016 理解できない
担当:四葩
「向こうの王様は、かわいい系男子が好きなんだよな」
「はぁ?」
「いやいや、マジだって。……その反応は正しいけどな」
窺わしげに顔をしかめると、ルイは苦笑いを貼り付けて言う。
「コイツがかわいい?」
有り得ない。どこにそんな要素があるのよ
「あー……ずっと思ってたけど仲悪いな」
「僕はお姉ちゃん大好きだよ」
「黙れ」
「……ならルイス。お姉ちゃんの為に頑張れるよな?」
アンジェとルイスのやりとりを聞いていたルイがルイスの方へ視線を変え、獣が牙をちらつかせながらそう言った。
「うん!任せてよ」
獲物は笑いながら獣に近づいた。
アンジェにはそう見えた。
「よし。じゃあ明日の夜までは待機な。好きなようにしてくれて構わないし何かあればオレかアナリアに訊けばいいから」
そう告げてルイは部屋を出て行く。
「わたしも失礼しますね。おやすみなさい。……ほら、みんな部屋に戻って」
アナリアはアンジェが食べ終えた食器を持って立ち上がり、子どもたちに戻るよう促す。
「ありがとう。おやすみなさい」
アンジェのお礼に微笑み返してアナリアは出て行った。
窓からの日差しで目覚めたアンジェは部屋を出て廊下を歩いていた。
「おはようございます。アンジェさん早起きですね」
「おはよう。ずっと寝てたから目が冴えてしまって」
「そうでしたか。あっ、お腹空きません?昨日軽めのご飯でしたし、今作りますね」
「ありがとう。あたしも手伝うわ」
アンジェとアナリアは横並びになって野菜や肉を切っては大鍋に入れる作業を繰り返す。
「いつもは一人で作ってるの?」
「いいえ。子どもたちが手伝ってくれるんですけど、当番の子が熟睡してて……昨日遅かったでしょう。アンジェさんが手伝ってくださって助かりました」
話しながらも大鍋の野菜や肉混ぜては馴れた手付きで調味料を目分量で入れていく姿にシスターが重なる。
料理をしている後ろ姿に声をかければ、いつだって振り向いて微笑んでくれた優しい、暖かい人。
もういない、会いたい人
それでも、あたしは兄様を選ぶ
「アンジェさん」
アナリアの声で思考から現実に戻ってくる。
「あぁごめん。皿用意するわね。どこにある?」
「戸棚の左端」
質問は別の声音が答えた。
「おはよう。ルイ」
「おはよう。ルイさん」
「おはよう。いい匂いだな」
挨拶を交わしたルイは鼻をひくつかさせ大鍋をみていた。
「もうすぐでできるよ。他の子たち起こして」
「だろうと思って起こしてあるよ」
食器を並べていれば近付いてくる足音が複数重なって聞こえる。
「おはよー姉さん」「お腹空いたー」
ぞろぞろとやってきた子どもたちによって賑わいをみせて食事が始まった。
食べ終えて片付けようとすると「当番があるから」と皿を持っていかれたアンジェは部屋に戻っていた。
「綺麗」
楕円形のつるりとした感触、アメジストよりも濃く中心が黒く見える色合いの石を摘まんでじっくりとみつめる。
「なんだか吸い込まれそう」
あぁ拙い。とても、とても欲しくなる。独占したくなる
魅せる力でもあるのかしら
でも、これは道具。兄様を取り戻すだけの、ただの道具なのだから
瞼を閉じてそう唱えれば独占欲がスゥと身体から抜けていくのを感じ、ひどく疲れた
「仕舞っておこう」
誰も魅入らないように。自分も魅入らせないように
袋の上から石を堅く握り締めた。
「アンジェ起きて」
シナの声が聞こえる
なんだか横たわっている場所が固い
目を開けば、澄みきった夜空
「……そら、えっ空?」
「やっと起きたか。もうそろそろ着くぞ」
水を飲み干したルイが言うがいまいちわからない。というか、どういう状況だこれ
「施設までの道順知られると拙いからな。例の如く眠り続けてもらったよ」
「そういうことね……信用ないわねあたし」
「アンジェが言わなくても記憶に介入してくることができる奴はいる。念のためさ」
嫌みを言っても受け流されるから割に合わない
「じゃあ、オレは帰るな」
唐突にルイが言う。
「国まで案内してくれるんじゃないの」
「あの国いやなんだよ。だから帰る……エルは本当について行くのか?何なら一緒に戻ってもいいんだからな」
「ありがとう。でも恩を返してないから、行く」
エルは首を振りアンジェに寄って来てそう言った。
ルイと別れてから少し歩くと上がりきった橋が見えてきた。
「橋を渡らせていただけませんか?」
「理由はなんだ」
兵に話しかければギロリと睨まれる。
「王の献上したい品があります故」
フード付マントを脱いだルイスを前に出す。すると兵の目が睨むものから見定める目に変わるので、ほくそ笑んだ。
ルイスの格好はアナリアが着飾ってくれてなかなかいい、らしい
曰わく、膝や肘などの関節部を出してより少年性を醸し出したのだそう
うん、わからない。
「ふむ。良い品だ。商人として通過を許可する。これをあちら側にいる者に渡せ」
サラサラと用紙に何か書き綴って渡してきたのを受け取り、下りてきた橋を渡った。
「けっこう簡単に入れたわね」
「ルイスみたいな品は貴重だから」
橋を細々と話しながら歩き、渡りきって先程の用紙を制服を着た女性に渡すと模様が描かれた木札を渡された。
「こちらは外国人に支給される物です。財布代わりにもなりますので店員にお見せください。尚こちらが紛失した場合に於きましては即時国外退去をお願いしますのでご了承くださいませ。夜分遅くですので献上品はこちらの預かりになりますが宜しいですか」
「わかったわ。品は丁重によろしくね」
「畏まりました。では、宿に案内いたします」
機械のように説明をした女性が促すままに連れられて宿に向かった。
彼女は星を眺め歩いていた。
良すぎる瞳は月明かりでも周りがよく見えるし、なにより人目を気にしないで街を歩ける。
この時間に出歩くことが好きなのは彼女の仲間は誰もが知っていることだった。
でも彼女__シイが日の当たる暖かな昼が最も好んでいることは誰も知らない。
「あの女さえいなければ、裏切らなければ」
包帯に被われた左腕を掲げ呟く。
恨み言があの女に届くようにシイは祈った。
お久しぶりです!第2章の再構成が完了したため、投稿再開でございます☆
今回から2章です。前章同様のんびり進んでいくと思われますが、よろしくお付き合いくださいませ!
次回更新は6月12日 20時になります!




