第23話 布団の中に隠れて
◇
目の前には、マルゲリータと青汁。それにコブサラダが用意されていた。香ばしいようなモッツァレラチーズの香りが部屋いっぱいに広がっている。
大地とのいざこざがあった今、私たちには食欲がない——と言いたいところだけど、普通にお腹は空いていた。
多分、娯楽が少ないから、食事が一番の楽しみになっているんだ。
給食のように毎日の献立表なんて渡されない。アイリスが何を持ってくるのかわからない。現に、青汁がミスマッチに感じる。だけど、それが面白くて、より一層食欲をそそった。
ルカは「いただきます」と手を合わせた後、早速ピザを手に取った。一口食べては、ううーんとほっぺたが落ちそうになっている。
「あー。タバスコが欲しい!」
「辛いの好きなの?」
「うん。好き! カレーとかにもかけちゃうレベルなの!」
「本当? それ美味しいの?」
「辛いのと酸っぱいのが混じって、味がマイルドになって美味しいのよ! 凪沙も今度、試してみたら!」
「うん……」
お嬢様の彼女が、味変するような奇抜な食べ方をするのが意外だった。想像だけど、味が薄めの上品な料理ばかりを食べていると思った。鯛や茶碗蒸しとか。むしろ、そういう食事が中心だからこそ、濃い食べ物を欲するようになるのかなぁ。
そういえば前にルカが自己紹介をした時、好きなものはないと言っていたけど——あるじゃん。辛いものが好きなんじゃん!
「ねぇ、ルカは青汁って飲んだことあるの?」
私は目の前の緑色の液体を見た。お嬢様って、こういう飲み物を口にする機会はないように思えた。
「えっ? 大好きだけど!」
ルカはぶっきらぼうに言い放つと、そのまま青汁を一気飲みした。腰に手を当てて、いい飲みっぷりだった。
へぇ。結構、庶民的なんだ。ギャップを感じる。つい目が離せなかった。
——そういえば、今頃、学校でもお昼ご飯を食べている頃かな。
時計がないから正確な時間はわからない。だけど、アイリスが二食目を持ってきたということは大幅にはズレていないはず。
——唯ちゃんは誰とご飯を食べているのだろう。
私がいない今、他の誰かと机を囲んでいたりするのかな。その子にも、嫌味を言ったり、マウントを取ったりするのかな。なんて。
ふと、口の周りに青汁を付けたルカが目に入る。閉じ込められているのに、そんなかわいい笑顔を浮かべられるなんてすごい。
彼女は、今この瞬間をとびきりに楽しんでいるように見えた。眩しい。
それは苦痛の中で見つけた幸福のようだった。
◇
お昼ご飯を食べた後、しばらくしたらアイリスが皿とおぼんを回収しに来てくれた。私はドアの向こうに大地がいるのではないかと気が気じゃなかった。
アイリスが部屋を出て行くと、またルカと二人きりだけの空間に戻る。
テーブルの下には遊び終わった黒ひげ危機一発が置いてあった。命令を経て、もう一度触る気にはなれなかった。
「あーあ。お腹いっぱい」
ルカは両腕をめいいっぱい広げて、ベッドになだれ込んだ。仰向けになって、ううーんと足を伸ばしている。
「……」
「なんか眠くなってきちゃった」
彼女は静かに目を閉じた。ぴくりともしない。まるで眠り姫のようだ。
「……」
特にやることもなかった私は、ルカの隣に並ぶことにした。ギシッとマットレスがきしむ音が耳につく。
ゆっくりと天井を見ながら、浅いため息を吐く。
横を見ると、ルカの顔が間近にあった。形の良い横顔は、おでこから顎まで完璧で、つい目に焼き付けるように見続けてしまった。
——そしたら、ルカが突然私の方を振り向いた。
目と目が合い、息をのむ。
「……!」
「ねぇ」
「えっ?」
「ここに監視カメラが仕掛けられているんじゃないかーって話したじゃん?」
「うん」
「わたしは別に見られていてもいいんだけど、凪沙は、そういうの気にするタイプじゃん? だけど、ほら」
ルカが掛け布団を強引にめくると、次の瞬間、頭まですっぽりと覆い被さった。
「二人で潜り込んじゃえばさ、大地には絶対見えないよ。ふふっ」
確かに。監視カメラがあったとしても、これなら死角になってくれる。
「——って、何してんの?」
「えっ。暑いから」
ルカは布団の中でゴソゴソと動いて、器用にTシャツと下に履いているものを脱いでいた。
「ほら、凪沙も入って!」
「きゃっ」
ルカは私にも掛け布団を覆い被せる。目の前には、下着姿の女の子がいた。フリルが付いた水色のブラとパンツは、彼女の白い肌によく似合っていた。途端に息が上がるような気持ちになる。
「ねっ。恥ずかしいからさ。凪沙も脱いでよ」
ルカが私の服に手をかけた。えっ。ちょっ。
彼女は、きっと同じ姿になることを強要している。
「——待って」
「待たない!」
「あー、もう。自分で脱ぐから!」
思わず、そう言い放つ。
だって、恥ずかしいんだもん。
ルカのペースに任せたら、頭がいっぱいいっぱいになりそう。
私は彼女に背中を向けると、一人ゴソゴソと身につけているものを脱いでいった。
掛け布団で覆いながらの状況だから脱ぎにくい……。
だけど素肌に纏う布の滑らかな感触が心地よくて、開放感にも満たされた。
「脱いだけど……」
くるりとルカの方を向いたら——抱きしめられてしまった。




