日常 その23
幼少の頃、犬を飼っていた。
名前は「ウルフ」
狼に似ているということから俺が名付けたハスキー犬だ。
一人っ子だった俺はウルフが家に来た時、弟ができたかのように喜んだのを覚えている。
「ウルフの世話は僕がする」と両親に宣言し、まだ赤ちゃんだったウルフの世話をした。
とはいえ、幼かった俺が完璧に世話を熟せるはずもなく、両親がフォローをしてくれていたことなど当時の俺は知る由もなかった。
完璧ではなかったにせよ、一生懸命世話をする俺にウルフは番懐いていたように思う。
そんな俺の気持ちが届いていたのかウルフも俺に一番懐いていたと思う。
ウルフと俺はいつも一緒だった。
それこそ本当の兄弟のように。
当時、兄のようにウルフと接していた俺は知らなかった。人と犬の寿命が違うことを。
犬は一年もすれば成犬だ。弟とばかり思っていたウルフだが、人に換算すれば、とうに俺の歳を追い越していた。
中学を卒業しようかという頃、ウルフは昔みたいに元気に走り回ることはなくなっていた。この頃になると、さすがに俺も人と犬の寿命が違うことは知っており、ウルフが老犬だということを理解していた。
足腰が弱り、一日の大半を寝て過ごしていたウルフだったが、それでも俺が帰宅すると嬉しそうに尻尾を振り出迎えてくれた。
俺もそれが嬉しかった。
思春期真っ盛りでいろいろなことに素直になれなかったが、不思議とウルフにだけは素直になれた。
だが、そんんなウルフとの生活もついに終わりの日がやってくる。
その日は家に帰ってもウルフの出迎えはなかった。
母に呼ばれ、庭に出るとそこにウルフがいた。
庭で腹ばいになっているウルフは寝ているように見えた。
だが、ウルフはもう動くことはなかった。
ウルフが死んでいたのだ。
母の話では、いつもは部屋から動くことのなかったウルフが、突然庭に出たがったため窓を開け庭に出したということだった。
すぐ戻ると思っていた母だったが、戻ってこないウルフが心配になり庭に出た時にはウルフは既に息絶えていたという。
ウルフは眠っているようだった。
ただその前足は汚れ、辺りに土が散らばっていた。
ウルフの傍まできたときその理由がわかった。
穴を掘ったのだ。
その穴にウルフは顔をうずめるように死んでいた。
ウルフの顔はとても穏やかだった。
最後の力を振り絞り、穴を掘った理由。
それは穴の中を見れば明白だった。
ボロボロになったボールやぬいぐるみ等の玩具、着れなくなった俺の服まであった。
全部捨てたと思っていた。
だが違った。
捨てられそうになったそれらをウルフはこっそり隠したのだ。
なぜか?
考えるまでもない。ウルフにとってそれは大切な宝物だったからだ。
それを見てウルフとの思い出が蘇る。
楽しかったウルフとの思い出が。
ウルフも同じだったのだろう。ウルフの安らかそうな顔を見てそれがわかった。
どれも楽しい思い出だが、楽しさとは対照的に溢れだす涙は止まらなかった。




