためか、教官の反応も良かった。
「うむ!宜しい!…次!」
何とか合格を貰えた少女は安堵したかのように肩を落とした。
そして、次はDクラスで細身の男子生徒。いかにもインテリ風の眼鏡を掛けた優男だ。
「はい!僕は夕凪春樹です!」
「よろしい!次!」
そして、いよいよ麗菜の自己紹介だ。
すると、麗菜が一歩前に出た途端、体育館の全体からザワメキが起こった。
しかし、進行役はその様な事お構いなしに続ける。
「はい!私は水守麗菜です!」
「宜しい!…どうやら、一人エレメントのご令嬢が居る様だが、ここでは肩書きは一切関係ない。実力が重視される世界だ。…それを肝に銘じて置け」
「はい!了解です!」
「うむ、いい返事だ。」
そう頷いてから、次に何時現れたのか、向かいで壇上の新入生に向かってニヤついている男子生徒に向かって、「もういいぞ!」と言って開始を促した。
しかし、双方どういう事か分からないので動かない。それを見て、仕方ないとばかりに進行役が説明を始めた。
「お前らの仮想敵は何だ?同じような能力者の犯罪者だろう!そんな者たちが態々こちらの準備を完了するまで待ってくれるのか?答えは否だろう?…分かった者から準備及び戦闘行為を始めろ。新入生は戦闘中に各々の持てる限りの実力を示せ。この混乱の状況下で、それが出来れば我々も対犯罪者への配属先に検討する余地が出る。…始め!」
進行役の言葉により、改めてイベントが開始された。




