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大地の系譜  作者: Melon
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31

「んじゃ、またなー」

「はいはい、またね・・・ふわぁ」


 挨拶を終えると、瞳はさっさと行ってしまった。

 その後姿は、少しフラフラしている。


「随分と眠そうだな、大丈夫かよ・・・・・・」


 フラフラとした瞳の状態に、梗汰は少し心配になったが。

 そのまま瞳が見えなくなるまで見送ると、梗汰も自宅へ向かって歩き出した。




 梗汰は部屋に着くと、荷物を置きベッドの上で軽くストレッチをした。

 背骨がバキバキと鳴る。


「うーん、車とは違って馬車での移動は疲れるなぁ」


 バタン

 そのまま梗汰はベットに倒れこむ。


「ぁー、良い気持・・・・・・」


 移動の疲れか、すぐに眠気に襲われた。


「・・・・・・やべ、服着替えてないや・・・・・・まぁいいか」


 激しい睡魔に抵抗できずに、毛布を被ると直ぐに梗汰は眠りに落ちた。




★

 

「朝ですよー!」 


 快活な声と共に、体が揺らされているのを感じる。


「・・・・・・おひるすぎまで・・・・・・おねがいします」


 うつ伏せで眠っていた梗汰は、声の相手に目も向けず、だるそうに返事を返した。

 今の梗汰は、自分が何を言っているか意識していないだろう。


「お昼近いですよ!もうっ」


 声の主は尚も梗汰を揺さぶり続ける。

 その声は段々と大きくなっている。


(眠すぎて全てがだるい・・・・・・しばらくすれば・・・・・・諦める、だろ)


「むー、そんなに寝ていたいんですか?」

「んー・・・・・・」

「仕方ないですねー」


 その声には何かを楽しむような感情が含まれていた。


「それじゃ一緒に寝ましょうか」


 掛け布団が捲られた。


(・・・・・・ん?)


「お邪魔しまーす。コータさんのお布団は温かいですねー」


 何か温かいものが体にくっ付いたを感じる。

 

(んぁ・・・・・・なんだ?)


 うつ伏せのまま声の聞こえた方を向くと、目の前にサイラの顔があった。


「あ、おはようございます」


 梗汰が振り向くのを確認すると、サイラは寝そべったまま元気よく挨拶をした。


(・・・・・・えーと、落ち着け、落ち着くんだ)


 梗汰は落ち着いて現状を把握しようと努めた。

 依然としてサイラは、梗汰の隣で毛布に包まっている。


 急速に意識が浮上する。

 そして当然、梗汰は現状に驚愕し飛び起きた。

 体に感じていたサイラの熱が無くなった。


「どどどどどうして!え?てか、何をしてんの!?」

「え?コータさんが起きないから、一緒に寝ようと思って」


 尤もな梗汰の疑問に、サイラは笑顔で答えた。


「は?えぇ・・・・・・」


 ”起きない”と”一緒に寝る”が、なんで=で結ばれるのか。

 梗汰は混乱のあまり、意味不明なことを考えていた。


「昨日のうちに帰ってきたのに、なんで会いに来てくれなかったんですかー?」


 どうやらサイラは、昨日のうちに会いに来てくれなかったことが不満のようだ。


「いやー、長い移動で疲れちゃっててさ、部屋に戻ったらすぐ眠くなっちゃったんだ・・・・・・ダメ?」


 その言葉にサイラは笑顔で答える。


「ダーメ」


 惚れ惚れするような気持のいい笑顔だ。


「あ、あはは・・・・・・ごめん」

「分かってくれたならいいです」


(つーか鍵かかってたよな・・・・・・あ、この前の合鍵で開けたのか・・・・・・)


「目は覚めましたか?」

「お陰さまで目はすっかり覚めたよ・・・・・・」

「それはよかったです。では、一緒にご飯を食べに行きましょー!」

「はは・・・・・・そうしよっか」

「はい」


(ふぅ、とりあえず着替えるか)


 タンスから着替えを出し、上着を脱ぎ着替えを開始。

 と、そこで気付く。


「サイラさん・・・・・・部屋から出て待っていてくれませんか?」

「え?大丈夫ですよ。ちゃんと見てますから」

「全然大丈夫じゃないです・・・・・・」







 なんとか説得して、着替えの間は部屋から出てもらいました。




★


「これ美味しいですねー」

「うん、意外と美味しいかも。このソースが良い感じだ」


 現在二人は屋台で買った、肉と野菜を生地で挟んだケバブの様な物を食べていた。

 

「ここら辺は色んな屋台があるから、ローテーション組んで食べていけば味に飽きないかも」


 実際この町の騎士も、屋台やパブで朝食を済ませている場合が多い。

 そのため、朝から昼にかけてと、夕方の露店街は毎日人でごった返している。


 梗汰達は、店の種類の多さに目を奪われながらも、少しずつ王宮に向かっていた。




「あっ」


 話しながら食べ歩きをしていた所為か、サイラが通行人の一人とぶつかってしまった。

 サイラはぶつかったはずみで後ろに倒れこんでしまうが。


 ―― 一瞬、柔らかな風が梗汰の体を撫でた。


 サイラは一瞬滞空し、地面に尻餅をつく前に宙に投げ出された手を掴まれた。


 梗汰にはそう見えた。


(なんか違和感を感じたけど、気のせいか)


「大丈夫ですか?」


 手の主からサイラに、優しい声が掛かる。


「す、すみません!ありがとうございます!」


 サイラは差し出された手のお陰で、地面に倒れることは無かった。

 そのまま手を引かれ、サイラは無事に上体を起こす。


「気にしなくて結構ですわ」


 透き通った上品な声だ。


「あ、あのっ、あなたにお怪我は?」

「大丈夫ですわ。こちらのことはどうぞ気にせずに」


(綺麗な人だなぁ、それにとても上品な話し方だ)


 身近に居ないタイプの女性に、梗汰は一瞬目を奪われてしまう。

 綺麗な栗色のロングヘアーが印象に残る人だ。


「次からは気をつけて歩きなさいね」


 そう言ってサイラの頭を軽く撫でると、すぐに人ごみに紛れて行ってしまった。


「綺麗な人だったな」

「そうですね・・・・・・」


 サイラの声からは、なぜか機嫌の悪さがにじみ出ている。

 今のでどこかに怪我でもしたのだろうか。


「どうしたんだサイラ、今ので怪我でもしたか?」

「いえ、それは大丈夫です。それよりコータさん、鼻の下伸びてましたよ?」

「は?っえ、嘘っ!」


 慌てて顔を触る。


「っふ」


 サイラはしてやったり、といった表情を浮かべている。


(しまった・・・・・・釣られた)


「やっぱりそういう目で見ていたんですね」

「そ、そんな分けないだろ、綺麗な人だったからちょっと気になってただけだよ!」

「大きな胸でしたよね」

「うむ、そうだったな」

「「・・・・・・」」


 賑やかな人ごみの中、梗汰には自分達の回りだけ、空気が凍った様に感じられた。

 なんだか周りの声が遠く聞こえる。


(・・・・・・やっちまった)


 サイラの笑顔が・・・・・・怖い。


「そ、そうだ。デザートに、なんか食べようか」

「食べ物で釣ろうだなんて、がっかりです」


(う、痛いところを突かれたぞ・・・・・・。ここでの下手な言い訳は立場を悪くするな・・・・・・)


「じょ、冗談だよ冗談。でも、見たっていいじゃない!オレだって男だもの!」


 その言葉に、サイラはややひいた。


「ぅゎぁ・・・・・・、ぶっちゃけましたね」


 もうここまできたら後には退けない。


 別に疚(やま)しいことなど無い、”あれは仕方なかったのだ!”と梗汰は思うことにした。


 依然として、サイラの視線は冷たいままだ。


「ま、まぁいいです。さっきのは無かったことにしてあげます」


 梗汰の意味不明な決意を余所に。サイラはおふざけで変に梗汰を追い込んでしまった事を、軽く後悔していた。


(な、なんとか凌いだぞ・・・・・・)


 なんだかとても虚しい。


「では、デザートを食べに行きましょー」

「ぇ?」







 サイラには、高めの値段のお菓子を沢山買うことになりました。




★


 午後、術師館。


「何しに来たのよ」

「いや、なんとなく。特にやることも無くて暇だったし」

「あんたねぇ・・・・・・」


 瞳は片手を腰に当て、がっくりと下を向き、ため息を付いた。

 もう一方の手には書類の束を抱えている、どうやら何かの作業中だったようだ。


「・・・・・・まぁいいわ。これからちょっとやることも有ったし、手伝ってもらうわよ。暇なんでしょ?」


 瞳はそう言うと、紙とペンを取り出し机に置いた。


「別にいいけど。なんか書くのを手伝うのか?」

「違うわよ。あなたの能力の規則とか、干渉出来る範囲をそこに書きなさい。あたしはその間に準備をするわ」


(自分の能力を書く?それを見てアドバイスでもくれるのかな?)


 瞳はピンと指を立て、説明を始めた。


「自分の能力を書いて、それを改めて確認することは、自分の力を理解するのにも役立つの。これは昔の精霊術師は子供の頃から誰でもやっていたみたいね。子供の頃には色々な事に影響を受けるから、それを理解するって事は大切なのよ。現在はあまり使われてないやり方みたいだけど、あたしはいい方法だと思うわ」


 幼い頃から家の教えに従って、術の扱いを習う精霊術師の子は、ほとんどが親の性質をリスペクトし、それと似たよう性質になることが多い。

 そのため現在の精霊術師の家では、殆ど使われていない。


「ほー、なるほどね。そう言う事ならやってみるか」


 早速梗汰は、席に着き書き始めた。

 梗汰は精霊術師の会合の期間の合間に(と言っても僅かな時間だが)、自分の精霊術を至焔(しえん)や瞳に見てもらい、それについての話を聞いたりしていた。

 その時に新たに分かったこともあり、梗汰はそれを含めて書くことにした。


(うーん、しかしこうやって改めて考えてみると、なかなか思い浮かばないもんだな。とりえず書けることだけさっさと書いちゃうか)




―――――― 【現在の地霊術のルール 梗汰】 ――――――

1.梗汰が地霊術で発生させた物質は、それを自分で還元しない場合、発生から約一日で消滅する。力を加え続けている場合は別である。


2.元々存在する物質の形を、質量の増加をせずに変えるだけなら、その効果は持続する。


3.1のルールにより、相対的に見てこの世界の物質量は、梗汰の地霊術によって変動しない。


4.精霊を使っての重さの肩代わりは、梗汰が力を加え続けている間しか持続しない。


5.梗汰が”無理だ”と思ってしまっている物には、意識改革が起こらない限り干渉することが出来ない。


6.元の世界の知識と発想は力になる。

―――――――――――――――――――――――――――




(今思い付くのはこんなところか。昨日干渉できる範囲は増えたって言われたけど、”本”は相変わらず形を変えることが出来ないし。それはやっぱり無理だって思っちゃってるからかね。やっぱ地霊術での変形=鉱物ってイメージが強いからなぁ、重さの肩代わりとしての干渉なら出来るんだけどなぁ)


 梗汰には、本は大枠で見ると大地に属する物と思えるが、その姿形への干渉は、”鉱物と違って無理”、そう判断している。


(せめて木のままだったら、まだやれる気がするんだけどなぁ)


「終わった?」


 そうした思考にふけっていると、瞳から声が掛かった。


「ん、ある程度は出来た感じ。見る?」


 ルールを書いた紙を瞳の目の前に出す。

 しかし、瞳はそれを受け取らない。


「あたしに見せなくても良いわ。むしろそれは誰にも見せてはダメよ」

「なんでだ?」

「なんでって・・・・・・、あなたはちょっと抜けてる部分があるわね」

「?」

「そこに書いてあるのはあなたの力の規則。それはそのまま弱点となるわ。だから自分以外に知られてはダメよ」

「ぁー、そう言う事ね」


 瞳の言うのも尤もな事だった。


「なら、この紙は自分で持っていることにするよ」


 紙をキッチリ折りたたみ、ポケットに突っ込む。


「それが良いわ。でも、一番良いのは処分することね」

「まぁ、後で気が向いたらそうする。んで、手伝ってもらいたい事ってなんだ?」


 その言葉を待っていたかのように、瞳は笑みを浮かべた。


「魔物の討伐よ」

色々起こりそうです(’’

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