『序章』
『序章』 終わりはいつも突然に
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ーーおい、起きろよユウーー
ーーユウさん起きてくださいーー
ーーユウ、起きないと悪戯しちゃうぞー?ーー
声……が……聞こ……える。
懐かしい……ような、聞いてると悲しい……ような。
起き……ないと。
僕は身体を起こす。目が徐々に開き、目に入る日光に少しずつ慣れていくように、視界が開けていく。
「あっ、起きました! 起きましたよ、透さん!」
「やっと起きたか寝坊助。いくら寝るのが好きとはいえ、限度があるだろ限度が」
「まぁまぁ、良いじゃありませんか。ユウさんは連日働き詰めでしたし、別に迷宮探索も急務ではありませんし、ゆっくり行きましょう」
「いやいや、甘いよ理恵ちゃん。ユウってば、好きあらば寝ようとするから、無理にでも起こさないと一生起きないよ」
「奏の言う通りだな。こいつ、あっちでも俺の事をちょくちょく枕にしやがるからな」
「…ハッ! まさか、BL?」
「おいやめろ、冗談でもそんなこと言わないでくれ」
目の前には3人の男女。
一人目は鏡山透。黒髪黒目の日本人男性。クラス『鏡の勇者』所持者。『鏡魔法』を扱う魔法戦士。
二人目は神坂理恵。黒髪黒目の日本人女性。クラス『剣持つ聖女』所持者。『聖剣魔法』を扱う聖女。
三人目は天谷奏。黒髪黒目の日本人女性。クラス『天揺らす歌姫』所持者。『歌魔法』を扱う歌姫。
『僕』達は日本からの転移者。高校からの4人で下校中、足下に魔法陣が現れ、この国『アイン』にやってきた。いや、国とは言ったが、この国には『外』が存在しない。地球のような球形ではなく、ただ無限に平面に広がっているわけでもない。ただ、円形状の平面上に国が存在し、その外側は物理的に断ち切られている。国の外に出ようとしても、壁があって出ることはできない。
そんな世界で『僕』達に求められたのは、『迷宮の攻略』。この国の中心に大きく開いた『穴』。壁に備え付けられた階段を降りていくと、そこに広がるのは、常識が外界と隔絶された世界『迷宮』。
最下層は地下100階層にあるとされ、現在は49階層まで攻略されている。その下が折り返し地点となる50階層。この迷宮では10階層ごとにボスがおり、その50階層にもボスはいるだろう。それも折り返し地点だけあって、これまでよりも強いかもしれないボスが。
『僕』は自分の『ステータス』を脳裏に描く。
【名前】 幻桜ユウ
【レベル】 102
【クラス】 シーカー 幻想の旅人
【スキル】 幻想魔法
レベルの割には非常に簡素なステータスである。本来シーカーは基本スキルである『探索術』や『状態異常耐性』というのを誰もが備えている。だが、『僕』はそんな『スキル』は持っていない。というか、所持できない。
ここで、『ステータス』に関して説明するとしよう。
レベルとは何かしらの経験を積んだことによって上がるもの。探索にしろ、討伐にしろ、はたまた料理にしろ、その人にとって『得るもの』があった時にレベルは上がる。
RPGゲームの様にレベルが上がれば『攻撃力』や『守備力』が上がる、なんて事は無い。レベルとは即ち、『強さ』ではなく『人生の積み重ね』を表すもの。それ故に、本来『スキル』とは『得たもの』であるはずなので、レベルが大きいという事はそれなりに得たものがあるのが普通なのだ。
だと言うのに、『僕』の『ステータス』は非常に簡素なものだ。見やすいと言えばそれまでだが、『僕』の『スキル』は『幻想魔法』ただ一つ。それなりの雑務はこなして来たはずなのに、何一つとして『スキル』として昇華される事は無かった。その唯一と言って良い『幻想魔法』にもレベルは無く、どんな文献にも載っていない異色を放つ『スキル』なのだ。
『積み重ね』を表すレベルが無いという事は、つまりこの『スキル』には積み重ねる余地は無く、この『スキル』は既に完成されているという事なのだろう。何とも使い甲斐のないものだ。まぁ、面倒くさがりの自分には丁度良いのかもしれないが。
『僕』はため息を吐き、起き上がる。
「ごめん、心配かけたね。僕は大丈夫だから、迷宮に行こうか」
「ユウさん、本当に大丈夫ですか? さっきも言いましたけど、疲れているなら休まれていた方が…」
理恵はそう心配してくるが、『僕』は首を横に振って理恵の頭を撫でる。
「本当に大丈夫だよ、理恵。心配してくれてありがとう」
「んぅ、もう仕方ない人ですね。了解です。ですが、危ないと判断した時は『聖剣』を使ってでも無理やり止めますから、そのつもりで」
理恵は頬を軽く朱に染めながら、仕方がありませんねとばかりに肩をすくめる。その様子を見て、頬を膨らませる人が一人。
「あぁ良いなぁ。理恵ちゃん、ユウに頭撫でられてる。私、最近撫でられてないのに」
「それはお前の普段の行動にも原因があると思うが…。まぁ、アイツもアイツで、奏の事はしっかり見ているからな。変に調子付かないようにタイミングを見計らっているんだろうよ」
「透の言う通りなんだろうけどさ。って言うか、私は知ってるんだからね! 透ってば、ユウが学校で昼寝する時、さりげなく横に座ってユウの頭を自分の肩に誘導させムグムグッ!?」
「おいバカッ、何言ってやがる!? そっ、そんな事してる訳ないだろ!? おいユウ、何も聞こえてないよな、なっ!?」
「えっ? ああ、うん」
透は急いで奏の口を両手で塞ぎ、顔を真っ赤にさせてユウに話が聞こえていたかを問う。
もちろん、ユウは聞こえていなかったので、何の話かは全く分からない。ただ、透が顔を真っ赤にさせていたので、奏がまた何か言ったのだろうなと推測しているが。
『僕』は少し微笑んで、3人に号令をかける。
「今回の目標は迷宮50階層。折り返し地点だけあって、これまでより過酷な階層になるはずだ。気を引き締めて行こう!」
「おう」
「はい」
「了解!」
3人も元気よく返事をし、それを受けユウは迷宮へと歩き出す。3人もユウの後に続く。
4人は進む。世界の秘密が眠る場所へ。
それが、目を背けていた真実であるとは知らずに。




