102話 チョロくない波動魔法使いなんていない
魔法遠征の説明を受けた午後。男子四人、女子四人のグループを作る必要があり、生徒たちは周囲の生徒に声をかけあっています。早くしないとメンバーが集まらないわ。
私は真っ先にカトリーヌさんの元に行こうと思い、彼女の席である左側に顔を向けると、鼻から数センチの距離には白い生地。装飾的に学園の女子生徒が着る制服で間違いない。
「何よ?」
視線を上げるとそこには銀髪に深紅の瞳の女生徒。吊り上がった目は不機嫌なのではなく、緊張からだろう。思えば彼女はいつもそんな雰囲気だったのかもしれない。
「これであと二人ね」
「ちょっと!? 勝手にメンバーに入れないでよね!?」
「…………ええ、このタイミングでここにきて入らないのですか? むしろ何しに来たんですか?」
カトリーヌさんはうぐっ!? って声を上げていますが、声をあげたいのはこちらです。友人になろうと声をかけたとたんチョロすぎ。ジェラールもチョロい。これはもう波動魔法使いみんなチョロい。ジャンヌさんもチョロい。アンヌ先生も多分チョロい。Aクラスの半分くらいはチョロい。…………私は別!!!!
不意に後ろから気配を感じ顔をそちらに向けると、また白い生地。視線を上げれば当然そこにいたのは弱々しい瞳で自信なさげに私を見つめる少女。グラスグリーンの瞳は、海に漂う海藻のように揺れているようにも見えた。
「あの姫様。わ、私もお仲間に入れてくださいますでしょうか?」
「え?」
真っ先に反応したのはカトリーヌさん。そりゃあ、女子四人ですからあと二人必要ですし、誰が来ても問題ないと思いますが、まさかカトリーヌさんは平民差別でも?
「いいのクリスティーン」
「何が?」
「彼女、さすがに周りの貴族生徒から厄介者扱いされてきているわよ」
なるほど。確かに王女と公爵令嬢のいる班に平民がいるのは、面白くないでしょう。それも、この国の貴族からすればとくにだ。さらに言えば、このことが万が一親に知られれば、王女が平民を選ぶほどに、うちの子供は劣っていると判断されたと思われかねない。
「久々にやりますか。カトリーヌさん、耳を貸して頂戴」
「えぇ、この場で作戦会議をするの? まあ、良いですけど」
不服そうなカトリーヌさん。私は彼女に向けて右手の人差し指を向ける。
「じゃあ、こっち。波動魔法、以心伝心」
波動魔法、以心伝心って便利よね。私の思っていることを発声した時と同じ音の波動に変えて相手の鼓膜に直接届けてくれるし、応用で叫び声を直接相手の鼓膜にぶつけることもできますから攻撃技にもなるわ。問題は私が無詠唱で唱えられないことよ。
「わかったわ」
ちなみにこの瞬間、こっそりジャンヌさんにも事前に説明としてテレパスを送っていました。突然、私の声が耳に届いたジャンヌさんは、一瞬ひゃん! と声を上げていましたが、すぐになにが起きているか理解し、耳を傾けてくれました。
「ねえカトリーヌさん。ちょうど荷物持ちが欲しかったのだけど、貴女もどーお?」
「そうね、連れていける付き人は一人ですし、一人くらい平民生徒を班に入れようかしら! でも男子は嫌よ。むさ苦しい奴は嫌ですし、ひょろいのは論外。荷物持ちは元気な女子生徒にして頂戴な」
私とカトリーヌさんは、忍び足で逃げようとするジャンヌさんの肩をがっちりつかむ。
「ねえジャンヌさん、私貴女にお話がありますの」「クリスティーン。私じゃなくて私達でしょ? あっちに行きましょう? ここじゃあ、ゆっくりお話も出来ないわ」
そう言ってあえて目立つように私達はジャンヌさんをホールドして教室から出ていきました。のちにその場にいたミゲルから聞いた話ですが、カトリーヌさんにしては陽気だったなどと供述しており…………思い返すとなんだか劇の冒頭で主人公をいじめる姉みたいな雰囲気でしたね。
三人になった私たちは食堂に向かいつつ話の続きをする。
「それであと一人はどうするの?」
カトリーヌさんは未だにジャンヌさんをがっつり掴んだまま、私はとっくの昔に離しているが、彼女は気付いていないし、ジャンヌさんもホールドされっぱなし。
「心当たりがあるわ。ビルジニって子を誘おうと思うの」
私がそういうと、カトリーヌさんもジャンヌさんもぽけーっとした顔をしている。どうしたのかしら。ビルジニは侯爵令嬢ですし、別に問題ないでしょう。
「ビルジニ様ってあの男子生徒みたいな?」
「そうよ」
ジャンヌさんはどうやらビルジニをご存じの様子。いえ、あんな美人が男子生徒の制服を着て歩いていたら学園内で彼女のことを知らない人なんていないでしょうね。
「やっぱりあの子なのね。いい? 魔法遠征では女子は班で同室なのよ? わかっているの?」
「わかってますけど?」
え? 何か問題あります?
クリスティーンもチョロい。
だから男子たちももっと褒めて愛を囁けばいけるって!!!
今回もありがとうございました。





