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今回のは、少し長くなってしまいました(’’
―― 術師館を出て、目的地へ向かう途中。
「つか、準備って何やってたんだ?」
「よく見なさいよ、胸当てをしているでしょ?それにリュックも持ってきたわ」
そう言われて瞳の胸部を見ると、銀色の金属らしき物で作られた胸当てが確認できた。
そしてそのまま背を向けるようにして、リュックを梗汰へ見せた。
なるほど、持ち物は確認できた。だがしかし、これから魔物の討伐だと言うのに。
「身を守る物は胸当てだけで平気なのか?」
現在の瞳の格好はと言うと、防具らしきものは胸当だけで、その上にはジャケットを羽織っているだけだ。下も普段のロングスカートとは違い、革製の短いスカートの下にジーンズを穿くダブルボトムスタイルで、それに合わせたハーフブーツを履いている。
普段と比べると、大分動きやすそうな格好であるが、これから戦いに行く者の服装ではないだろう。
そう言う梗汰も、防具など一切着けていないラフな格好ではあるが。
「重量が嵩むから防具は好きじゃないのよね、あたしはその代わりに軽い障壁を張る魔道具をつけてるわ」
「へー、そんなのあるなら胸当て要らなくない?」
「抑えておかないと動くときに邪魔になるのよ。それに少し大きい分、攻撃も当たりやすいわ」
「あぁ・・・・・・なるほど」
何でもないように瞳は答え、再び歩き出した。
瞳からしたら、単純に自分が動くのに邪魔になるから着けている、という程度なのだろう。
(・・・・・・よく平気で言えるな・・・・・・恥じらいとかないのかよ)
しかし、それを気にしているのは梗汰だけで、瞳の方は気にも留めていない様子だ。
「防具も要らないような程度なら、なおさらオレが手伝う必要なんて無くないか?」
「分かってないわね。あたしの手伝いとして、術の使い方を実戦で覚えるために決まっているでしょう」
「いやオレ、戦いで術使う予定無いんだけど・・・・・・」
「なんでよ」
元の世界での梗汰は、同じ毎日がずっと続く様な、無難な生活をしてきた。
そんな生活で誰もが思っていること、痛いのが嫌い、危ないことが嫌い、傷つくことなんて以ての外。
そして梗汰もそういう性格だった。
この世界で必要に迫られて、魔物と戦ったことがある。
だが、実戦を想定の訓練は問題無いが、自分から、実際に何かと、積極的に戦うことは避けたかった。
そのため、自分がこなす依頼なども、出来るだけ土木関係や物の修理などにしてもらう予定だった。
「オレ、痛いの嫌いだし、戦うことにも出来るだけ参加したくないかな」
その言葉を聞くと、瞳はその歩みを止め、そのまま振り返った。
「これから言う事を覚えておきなさい」
静かに、だが力強く言う。
出会ってからまだ日は浅いが、瞳のこんな真剣な表情を見るのは初めてかもしれない。
「このまま生きていても、あなたは闘争に巻き込まれないかもしれない。でも、巻き込まれるかもしれない。その時に”あの時やっておけばよかった”なんて思っても手遅れなのよ。ましてや、あなたは精霊術師、力ある者は何時か、何処かで、必ずその機会が訪れるわ」
その目は、言葉は、本気だ。
「その時に後悔しないように今のうちにやっておくの。わかった?」
「あ・・・・・・ああ、そうだな」
瞳の言葉に反論できる言葉を、梗汰は持っていなかった。
「そう、ならいいわ。さっさと行きましょう」
さっきまでとは違い、軽い口調で梗汰を促した。
「早く着いて来なさい。道のまんなかでぼけっと立ってたら、他の人に迷惑だわ」
いつの間にか梗汰は足を止め、瞳の言葉について考えていたようだ。
慌てて瞳の背中を追いかける。
「そうだな。・・・・・・そういや、これから何処に行くんだ?」
「あら、言ってなかったかしら」
梗汰は自分が何のために連れ出されたのか、”魔物の討伐手伝う”以外何も説明されていない。
「言ってない」
たしかこのあたりの魔物は、騎士団が定期的に討伐しているとアズールが言っていた。なのでこの地域で不測の事態が無い限りは、そのようなことは起こらないはずなのだが。
梗汰は、これから連れて行かれる場所が”本当に危険な場所なら本気で断りたい”、と考えていた。
もっとも、梗汰が拒んでも連れて行かれることには変わりはないだろう。
「私達がこれから行くのは”L-3魔宮”、ルクセビア国内にある遺跡、”地下遺跡”への入り口の一つね」
――――――― 【地下遺跡】 ―――――――
遥か昔8人の、大魔導師と呼ばれる者達が居た。
彼等はそれぞれ
根源創造師
魔物遣い
超高位錬金術師
結界作成者
生態操作師
風帝
死霊魔術師
そして、空間接続者と呼ばれていた。
各々の魔導を極めんとする彼等は、地上では行うことの出来ない、倫理の対岸にある手法での研究を行いたいがため、協力し地下に自分達の工房を作った。
”根源創造師”が、地下に階層を造り、
”魔物遣い”が、魔物や魔獣を集め、
”超高位錬金術師”が、魔物や魔獣を作り変えその守りとし、
”結界作成者”が、それを地上へと流出させないように工房と地上とを隔絶し、
”生態操作師”が、魔源を吸収しエネルギーと酸素を発生させる生物などを配置し地下に生態系を造り、
”風帝”が、地下に大気を循環させる魔術式を作成し、
”死霊魔術師”が、彼等の寿命を引き伸ばし、
”空間接続者”が、彼等と地上とを繋いだ。
彼等の作った工房は広大にして強大、それは工房と言える物を遥かに越えており、それで一つの世界となっていると言われている。
故に、”アンダーワールド”。
空間接続者が居るのに、なぜ彼らは工房への入り口を世界各地に作ったのか。
それは、工房に入り込んだ者を実験材料にするとも、自分達の作ったモノの実験のためとも言われているが、いずれも定かではない。
ただ、現在分かっている事は、今は亡き彼等が作り上げた工房には、彼等の残した数々の魔道具や秘宝、地上では発見できないような生き物、そして秘法が残されている。と言う事である。
その入り口は世界各地にあり、その中では地上での常識は通じない。
アンダーグラウンドの入り口から工房までは何階層にも及び、様々な部屋や広間があり、あまりにも広いその世界は、”地下遺跡”内で地域分けされている。
最下層付近で全ての入り口からのルートが繋がっていると言われている。
そこに存在する生き物には、もはやかつての面影は無く。
主が死亡した工房内で、長い時をそこで繁殖を繰り返し過すうちに、全く別の生物となっている。
結界作成者の施した結界により、それ等は生きたまま地上へと出てくることはないが、それによる”地下遺跡”内で死亡者数は膨大で、その者達が”地下遺跡”内に持ち込んだ魔道具や装備なども大量に眠っている。
”地下遺跡”に潜り、彼等の工房を探り、遺された宝や術式などを回収することを生業とする者達を”探索者”と人は呼ぶ。
―――――――――――――――――――――
「地下遺跡、ね。・・・・・・オレが行っても危なくないよね?」
それは梗汰にとっての最重要事項、自分の身に何かあるとヤバイ、主に自分が。
「・・・・・・まぁ、頑張ることね」
「え?オレ大丈夫なの?ねえ!?」
思わず瞳の肩を掴み、再度聞いてしまう。
(え、ホントに大丈夫なの?)
「冗談よ、あなたが死んでしまったら、アメリア様に何をされるか分かったもんじゃないわ」
肩を掴んでいる梗汰の手を払いながら言う。
「ここは、それは良かったと喜ぶべきなのか・・・・・・?」
「正確にはあなたの命に危険が及ぶ階層まで行かないようにする、ってことだけどね」
「・・・・・・」
「大丈夫よ、今日はかなり久々に潜るから、個人的なお金稼ぎとして行く程度で考えていたのよ」
「それはよかった」
「でも、あなたが来たから、予定よりちょっと深くまで潜ってみようかしら」
「・・・・・・頼むから見捨てないでよな」
(中では後ろをピッタリ張り付くようにして行動するか・・・・・・)
「安心しなさいな。ちゃんとあなたが危なくなる前に助けるわよ」
正直、梗汰は瞳の強さは身をもって体験しているので、その言葉だけでかなり安心できた。
しかし、それはつまり、危なくなるまでは放っておくと言うことなのだろうか。
「ホントに頼んだぞ・・・・・・」
「中ではお互いの呼びかけは短いほうが良いから、不知火と呼んで構わないわ」
「りょーかい」
★
歩くこと約30分。
「あそこに見えるのがL-3魔宮への入り口よ。あの通行管理所の奥にあるわ」
”L-3”とは、ルクセビア[Luxevia]王国で、三番目に発見された”地下遺跡”への入り口、と言う意味である。その後に付いている”魔宮”と言うのは、このL-3入り口の、探索者の間での通称である。
瞳の指差す先に見えるのは、頑丈な壁で囲まれた大きな館。それは一見すると小さな砦にすら見える。それがおそらく通行管理所だろう。
厳重に閉じられている石で作られた門の隣には、小さな派出所のようなものがある。
その場所の周辺には何も無い。だが、そこから少し離れた所には、酒場や探索者の専門であろう宿泊施設や用品店などが乱立している。
そこにはごろつきのような者から、キッチリと鎧を着込んでいる騎士風の者まで、様々な人が居た。
大体の人はごつい武器や重武装などをしており、中には軽装な人も居るが、いずれもきっちりと防具や武器を身につけている。
「ずいぶんと随分と厳重に守られているんだな」
梗汰はその建物を見ながら呟いた。
「まぁ、大昔の魔導師様の結界のお陰で、地下からの生き物は出てこれないのだけれどね。それでも念のために入り口の一つ一つに結界術式を張って、そこに更に管理人を置いて、探索者の入出を管理しているらしいわ」
「へー」
「他の国と比べても、この国は厳重に管理しているみたいね。さ、着いてきなさい」
通行管理所の窓口では、梗汰の分も瞳が職員が通行審査受けることになった。
「では、何か身元を証明できる物はありますか?」
「これでいいかしら」
瞳は肩に掛けたリュックからプレートの様なものを取り出し、管理人に見せた。
「ギルドの発行ランクA+を確認致しました。無保証人の身分保障の資格有り、です。お連れの方もどうぞお通りください」
管理人が手元のスイッチを操作すると、閉まっていた門が開いた。
「では行くわよ」
館の中には10m位の巨大な洞穴が在るだけで、他には何も無かった。
「へぇ、中は穴だけなんだな」
周囲を見回すと、天井、壁などに無数の文字や模様が描かれているのを確認することができた。
どうやらこの館は、この洞穴を覆うためのドームの様な建物だったようだ。
そして、その中央に存在する洞穴からは、心なしか禍々しいオーラを感じる気がする。
その雰囲気に怖気づいたのか、
「な、なぁ・・・・・・、やっぱ他のところにしないか?ほ、ほら、山とか森とか!」
梗汰は情けない提案をする。
「遠くて面倒。なによりここの周囲の地域は、ガルダンの騎士団によって、有害な魔物のほとんどは駆除されているはずだわ」
「でもな、なにやら禍々しいオーラが・・・・・・」
「あーもう、ほんとに情けないわね。ほらっ、さっさと行ってきな、さいっ!」
「え?」
洞穴を背にし、必死に熱弁を振るっていた梗汰を洞穴へと蹴り飛ばした。
洞穴の中は緩やかな坂道になっており、梗汰はごろごろと坂を転がっていった。
[うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ・・・・・・]
洞穴の中からは梗汰の叫び声が聞こえる。
「さて、あたしも入るとしますか」
梗汰の後を追うように、瞳も洞穴へ入っていった。
20m位転がり続け、やがてその勢いも無くなると、そこでやっと梗汰は立ち上がることができた。
「ぺっぺっ、うげ・・・・・・口に土入っちまったじゃねーか。あいつも急に蹴らなくてもいいのに」
周囲を見渡すと、やや薄暗という程度で、はっきりと周囲を確認することができる。
洞穴の壁面には苔の様な物が生えているが、洞穴の奥と梗汰の居る場所を境とし、不自然な苔の生え際ができている。
「へぇ、これが結界の境なのかな。それにしても地上の光は届いていないのに、大分明るいんだな」
そこで梗汰に追いついた瞳が、軽く説明を入れる。
「ここの植物の一つが魔源を吸収して光を出しているらしいわ。場所によっては、自ら光を放つ物質もあるらしいわね。まぁここは地上に近くて人の出入りもあるから危険な魔物は居ないわ。奥へ進むわよ」
そう言って瞳は奥へ進んで行く。
その場所から少し下ると、かなり開けた場所に出た。
天井まで10m位だろうか、結構高い位置に天井がある。
「ここはまだ一階層だから、さっくり通過するわよ」
瞳はリュックから地図を取り出し、精霊の火を明かりとして位置を確認している。
辺りは明るいが、細かい部分も見るためにより強い明かりを出したのだ。
「こっちね」
瞳は一人でガンガン進んで行く。
「ちょっ、まって!」
―― 四階層
「ふむ、やはり低階層じゃ、お金になりそうな魔物は居ないわね」
「変な生き物は居たけどね・・・・・・」
ここまで来る間に、大きなトカゲや昆虫型の魔物に遭遇したが、瞳が威嚇として発生させた火を見ただけで逃げていった。
梗汰達は、幸か不幸か大型の魔物や強力な魔物には出会わなかった。
「そんなものじゃなくて、せめて珍しい魔物や強力な魔物の、魔源の集積部位を入手したいわ。何も発見できないのは避けたいところね」
低階層に大人しい生き物や下位の魔物が多い理由は、深階層に住んでいる力を持った魔物が、そこより更に深い階層から追われたてきた、より強力な魔物にその生息圏を奪われているからである。よって、弱い魔物は住処を奪われながら、どんどん上の階層に上がってくるのである。
部外者の侵入が多い低階層は、いくら強い魔物だろうと、大抵は協力されすぐに討伐されてしまうので、強力な魔物は住み着かない。もちろん例外もあるが。
「んでオレ達はどこまで行くんだ?」
「んー、過去のL-3魔宮の最高到達階は二十七階層だったはず。今回はあたし達二人だし、十一階層くらいまで行きたいわね。あたしの持ってる地図には九階層までしか載っていないけど、まぁなんとかなるかしらね」
一般的に、地下遺跡は下層に潜るにつれ、その難度は上がると言われている。
それには、もちろん深階層に居る魔物の分布にも理由もあるが。
人の手のほとんど及ばぬ下層には、地上の者にとっては未知の世界が広がっている。
未知の場所に入る精神的圧迫、そこまで潜る労力、そこから戻るための余力、そしてそこで魔物と戦うための力。
自分達の知らない世界に潜るのには、一体どれだけの労力が必要だろうか、それは想像に難くない。
そして、深階層の地図はとても高い値段で取引されている。このことからも、それがどれだけ大変なことかが分かるだろう。
しかし地図といっても、その階層の完全な構造が描かれているのではない、その階層の大体の広さと、次の階層への場所が記されているだけである。
なぜ完全な地図を描かないのか。
結論から言うと、正確な地図は、書くことが不可能なのだ。
多種多様な生き物が住んでいる地下遺跡では、そこに住んでいる生き物の巣などが乱立している。他にも探索者との戦闘で地形が変ったり、そこに住んでいる生き物が地形を作り変えたりしているのである。
つまり、常に同じ地形とは限らない、よって正確な地図を作ることは不可能とされている。
「もっと大人数で来ればよかったんじゃないか?そうすればもっと楽になるんじゃないのか」
「そういう考えもあるけど、あたしは大人数で行くことは殆どないわ、分け前も減っちゃうしね。まぁ今回はそこまで深く潜らないから大丈夫でしょ」
大人数で行けばいい、それは尤もな考えだ。
しかし、大人数で行けば行くほど、食料など必要な荷物は多くなる、そして宝や術式を発見したときの分配など、それに伴い仲間割れなどが発生する危険性が増す。
人数ばかり多くて、まったく統率がとれずに魔物にやられて全滅、そのような事態も発生している。
よって、低階層を一人でうろつく人や、相当な実力者を除けば、深階層に潜る探索者は、5~12人で構成されていることがほとんどである。
「五階層への道はここね」
瞳はあっさりと道を発見、そこには、下層へと続いていると思われる下りの道があった。
「このペースは早いのか?それとも普通なのか?」
梗汰達がここに潜って、まだ一時間程度。
このペースが早いのか遅いのかは梗汰には分からない。
「多分早いほうね。雑魚を感知したら、それを避けるようにしていたから戦闘も全然なかったし。中には毎回階層の全てを隈なく探す人も居るけど、あたしの目的はもっと下にあるしね。夜遅くならないうちに戻りたいわ」
(夜まで居るのは前提すか・・・・・・まぁいいけどね)
―― 七階層
「この階は随分狭いんだな」
この階層は今までのような開けた空洞ではなく、5メートル程度の穴の通路で構成された洞窟のようになっていた。
今までの階層には無い造りだ。これまでとは違う狭い通路にやや不安になる。
「迷路のようになっているみたいだけれど、まぁ地図があるから大丈夫でしょ。ここは左ね」
瞳は目の前にある三つの通路の内の、左の通路へと進んで行く。
瞳の案内の下に通路を進んで行くと、
「この先、何か居るわよ」
何かの気配を感じた瞳が、梗汰に注意を促す。
「梗汰、今回はあなた任せるわ。もし魔物だったらあなたが倒しなさい」
「え?」
てっきり、今回も瞳が追い返すと思っていた梗汰は急な指名に驚いた。
「っえ、オレ?待ってよ、ここはやっぱり経験者の・・・・・・」
「返事は『はい』か『了解』でお願いね。それ以外は聞きたくないわ」
「でもな、『ボンッ』・・・・・・・・・・・・はい」
瞳は火柱で梗汰を威嚇すると、静かに梗汰の後ろへと下がった。
梗汰は前方を注視する。
ざざざ、がが、がりっ、ざざざざ・・・・・・
通路の横穴から、何かを引き摺るような音が聞こえる。
(一体何が居るんだ・・・・・・、願わくは可愛い小動物であってくれ・・・・・・)
しかし、横穴から出てきたのは、その考えとは真逆に位置するものだった。
ざざっざざざ、がりがりがり・・・・・・
「なんだ・・・・・・あれは」
まず目に付くのは、奇妙なほど長い腕。垂れ下がった左手は、軽く地面を擦っており、もう片方の手は地面すれすれに剣を持っていた。
身長は2m位だろうか。しかし、ソレはすさまじい猫背で、梗汰には正確な身長は分からなかった。
ソレの顔には目隠しが、長い腕や足には革のような物が巻かれているが、他の部位には何もつけておらず、真っ白な肌を晒している。
ソレは人型ではあるが、自然に発生した生物とは思えない歪な姿形をしていた。
先ほどまでの何かを引き摺る音の正体は、おそらく右手に持っている剣が擦れて発生していたものだろう。
その刀身はあちこちが凹んでおり、控え目に見ても物を切るのには適していない。
横穴から出てきたソレは、むくりと首を動かしこちらを確認すると、梗汰の方にゆっくりと近づいてきた。
「あれは、”徘徊者”ね」
”徘徊者”、そう瞳は呟いた。
――――――― 【徘徊者】 ―――――――
それは地下遺跡を徘徊しており、地下遺跡の外から進入してきた者のみを攻撃する生物。
徘徊者がどうやって地上から来た者を判別しているのは分からない。
一説では、大魔導師に兵器として作られ、それが現在まで生産され続けていると言われている。
生産され続けていると言われているのには理由がある。
一度、ある国が実験として、国を挙げてある地下遺跡の、一つの階層全ての徘徊者を討伐したことがあった。
そして、その上下の階層への通路を完全に封鎖した。
しかし、討伐してから一日が経つと、何者も侵入できるはずのないその階層の一角で、徘徊者が発生したというのだ。
それ以来、学者や魔導師の間で本格的に徘徊者の研究がされ、その結果。
徘徊者は他の階層へ移動しない。
徘徊者が居る階層には、一定数の徘徊者が存在し、それが死亡した場合、新しい徘徊者が補充される。
徘徊者は地上から進入した者のみを攻撃対象とする。
と言う事が判明した。
彼等は、地下遺跡内で、外敵を待ちながら、ただひたすら歩き続けている。
故に、”徘徊者”。
―――――――――――――――――――――
「梗汰、そいつは確実に敵よ。一片の慈悲も与えずに倒しなさい。多分、あなたでも倒せるわ」
「・・・・・・了解」
(多分・・・・・・って。しかしまぁ、どのみちオレのやることは決まっている)
今の梗汰に出来る事、それは即ち。
(地霊術で、身の安全確保して遠距離から叩き潰す!!)