1
アイドルの才能って何だろう。
歌が上手い人か。ダンスが上手い人か。愛嬌があって可愛い人か。
否。歌とダンスが上手い人も、愛嬌があって可愛い人も、現代には腐るほどいる。ただ実力があり、ただ容姿が整っているだけでは埋もれ、普遍的な価値しか付かない。言い換えれば星々だ。
数えきれないほどの星々の中で、一等星になること。それが才能であり、天才ではないか。
「それでは、第15回Colorful*Starsアイドルオーディションの最終審査結果を発表します」
Coloful*Stars事務所内にある、普段は会議室として使われている大きくも小さくもない学校の教室程度のスペースが、今日はアイドルオーディション会場の一室となっていた。私を含めたアイドル候補生六人と、オーディション運営のスタッフが数名、オーディションに審査員として参加した音楽界の著名人が数名、取材に駆け付けた記者が大勢。そして私の目の前には、このオーディションを主催した女性プロデューサーが立っている。
背筋は伸びているか。メイクは崩れていないか。足がふらふらしている気がする。ちゃんと立てているだろうか。どこを見れば良いのか視線が定まらない。下だけは見るな、前を向け。へその位置で重ねた手に生温い汗がじんわりと滲む。瞬きを忘れる。息が詰まる。乾いた口の中が水分を欲し、生唾を飲み込む。
「では、1人ずつ発表します。呼ばれた方は、前に出てきてください」
プロデューサーの声が、空白の頭に届いた。
「1人目、桜乃夢」
「はい」
彼女は天才だった。1等星の中の1等星、シリウスと呼ぶに相応しい本物だった。彼女は私達より先に、前を進む。
「2人目、津麻吹日葵」
また一人、一等星の枠が奪われる。
「3人目、紅詩」
また一人。
「4人目、鞠北菫」
4人が、私達の前を行く。下を見るな。前を、向け。
長い長い時間だった。静かに息を吸い、霧がかった脳を冷やす。微かな嗚咽が、隣から聞こえてくる。正面には、こちらを向いた四人の少女が選ばれた勇者のように佇んでいる。私は、大丈夫、と胸を張る。
「5人目」
大丈夫。大丈夫だから。
「嶺堂蕾実」
はい、と私じゃない誰かの声がした。私の視界にもう1人、1等星が映る。最後の1等星が、前を歩く。
一呼吸置いた後、盛大な拍手が沸き起こった。
拍手。歓喜。笑顔。涙。私に向けられた、視線。それら全てが、私にとって初めて見る光景のように思えた。まるで、自分の瞳に何が映っているのか、方向感覚も解らないブラックホールに放り出されたような、自分の感情すら見失ってしまいそうな、真っ暗闇に包まれる。遠くから、声が聞こえてくる。これからアイドルとして頑張ります。沢山の人に私の歌を聴いてもらいたいです。応援、ありがとうございました。それらの言葉は私のものではなくて、ゆっくりと今の状況を噛んで……飲みこもうとしたけど、しょっぱい味の何かが逆流して、私は吐き出してしまわないよう懸命に、下唇を噛んで、噛みしめて、堪える。
「それでは最後に、穂條李珠さん。残念な結果となってしまいましたが、これまでの日々を振り返って、何か感想はありますか?」
あれ、なんだっけ。あぁそうか、インタビューか。差し出されたマイクに向かって、口を開く。けど、言葉が出てこない。
沈黙が室内に、緊迫の糸を張り巡らす。
震える指でマイクに触ると、記者が安堵したように口の端を緩めた。
私は言うべきことを言うため、開いた口から声を出す。
「……才能って、何なんでしょうね」
空気に、ひびが入った。違う。私は、笑顔で、言うべきことがある、のに。黒い感情が、私の心臓を中心に纏わりついてくる。抗おうとしても、そんな強さは持っていなくて。
ひたむきにアイドルを追いかけて、アイドルを好きだった時間全てが無駄だったのなら。
歌とダンスが上手いことが、可愛い人間であることが、才能があると呼べないのなら。
「すみません、私……──」




