第24話 重なる
「ひゃっ」
0距離の彼女の肌は生あたたかくて、眩暈がしそうだった。同じシャンプーを使っているはずなのに、彼女の香りは私とは違うように思えた。
「ひゃっ」
「んっ。これやばいね」
「……」
「なんかドキドキする」
押されるようにして、私とルカは、そのままベッドの上に身を沈めた。さりげなく距離を縮めてくるのが本当に上手い。彼女は足を絡めてきた。
「これって凪沙の心臓の音?」
ルカが私の胸元に耳をピタッとくっつける。
「……」
「ふふっ。うるさいんだけど」
「……仕方ないでしょ!」
こんなにもドキドキしているんだから。
私が言葉を発すると、ルカが下着の上から胸にキスをした。変な声が出そうになって、慌てて口元を押さえる。
空気が薄い。頭が朦朧としてきた。
そこから先は、ぼんやりとしていて、まるで夢の中の出来事のようだった。
一つひとつの行為に夢中になって、吐息が漏れる自分に羞恥を感じて、彼女は少しも考える隙を与えてくれなかった。
いつのまにか私は裸になっていて、ルカから熱く抱きしめられていた。年上の私がリードしようと思っていたのに——。まるっきり駄目。ルカに翻弄されっぱなしだ。
「凪沙、好きよ……」
彼女は指を絡めてくる。ムードのためにそう言っていると、頭の片隅でわかっている。だけど、本当だったらどんなにいいか——。そう思ってしまう私がいた。
女の子って柔らかい。かわいいし、それにいい匂い。いつもより高い声のルカに、理性が溶ける音がした。
今まで生きてきた中で、私が感じた悩みは、どれもちっぽけに思える。もう何だっていい。どうなってもいい。ルカが側に居てくれればそれでいい。
それくらい今が大事で——私は心ゆくまで甘い時間に酔いしれていたかった。
◇
私の横には、眠っている女の子がいる。すぅすぅと優しい寝息を立てている。額には、前髪が何本か張り付いていて、私はそっと指ですくった。
彼女はううーんと声を上げた後、寝返りを打つ。真っ白な背中がこちらを向いた。首元には薄い紫色の跡が付いているのが見えて、思わず目を逸らす。
なんとなく自分の手を広げて、まじまじと見つめてみる。爪が短くて、ネイルなどの飾り気はない。
北村さんと五十嵐さんは、蝶やダイヤがついたキラキラの爪をしていた。二人と出かけた時、気後れした私は、手をグーにして後ろを歩いていた。
——だけど今は爪に何もしてなくて良かったなぁと思える。
くにくにと指を動かしてみると、ボッと顔に血が上った。私はそのままベッドの上に腕を放り投げた。
冷静になったら、腰あたりに鈍い痛みがあることがわかる。もうこのまま寝ていたいと思うのは、体力がないせいだろうか。
——私は別にレズビアンというわけではない。
だけど、ルカと肌を重ね合わせたことで、たまらない気持ちになって——奥に眠る何かが目覚めたような気がした。
みんなが普通と思っている性行為の仕方なんてわからない。だけど、シーツについた赤い模様が、確かな証だった。
私の初めての相手はルカだ。もうこれは覆らない事実だった。
そのまま目を閉じると、先ほどまでの行為を反芻することになる。ルカの唇が熱くて、何度もむさぼった。
——これは、いけないと思い、床に散らばった下着と服を取り、なんとか前を隠しながら脱衣所まで向かった。
扉を閉めると、肩の力が抜けた。
汗をかいていたから、シャワーを浴びることにする。
「ふぅ……」
私の肌に滑り落ちる水が、陽の光を浴びてキラキラ輝いて見えた。お湯になるまで、もう少し時間がかかる。
「——ねぇ」
「えっ?」
後ろから声が聞こえる。振り返ると、お風呂場のドアを少し開けた、ルカと目が合った。服を着ておらず、裸だった。
「わたしもシャワー浴びたいんだけど……」
「ちょっと、待ってて」
急いで体を洗おうとしたら、なんと彼女が強引にお風呂場に入ってきた。
「聞こえなかったの? あと10分くらいで終わるから」
「んー」
ルカがとろんとした目で私を見た。まだ眠いのかもしれない。何か考えているようだ。
「——わたしが体洗ってあげよっか?」
まさかの提案だった。私は目をぱちくりさせる。
「い、いいって!」
「遠慮しないで」
ルカは私の肩を押すと、強引にお風呂場の椅子に座らせた。
目の前にあるボディソープをそっと手に取ると、滑りよく泡立たせてから、背中に触れられた。
「ひぃ」
「ふふっ」
こそばゆい。ルカの手で遊ばれると、体が跳ねてしまう。
腰を触ってくるのは確信犯? 予想外な行動を取られる度に、また一つ気持ちが掻き乱される。
半分曇っていた鏡からは、ルカの表情は確認できなかった。
「——どう?」
「ど、どうって?」
「気持ちいい?」
「えっ。うん。——気持ちいいかな」
「ふふっ」
珍しく素直になれた。ベッドの上では、ルカに言えなかった言葉——。って、やっぱり今のなし!
機嫌が良い彼女は、せっせと私の肌をきれいにしようと尽くしてくれる。
「寝てたんでしょ? 体、疲れてない? 無理しなくていいよ」
シャワーヘッドを見ながら口にすると、ルカの手が止まった。
——かわいくないことを言ってしまっただろうか。
でも、さっきたくさん無理させちゃったから、もう少し休んでいて欲しかった。
気持ちは嬉しいんだけど!




