第2章 2月(12)
「星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編となっていますので、当小説で直接的にはわからない背景・人物関係・エピソードなどもありますが、ご容赦下さいませ~。
いよいよチョコ投票も迫ってきました。はたして小春は、誰にチョコを投じるのでしょうか?
そして、友哉のチョコ獲得数はどうなるのでしょうか?
お楽しみ下さい^^
チョコの獲得数が少なくて、最下位になるかもしれないという友哉の悩みも、いよいよ今日で終わりを迎えることとなった。生徒会室の廊下に設置された、各候補者用の箱にチョコを入れる期限は今日の放課後までである。私も迷いに迷った末に、ちゃんと自分の意思で一人に決め、既にその人の箱にプレートをつけたチョコを投入済みである。
「友哉くぅん、いよいよだねぇ~」
「はい、そうですね」
麻莉子と友哉がしみじみと語りあっている。万策は尽くしたというような2人のすがすがしい顔を見てると、どうにも不思議な感覚に襲われてしまう。
「それで麻莉子、どうなの。友哉の感じは?」
それなりに気にはなっていたので、麻莉子に尋ねてみる。
「うぅん……、どうかなぁ、どうなのかなぁ~……」
先ほどのすがすがしい表情とは裏腹に、麻莉子の返事は少し重い。
「だって麻莉子の策略をもってすれば、友哉のチョコの数を増やすくらいお手の物でしょ?」
「う、うん……たいていの事はそうなんだけどぉ……、今回に限っては麻莉子の力が及んだかどうかぁ……」
「いいんですよ、麻莉子ちゃん。これまでぼくのわがままのために、御尽力頂いて本当にありがとうございました。ぼく、全然大丈夫ですから」
隣で聞いていた友哉が、そう答える。でも、友哉のこの発言は、すでに最下位を覚悟しているってことなんだろうか。私は、少し心が痛くなる。
「生徒会で集計して……結果は明日かぁ」
始めてバレンタインチョコ祭りの事を聞いた日から一ケ月ちょっとの間に、あれこれといろんな事があった。
「うんうん。明日の放課後ぉ、多目的講堂での発表を待つばかりぃ」
「でもさ、興味のない人は、別に見にいかないんでしょ? 友哉と麻莉子はどうするの?」
友哉のガッカリする姿は見たくないというのが、私の本音だった。
と、いきなり麻莉子のテンションが上がる。
「えーーー!? 小春ちゃんったらぁ、何言ってるのかなぁ~。もちろん見に行くに決まってるじゃないよぅ。誰が1・2・3位になるのか、この目で確かめなくっちゃね~。果たして、この麻莉子の票読みは、どこまで正しかったのかぁ!」
これまでの付き合いをからすると、麻莉子のこの反応は普通に理解できた。
が、「小春さん、ぼくも行くつもりですよ。最後まで見届けたいですからね」という友哉の言葉には、いささか驚いてしまった。
「えっ? 友哉、わざわざ行く必要ないんじゃ……」
『友哉、最下位の結果をわざわざその場で聞かなくてもいいんじゃないの?』とは、さすがに私でも言えるはずがなく、遠まわしに言ったつもりが、それでも友哉は行くと言う。
麻莉子と友哉が行くと言ってるし……これは私も行かねばならないだろう。
(なんか嫌だなぁ)
その時に、私はなんて言って友哉を慰めたらいいんだろうか。
はぁ。2人に気付かれないように、私はこっそりとため息をついた。
翌日の放課後。
「小春ちゃん、早くぅ。早く行って一番いい場所を取らないとぉ~」
麻莉子のはりきり具合と、これから訪れるであろう友哉の落胆ぶりを思う時に、それは私にとってあまりにもキツかった。
(麻莉子、はしゃぎすぎだよ……)
私はそっと友哉の表情を盗み見る。友哉が何を思っているのか探ろうと思ったけれど、いつもの友哉の表情で私にはよく分からない。
私が、そうしてなんとなくやきもきしている時に、続いて桐生が私たちに話しかけてくる。
(……たく、こんな時に桐生は。もうちょっと空気読んでくれてもいいだろうに)
普段の桐生は、私の事を空気が読めないとバカにしているくせに、今の桐生はいったいどうなのだ。
「紫月、いよいよだな」
桐生が話しかけた相手は、なんと驚くことに友哉だった。
「いよいよですね」
友哉も普通に言葉を返している。
「正々堂々、恨みっこなしだからな」
「もちろんですよ」
2人の会話から察するに。
「えっ? 友哉って、桐生とチョコの数を競ってたの?」
(2人は最下位争いなんだろうか?)
質問を投げかけた私に、友哉と桐生が同時に視線を寄越す。
「確かに……最初のハードルはチョコの数って事になるんでしょうけれど。でもですね、小春さんっ! ぼくたちは決してチョコの数を競っているわけじゃありませんからね!」
やけにキッパリとした友哉の言葉。
「小春。例えチョコの数で一番になったとしても、それ自体は俺たちにとって意味はない」
友哉と桐生は、いったい何を言おうとしているんだろうか。
「は?」
「いいの、いいのぉ。小春ちゃんはぁ、なんにも考えないでいいのよぅ。ささ、行くよぉ、麻莉子の後について来てねぇ、小春ちゃぁん」
私は3人にまるめこまれているんじゃないだろうか。
「またか……」
映画撮影を、私一人だけ知らされなかった時と、似たような気持ちに襲われた。
そうして友哉と桐生の2人は、
「紫月、後でな」
「桐生くん、また後で」
そう言ってからガッチリと握手を交わした。桐生は私たちよりも一足早く教室を出て行く。
(なにが、どうなってる?)
分からない事が多すぎだけど、意外と私には関係ない事なのかもしれないし。
(あたしが知る必要があるんなら、ちゃんと麻莉子と友哉は教えてくれたはず)
とりあえず私は、友哉と桐生の会話については忘れる事にした。
「それじゃあ、小春ちゃんに友哉くぅん、レッツゴーだよぅ!」
ざわざわと。
既に多目的講堂は、既に生徒で溢れかえっていた。
――「もうねぇ、自分の事のようにドキドキしてるよー」
――「誰が1位に選ばれると思う?」
――「誰にチョコ入れたのー?」
――「うわぁ、見て見て、三浦先輩だよ。いつ見てもカッコイイよねぇ」
女子生徒の期待に充ちて、講堂内は異様な熱気に包まれている。
「ちょっと、麻莉子、そんな前に行かなくても……」
「いいの、いいのぅ。人生はぁ~、楽しんだもの勝ちぃ~」
本当に麻莉子は楽しそうに見える。そして、友哉の表情は緊張に溢れているように見える。
(どうか、友哉が最下位じゃありませんように)
私はそれだけを心の中で唱え続けていた。