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1 聖良とセイラ

「掃除を任せても埃を残すなんて、本当にあなたは使えないわ!」

「本当、お母様の言う通りよ! お母様の血を引いているとは思えないほど濁った、薄汚い水晶ね!」


私はフンと鼻で笑い、ドレスの裾を翻してシエラちゃんを冷たく見下ろした。お母様は「あら、セイラ。今日も厳しいわね」と満足そうに目を細めている。


鏡のように透き通る白髪に、吸い込まれそうなブルーの瞳。私とシエラちゃんは、同じ宝石族の血を引く姉妹だ。けれど、お母様は近々、魔力の低い「無能な濁った水晶」として、シエラちゃんを他国へ追放しようと計画していた。


(……絶対に、行かせないんだから)


お母様の前で完璧な冷徹令嬢を演じながら、私は先手を打って傲慢に言い放った。


「お母様、この役立たず、追放するのも手続きが面倒ですわ。私の『専属奴隷』として手元に置き、徹底的にこき使って差し上げますわ!」

「あら、セイラが引き取ってくれるなら手回しが良いわね。好きになさい」


よし。シエラちゃんの身柄を、自分の部屋へキープすることに成功した。


――そして、その日の夜。

お母様が寝静まったのを見計らい、私はシエラちゃんの部屋にこっそり忍び込んだ。

ドアを閉めた瞬間、私は昼間の冷酷な顔をかなぐり捨て、ベッドの上のシエラちゃんに駆け寄る。


「シエラちゃん、ごめんね……! 昼間あんな酷いこと言って。本当して世界で一番可愛いよ! お菓子買ってきたから元気出してね」

「……お姉様、声が大きい」


シエラちゃんは白髪をさらりと揺らし、ブルーの瞳でじっと私を見つめて淡々とツッコミを入れてきた。どこか冷めていて落ち着いている。だけど、差し出したクッキーを受け取る手は小さく震えていて、耳の後ろが真っ赤だ。


(シエラちゃん……っ! 冷めてるツッコミも最高に可愛い……!)


胸の奥でぎゅっと拳を握りしめながら、私は前世の記憶を思い出していた。


私の前世の名前は「聖良」。

大好きなWEB小説の、シエラちゃんというキャラクターが死ぬほど大好きな限界オタクだった。だってシエラちゃん、あんなにちっちゃくて可愛いのに、中身は冷めてて、もう最高では?


そう、あの日はちょうど、それがアニメ化されると決まったときから楽しみにしていた、アニメの放送当日。私は興奮しすぎて不慮の事故に遭い、そのまま命を落としたのだ。


(アニメが見られなかったのは最悪だけど……生でシエラちゃんを拝めるなら、むしろサイコー!)


目覚めたとき、私は小説の中の「悪役姉・セイラ」に転生していた。

原作のセイラはお母様と一緒にシエラちゃんを虐げ、最後には他国へ追放して死へと追いやる最悪の悪女。


だけど、本物のシエラちゃんは、お小遣いも買い与えられず、私のお下がりのボロボロのドレスを着て、お母様の顔色を窺いながら生きている、本当にただの女の子だった。


お母様の前や、一人でいるときは誰も寄せ付けないクールな令嬢を演じているけれど、私の本音は最初から決まっている。


(お母様も原作のセイラも、こんなに可愛いシエラちゃんを虐めるなんて正気じゃない。実家をのっとるその日まで、私が絶対に守り抜く)


「お姉様⋯⋯なんで、あんなことを⋯⋯」

「もちろん、シエラちゃんを助けるために決まってるじゃん!」


私のその言葉を聞き、シエラちゃんがはっと目を見開く。

いつも冷めているシエラちゃんが、ぽつりと呟いて、ブルーの瞳からポロリと大粒の涙を流した。


その涙が床に落ちる、まさにその瞬間。

空中で涙の粒がパァァッと青白い光を放ち、一瞬で形を変えた。


チリン、と澄んだ美しい音が響く。


ベッドの上に転がったのは、それだけでも美しい、ダイヤモンドの原石だった。


そう、この一家は、宝石族と呼ばれる、涙が宝石になるという特徴を持った種種だった。

シエラちゃんは完全には育っておらず、原作はダイヤモンドの原石なのにもかかわらず濁った水晶と誤認されるというストーリーなのだけれど⋯⋯。


(いやいや、それでも綺麗すぎでしょ!)


私の脳内は完全にパニック状態だ。


「⋯⋯あれ、ごめんなさい、私また水晶なんかを出して床を汚しちゃった」


自分の涙がどれほど価値があるものか知らず、不安げに瞳を揺らすシエラちゃん。

私は溢れ出そうなオタクのパッションを必死に抑え込み、優しく微笑みながら、そのダイヤモンドの粒をドレスのポケットに仕舞い込んだ。


お小遣いゼロでドレスも買ってもらえない生活だけど、この綺麗なダイヤを街でこっそり換金すれば、お母様にバレずに、シエラちゃんに最高に美味しいお菓子や、可愛いリボンをいくらでも買ってあげられる。


「明日、街に行ってくるね。シエラちゃん、何か欲しいものはある?」

「⋯⋯ない」

「本当に!? 何でも言って良いんだよ!?」

「⋯⋯じゃあ、青いリボンが欲しい」


淡々と、でも嬉しそうに微笑むシエラちゃんが愛おしすぎて、私の心臓はバクバクと優しく鳴り響いていた。

お読みいただきありがとうございます。

ゆっくりと進めていきます。

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