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究極ぼっちの異世界転移  作者: 志賀飛介
初めての異世界編
13/26

(13)合同演習

 西都の南東部には広大な草原が広がる。横助とクルミは戦士ギルド長のサンズと共にその草原を歩いていた。

「で、お前、強いのか?」

 サンズが隣を歩く横助に尋ねる。一応左胸にある勇者の証は見せたのだが、それでもサンズは半信半疑だった。

「横助さんはとっても強いんですよ!」

 なぜかクルミが得意げに答えた。

「ほーう?そりゃあ楽しみだな」

 サンズは意地悪く笑った。

(あんまり余計なこと言わないでくれよ……)

 横助は思う。

 ウエスタンでの話し合いを終えた後、戦士ギルドの依頼を何か受けたいという横助に対し、「じゃあいっそ戦士ギルドに入っちまえ」とサンズは言った。そこで手始めに午後から行うという戦士ギルドの演習に横助も参加することになったのだ。横助としてはいきなり演習するのは不安しかなかったが、クルミの「横助さんなら楽勝です!」という無責任な一言で参加することになってしまった。

(出会いが出会いだったせいか、俺に対する評価がやたら高いんだよなぁ)

 横助はぼんやりとクルミを見る。

「何ですか?」

「いや、何でもない」

「見えてきたぞ」

 そこでサンズが指差す。草原のど真ん中に武器や防具を着けた集団がいた。

「よし横助、お前あそこに入れ」

 二手に分かれた片方の陣営を指差してサンズは言った。

「え、いきなりっすか!?」

「おう、だってお前強ぇんだろ?」

「いや、まあ……」

 確かに強いかもしれないが、戦闘は素人だし、そもそもぼっちなので団体戦にはいい思い出がなかった。横助が尻込みしていると、今度はクルミがとんでもないことを言い出す。

「私も加わっていいですか?」

(いやダメだろ……)

 横助はサンズを見る。

「いいけど、お前戦闘とかできんのか?」

「戦闘は出来ませんが、治癒魔法なら出来ます」

「なら大丈夫だな。よし、行ってこい」

「はい!」

 クルミは元気よく返事をした。

(大丈夫じゃなくね?)

 横助は思う。だがそんな横助の手を取るとニコリと微笑んだ。

「行きましょう、横助さん」

 クルミに手を引かれて横助は歩き出した。


 どうやら今回の演習はヒーラーギルドとの合同演習だったようで、それを分かった上でサンズはクルミの参加を許可したようだった。しかしそれにしてもやはりこんな場所に素人二人をぶち込むなんて無謀なことをするものだと横助は思った。

「はぁ」

 横助はため息を吐く。一方のクルミはというと、さすがの社交力でもうヒーラーギルドの面々に溶け込んでいる。何やら陣形の説明などを受けているようだった。横助も一応戦士ギルドの指揮官に挨拶でもしておこうかと辺りを見回す。だがそこで違和感に気付いた。どうにも戦士ギルドの面々にやる気が感じられない。横助はそういうものなのかと思い相手の陣営を見るが、相手陣営は遠目から見ても分かるぐらいギラギラとしていた。

 すると相手陣営の指揮官らしき男が馬に乗ったままこちらにやって来た。全身を豪華そうな装備で固め、自信満々に胸を反らせている。そしてこちらの指揮官の前まで来るとにやりと笑った。

「今日はよろしく頼むよ」

「……ああ」

 対してこちらの指揮官、アーサーは他の戦士と変わらない質素な装備で、アーサーという名前に似合わずヒョロヒョロとして自信なさげだった。

「おいおいどうした?そんな弱気じゃ俺の部隊には勝てないぜ?まあ最も、お前らみたいな寄せ集めの雑兵じゃ、強気になったって勝てないだろうがな!」

「…………」

 分かりやすく煽られるが、アーサーは黙ったまま。それに苛立ったのか向こうの指揮官は「チッ……」と一つ舌打ちをすると「せいぜい楽しませてくれよ」と言い残してさっさと自分の陣営に戻っていった。

「あのー……」と頃合いを見計らって横助は指揮官に声をかける。

「ん?」

「すいません、飛び入りでこっちに参加することになった、横助です」

「ああ、うん、よろしくね……」

 アーサーは横助を一瞥する。顔は下を向き、何とも頼りない様子だった。

「あの、さっきの人、向こうの指揮官ですよね……?」

 横助がそう尋ねると、「あー」とアーサーは納得したように言った。

「彼、ああ見えてお金持ちのお坊ちゃんでね。演習でいい働きをした戦士には報奨金を出すんだってさ」

(むしろお坊ちゃんにしか見えなかったけどな)

 横助は偉そうに指揮を飛ばす向こうの指揮官を見て思う。

「そのおかげで腕の立つ戦士はみんなあっちに行っちゃって、こっちの陣営にいるのは新人とか、腕に自信のない人達ばっかりなんだ」

 アーサーは諦めたようにそう言った。

「……悔しくないんすか?」

 横助が尋ねると、指揮官は肩をすくめて見せた。

「悔しくないと言えば嘘になるけど……。僕にはお金もないしね」

(そういうことじゃなくね?)

 横助はそう思った。だがきっと横助自身も同じ立場ならそういう態度になっただろう。だから何も言えなかった。




「始めぇぇぇっ!!!」

 サンズのかけ声で両陣営は一斉に動き出す。しかし開始数分でもう既に横助達の陣営は見て分かるほど劣勢だった。前衛部隊と後衛部隊の動きはバラバラ、隊列が乱れ負傷者が上手く後退できていないのでヒーラー達が右往左往している。前衛が押されて下がっているため前衛後列にいる横助より前で後衛部隊の弓兵が弓を引いていた。

「無力化一人につき一万グラン!大将なら十万グランだぁっ!」

 相手の指揮官が叫ぶと周りの戦士達が雄叫びを上げる。ルール違反ではないのだろうが、悪趣味だと横助は思った。ヒーラーは懸命に傷を癒やそうとしているし、やる気がなさそうに見えた戦士達もいざ戦闘が始まれば必死に戦っている。

 ふと集団の中でクルミが倒れているのが見えた。しかし誰もが目の前のことで精一杯でクルミの存在に気付いていない。

「クルミ!」

 横助は叫んでクルミのもとに駆け寄った。

「横助さん……。ごめんなさい、マナ切れを起こしたようです……」

 クルミは肩で息をしている。だがクルミだけではない。周りを見渡せば同じように倒れている戦士やヒーラーが少なからずいた。たかが演習だが、ただ金のためにここまで蹂躙されるのは些か気分が悪かった。

(これは……さすがにムシャクシャするな……)

 横助の中にふつふつと何かがわき上がった。同時に体中に力がみなぎる。クルミを助けたとき、そしてゴブリンと対峙したときと同じ感覚。だがこの数、そしてこの混戦の中では得意の爆炎魔法も打てない。となるとこの状況を打開できる人物は唯一人。

 横助は指揮官であるアーサーの方を見る。先程までの諦めた表情ではない。奥歯をかみしめ、顔中に悔しさを滲ませていた。そして時折何か言いたげな顔で戦場を見ている。その顔に、いや、その気持ちに横助は覚えがあった。自信があるのに自信がない振りをした、やる前から諦めている人の顔である。例えば何かを決めるとき、クラスで話し合うとき、鏡で見たわけでも人に聞いたわけでもないが、自分もきっとあんな顔をしていたであろう事は横助もよく分かっていた。

横助は黙って自分の掌を見つめる。掌を中心に冷気が溜まる。

「横助さん?一体何を……」

「大丈夫だ、たぶん」

 心配そうに見つめるクルミの肩を抱き寄せ、勢いよく地面に掌を叩き付けた。

 途端に甲高い音を立てて地面が凍り付く。氷は入り交じる両軍の足下を真っ直ぐに進むと混戦地帯の後ろ、敵大将がいる辺りで一気に広がった。地面もろとも戦士達の足が凍る。騒がしかった戦場がしんと静まりかえる。そして一拍おいてざわざわと波が広がるように動揺の声が上がった。

「すごい……」

 クルミは感嘆の声を漏らした。

「やってみるもんだな」

 炎が出るなら氷も出せるはず、という安直な考えでの行動だったが結果は大成功だった。相手の陣営の中央付近にいた戦士達が足を止められ、指揮官が一時後退を命令している。

 その隙に横助はアーサーに叫ぶ。

「おい指揮官!」

 指揮官は目の前で起こった光景を呆然と眺めていたが、横助の声にはっと我に返った。

「悔しいんじゃないのかよ!何しょうがないみたいな顔してんだよ!」

 アーサーは驚いたように横助を見つめた。

「お前が言えば、俺は動くぞ!!!」

 その言葉はアーサーに向けたものだったが、周りの戦士達の心にも響いていた。あちこちから「そうだ!」「やれるぞ!」と声が上がる。やがてそれは戦場を包む大きな声になる。

 正直横助はここまでなるとは思っていなかったが、それでも悔しさはここにいる全員が感じているはずだという確信があった。あんな風に人を金のように言われて、好き勝ってやられて嬉しいはずがないと。

「やりたいようにやってみろよ!!!」

 横助は叫ぶ。その声が戦場を駆け巡り、アーサーの鼓膜に届く。アーサーの目に光が灯った。

「……前衛部隊は隊列を整えろ!!!」

 そんな声も出せたのかというほどよく通る声でアーサーが叫ぶ。

「負傷者は後ろへ!ヒーラーはその後ろから身体強化及び治癒魔法!後衛部隊は前衛部隊の動きに合わせて一斉に弓を引け!残ったヒーラーは後衛部隊の支援だ!」

 指揮官の指示でバラバラだった陣が再び整列する。一方相手の陣営は氷をはがすのに手間取っているようで、隊列もバラバラだ。

 そうこうしているうちにこちらの陣は隊列を整え、負傷者の治癒まで手が回っていた。

「あ、あの……横助さん……」

 クルミの声で横助ははっと我に返る。腕の中にクルミを抱いたままだった。

「あっご、ごめん!」

「いえ……」

 クルミは顔を赤くして俯く。

(か、可愛い…………って今はそれどころじゃねえ)

 クルミはマナ切れで動けない状態だ。横助は辺りを見回して手が空いていそうなヒーラーを探す。そしてすぐに髪の長い女性のヒーラーを見つけた。

「あの!すいません!」

 ヒーラーは顔を赤くしてぐったりとするクルミを見てすぐに駆けてくる。

「どうしたの!?」

「クルミが、この子がマナ切れを起こしたみたいで……」

「それは大変!ちょっと待ってね」

 ヒーラーの女性はそう言うとクルミに向かって手をかざした。掌がじんわりと光る。同時にクルミの表情が少し和らいだ。だが顔はまだ赤いままだ。

(もしかして照れてんのか?それともマジで体調が悪いのか?)

 横助は思うが、すぐにどちらでもいいかと思い直す。どちらにせよ、今のクルミの状態でここにいるのは危険だった。それに横助にはまだやることがある。

「すいません、クルミのことお願いします」

 横助はそう言ってクルミから体を離す。だがクルミは「あっ……」と名残惜しそうに横助の服の裾を掴んだ。

「クルミ?」

 横助がクルミを見ると、クルミは恥ずかしそうに俯いた。その様子を見てヒーラーの女性は納得したように頷く。

「あ、そういうこと」

「どういうことですか?」

 横助は聞き返すが、女性はそれを無視してクルミに向き直った。

「でもクルミちゃん、あなたはまだ万全じゃないわ。ここは一旦下がりましょう?それに彼は大丈夫よ。さっきもすごい魔法を使ってたし、魔法が使えるならそう簡単にやられたりしないわ」

 女性の言葉にクルミは渋々ではあるが納得したようで、「そう……ですね」と頷いた。

「横助さん、無理はしないで下さいね?」

 おそらく横助がまたマナ切れになることを心配しているのだろう。だがさすがにもう三度目なので、横助もある程度は力加減を覚え始めていた。

「大丈夫」

 横助は力強く答えた。


もっと早く投稿するつもりだったんです。本当です。

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