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Space Sights  作者: 津辻真咲
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宇宙の絶景を守る仕事

太陽が惑星状星雲を形成し、宇宙規模の連合が出来た平和な未来。

人類や宇宙生命体たちは、希少な生物や惑星系を守るため、日々、宇宙環境と戦っていた。宇宙の絶景、スペース・サイツを守るため。



1.宇宙の絶景を守る仕事



ここは、〈宇宙環境省アンドロメダ支部〉。アンドロメダ銀河を中心として形成されている宇宙連合の地方都市だ。太陽系が存在していた天の川銀河は、このアンドロメダ支部に所属している。

「エリカ」

 エリカ・ニチュードは、サラ・ブラウンの声に振り返った。

 サラ・ブラウンはこのアンドロメダ支部で働く研究員である。金色の髪に青色の虹彩をしている。服装は白衣にくすんだ青色のスカートとネクタイ、そして、濃い灰色のカッターシャツを着ている。

一方、エリカ・ニチュードは、人工知能搭載の人類型調査アンドロイドである。真緑色の虹彩に、漆黒の髪色をしている。制服は、緑色のスカートとネクタイ。それに白いカッターシャツの半袖だ。肩には、黒色の肩章があり、それには3つの装飾がついていた。

「今度調査する事が決まった惑星系の第4惑星の資料よ。ちゃんと目を通しておいて。そこには厄介な火山地帯があって地表に出た海嶺やマールがたくさんあるから」

「はい」

エリカは返事をする。

「それに加え、空気中の9割が二酸化硫黄だよ」

違う声が聞こえて来た。サラ・ブラウンの隣にいる、李四リ・スーが話し出したのだ。

彼は、サラ・ブラウンの同僚であり、婚約者でもある。見た目も中身もおとなしく、黒髪に黒い虹彩、淡い灰色のカッターシャツを着ている。ネクタイは白色で、銀色の眼鏡をし、白衣を着ている。

「大丈夫です」

エリカはこの省で最高峰とされている調査アンドロイドと同じ型である。あらゆる危険を想定して製作されているため、性能は完璧である。

「あ」

サラ・ブラウンは何かを思い出して、エリカの方を見る。

「報告書は、メールで送って?」

「え?」

エリカは、きょとんとする。

「私と四は、今から〈エリダヌス本部〉で会合なんだ」

 サラ・ブラウンは笑顔で説明する。

「あの〈無から宇宙を人為的に作り出そうとする〉計画の会合ですか?」

「正解」


宇宙は、無の状態から発生する。それが虚数時間での成長後、インフレーション(=急激な膨張)を引き起こし、そして、ビッグバンが起こる。そのビッグバン後、宇宙は光子が直進出来ない程の高温高圧だったが、膨張を続けて冷えて行き、今の宇宙背景放射の3Kケルビンに至る。


「このまま、この宇宙が膨張を加速させていくと星間ガスが薄まり、恒星や銀河系が生まれなくなってしまうからね。他の宇宙から粒子や元素を取り寄せる事が出来れば、膨張もコントロール出来るし、星間ガスも薄まる事はないんだけど。……ところで、そろそろ出発しないと会合間に合わないわよ」

サラ・ブラウンは、エリカから李四に視線を移す。

「え!?」

李四は、慌てて腕時計に目をやる。

「あとは任せたわよ、エリカ」

「はい」

エリカは立ち去る二人に小さく手を振った。


宇宙環境省は、もうすぐ赤色巨星になる恒星の惑星系に調査員を派遣している。それはその惑星系の生命体などを保護するかどうかを決める為である。専門家による会議を招集したり、一般の方々へのネット投票をしたりしているのだ。この機関が発表した資料をもとに全宇宙につながっている、ネットでの投票で過半数を取れば、その対象となった惑星の生命体は、宇宙環境省によって保護されることとなる。


――今度の惑星は、おおぐま座の電波銀河M82の惑星系第4惑星かぁ。

エリカが資料を見ていると、宇宙環境省アンドロメダ支部調査部所属の作業型ロボット、レーン・オジ・ボルケーノが、話しかけて来た。

「こんにちは。エリカ」

「あ。こんにちは。元気?」

「もちろん、元気だよ。あ、それから、今日の相棒は僕だよ」

「うん、よろしくね」

「こちらこそ」

笑顔で答えると、レーンも画面で笑顔を作った。

彼は頭部が球状で、その表面は表情を映し出すスクリーンになっていた。



乗り込んでいるスペース・シャトルは静かに進む。しかし、速度は光速だ。ワープ・エリアまではこうして突き進む。

ワープ・エリアには、ワームホール型ワープを行う事が出来る、ワームホールが開きっぱなしになっている。いちいち、スペース・シャトルの機能でワームホールの生成はしない。スペース・シャトルの進路を担当省庁が管理する為である。しかし、緊急用に、そのワープ機能が各スペース・シャトルに装備されていたりもする。


《ワープ・エリアに突入しました。ワープを開始します》

アナウンスが流れた。でも、搭乗している二人は、ほとんど気にしていなかった。

「楽しみです。久しぶりの火山地帯」

レーンのスクリーンが淡く光りだす。

「レーンは、元々火山の地質学班出身だからね」

エリカは、レーンの方を見て微笑む。

「まぁね。……すごい?」

「うん」

ちなみに、レーンは今回の第4惑星の主任担当者である。だから、この惑星に行くのは、これで3回目だ。


しばらくすると、今回の惑星の火山地帯にある火山の爆発音などがだんだん近づいて来た。

「どうやら着いたみたいだね」

「はい」

エリカとレーンの二人は、気を引き締める。いつだって調査員は危険と隣り合わせである。そのせいか、必然と調査員は、機械たちが大半を占めていた。

「行こう」

「はい」

エリカとレーンは、低空飛行のスペース・シャトルから飛び降りる。そして、溶岩が冷えて固まった大地に上手く着地した。見渡す限り、溶岩の台地と溶岩トンネルの膨らみだらけである。エリカとレーンの二人は、省の計算通り火山地帯に降り立ったようだ。

この惑星では、海洋が確認されている。遥か昔存在していた地球のように、水中で生命体が進化をしているかもしれないのである。その海洋の中の硫黄噴出孔周辺の生命体を探す事。それが今回の任務である。

エリカはレーンと共にこの惑星の海洋へと飛び込んだ。水しぶきが飛散する。そして、二人は、海中へと潜っていった。

第4惑星のせいか、遥か昔の地球よりは減光が早く感じる。しかも、この惑星の水には、タンニンという成分が含まれているから、水が赤いのだ。

《あった。ここの硫黄噴出孔は浅い位置にあるね》

《そうみたいですね。生物も結構いますし。採取します》

レーンは、作業手を伸ばす。

 このとき、二人は自身に内蔵された通信機器を使用して話をしている。水中ではいつもそうなのだ。

《採取完了。戻りますか?》

《はい》



エリカとレーンは、水面に顔を出す。すると、ちょうど淡い桃色の空に、この惑星の3つの衛星が見えた。

――きれい。

エリカは、少し心を奪われた。

――美しい、自然。

 すると、二人の真後ろから轟音が響いてきた。それと共に少しだが、地震のような振動も伝わってきた。何かが近づいてくる。

「?」

二人は振り返る。そこには、巨大生命体が水面から姿を現していた。

「最終捕食者ですかね」

レーンは、ぽつりとつぶやく。

「逃げましょう」

「そうだね」

レーンとエリカは急いで海洋から出て、逃げた。すると、次の瞬間、轟音と共に地面に半円柱状の跡がついた。どうやら今の轟音は、あの最終捕食者による攻撃だったようだ。あと5メートルずれていたら、二人は再起不能だっただろう。

その最終捕食者は、20メートル以上の巨大なイソギンチャクのような生命体だった。体表面は何本もの触手に覆われ、皮膚が見えなかった。触手を含めると体長は35メートルを超えているように見えた。

二人はその生命体の攻撃を避けて行く。

「的確に攻撃してくる。きっと視力が発達しているんだ」

「なるほど、あいつがこの惑星の知的生命体か……」

通常、調査員たちは採取する生命体を傷つけてはいけない。自分自身を守る以外は……。

《エリカ、装備銃なら》

 レーンは、エリカに話しかける。装備銃には2種類のモードがある。一つはレーザー。もう一つは相手を麻痺させる〈通電〉である。

エリカは相手の攻撃を避けて行く。そんな中、レーンは、通信機器でエリカへ音声をとばす。

《エリカ、装備銃で》

《うん、分かった。レーンはデータを取ってて》

レーンはエリカに言われた通り、その生命体の観察データを取ることにした。一方、エリカは攻撃を避けていた。

――きりがない。

――頭部に一回、引き金を。

《あ》

――見つけた。

エリカは、イソギンチャクのような触手に覆われていて見えなかった、その生命体の表皮を発見した。そして、体内まで届くようにパワーを最大にして引き金を引く。すると、その生命体は通電を受け、静かに海洋へ沈んでいった。


エリカは銃をしまうと、レーンの所へ駆け寄る。一方、データを取っていた彼は今回の調査終了をスペース・シャトルの操縦士へ伝えた。

「任務完了いたしました」

数十秒後、スペース・シャトルは低空飛行で戻って来た。



「エリカ、お帰り」

アンドロメダ支部では、もう既に研究員のサラ・ブラウンと李四が先に帰還していた。

「あれ? 会合は?」

「思っていたより、早く終わったの」

――そうなんだ。

エリダヌス本部の急な変更だったようだ。

すると、サラ・ブラウンの左薬指で何かが光った。いつもの光り方とは違う。指輪が違うのだ。

「……おめでとう」

エリカは優しく微笑んだ。


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