4話 炎の雨 2
診療所の外に広がる景色に3人は息を呑む
ごうごうと燃える炎、辺りから響く断末魔が耳を貫く
「なに……これ…」
「遠隔人形とはいえこの私がこれだけの破壊を感知出来なかった…!?」
エルナとベールが狼狽えていると
「ベール!!考えている暇はありません!!とにかくエルナ達を安全な所まで─」
「きゃあああああああ!?!?」
診療所の奥からミリアの悲鳴が響き、ニムスとベール、それに続く形でエルナも向かう
「ミリアさん!!!」
奥の扉を勢いよく開くとそこには既に長剣を持った大柄の魔物が侵入していた、医師は少しでも抵抗を試みたのだろうか、手に棒を持った状態で上半身と下半身を分かたれていた、そして魔物は寝ているアイカへと手を伸ばそうとしていた
「『雷よ我が敵を貫け!』雷槍!!」
ニムスの背後からベールが飛び出し、雷の槍で魔物の体を貫通させ、そして蹴り飛ばす
「うぎぁ!?」
魔物は壁に叩きつけられ、絶命する
ベールが外へ警戒を向ける中、ニムスとエルナは2人を救出する
「ミリア!怪我は…」
「…エ、エルナ…お医者さまが、お医者さまが」
エルナは医師の亡骸を見て嗚咽が漏れそうになるが何とか堪え、ミリアを立たせる
「…行こう、早くしないと私たちも死んじゃう」
「うん……」
「アイカさんは私が背負って行きます、ベール、付近に魔物の気配はありますか?」
「あぁ、すぐ近くに魔物の気配は無い、急いでここを離れよう」
ベールを先頭にエルナ達は診療所から村の外へと移動する
「ね、ねぇ魔法使いさま…お父さ…村長を助けに行けないの?」
「名乗り遅れたが私はベールだよろしく、そして村長に関しては申し訳ないが諦めてくれミリアちゃん、精々通りすがりで助けるのでいっぱいだ」
ミリアはベールの答えに落胆し、エルナの手を取りついて行く
そしてしばらく走り続け村の外の近く、ベールの馬車を停めている厩舎へとたどり着くがベールが使用した馬を含め全て殺害されていた
「全く徹底的にやってくれる…」
「仕方ありません、このまま外へと向かいましょう」
「そうだな……っ!?ニムス!!後ろだ!!」
ベールが声を荒らげニムスを突き飛ばす
ニムスは何とかアイカを前に抱え、受身を取る
「うぐ…ベール!」
ベールは遅い掛かって来た何かの攻撃を防御魔法で辛うじて防いでいた
「ほう、動けるな」
「お褒めに預かり光栄……多分本体じゃ反応出来なくて防げなかっただろうけど」
そこにはエルナが朝に出会った赤髪の女性が黒い剣を持ってそこに立っていた
「あ、貴女は朝教会に来た……」
「我が名は魔軍将が一人、ヴェンデッタだ」
ヴェンデッタはエルナに向けて剣を向ける
「エルナ・グランフォード、その剣を渡してもらおうか」
「なんで、私の名前を…」
エルナは怯えるミリアを後ろに隠し、後ずさりする
「答えるつもりはない、悪いが力づくて頂くとしようか」
ヴェンデッタは凄まじいスピードで飛び出し、エルナへと迫るが、ベールがそれを阻止する
「させないよ…『暴風よ、刃となり、千の敵を断ち切れ』暴威の旋風!!」
荒れ狂う風の刃はヴェンデッタに届く事なく全て弾き消される
「無駄だ、魔法使い」
ヴェンデッタはベールへと標的を変え、剣を振り上げる、それをベールは再び魔法で防ぐが、連続で振るわれる剣に反応し切れずどんどん身体が削れて行く
「ニムス!!すまないがあまり持ちそうも無い!!走れ!!!!」
「すまないベール…、エルナ、ミリアさん!走りますよ!」
4人は戦いを続けるベールを後に外へと駆けていく
「逃がすか…!」
「させないよッ!!」
ベールは立ちはだかり、ヴェンデッタと自身を捕らえる結界を作り出す
「…結界か」
「僕の遠隔操作人形だからね、勝てずとも君を捕らえる事くらい出来て当然さ」
ヴェンデッタはため息を吐く
「この程度で捕らえたつもりになっているとはな」
「!?」
ヴェンデッタが結界に向けて拳を振るうと、いとも簡単に結界は崩れ去った
(バカな……!?本体ではないとはいえ僕の結界を……)
「ふんっ!」
ヴェンデッタは一瞬だけ動きを止めていたベールを両断し、再びエルナ達の追跡を始める
(すまないニムス…どうか逃げてく…)
そこでベールの遠隔操作人形は機能を停止した
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暗い森の中をニムス達は走り続ける、エルナとミリアはなんとかその後をついて行くが次第に体力を失い、足を崩してしまう
「わぶっ」「きゃっ」
「エルナ!ミリアさん!」
転んだ2人をニムスが急いで起こす
「申し訳ありません2人とも、もう少し、もう少しだけ頑張ってください」
「でも、このまま走ってもあの人がまた…」
「牧師さま…ベールさんも持たないって言ってたし、本当に逃げられるんですか…?」
不安そうにニムスを見上げる2人にニムスは笑顔で返す
「大丈夫です、この先に転移の魔法陣を敷いてある小屋があります、そこから飛べば安全な場所へと向かえますよ、だから大丈夫…」
「…ねぇ、お父さん」
エルナは疑問に思った事を口に出す
「お父さんは、この剣の事を知ってたの?」
「……」
二ムスは口を閉ざす、そして
「ええ」
「知ってるなら教えて!この剣はなんなの!?私がこの剣に選ばれた理由だってわからないよ…」
「…それはおいおい話すとしましょう、まずはあのヴェンデッタという者を振り切る事が優先です」
「…ごめん、そうだね」
ニムスが2人を立たせ再び走り出す、幸いにも付近に魔物はおらず、難なく魔法陣を用意している小屋の前までたどり着く
「よし…2人とも、魔法陣を起動させるので中に立ってください」
ニムスがアイカを魔法陣の中に下ろし、続いてエルナとミリアが中に入った瞬間だった
「ぐあっっ!?」
ニムスの左腕が切り飛ばされ、宙を舞う
「お父さん!!!」
「牧師さま!!」
「ぐ……がぁっ……!」
断面からは大量の血が吹き出し、ニムスはその場に倒れ込む
「ようやく追いついた、子供を連れていながら随分と速く逃げるものだ」
二ムスの背後に立つヴェンデッタがそれを虫を見るような目で眺めていた
「お父さんから、離れて!!」
エルナが怯え、涙ぐみながらガタガタと剣を両手で構え、ヴェンデッタを威嚇する
「ほう、剣を向けてくるか…いいぞ、かかってこい」
「だ、ダメだエルナ…」
「お前は黙っていろ」
そう吐き捨てヴェンデッタは二ムスを蹴り飛ばす、ニムスは壁に激突し、意識を失った
「お父さん!!」
エルナは怒りのままに剣の名を叫ぶ
「極星剣!!!」
…しかし、剣はなんの反応も示さなかった
「…な、なんで?どうして何も起きないの!?」
「エ、エルナ!前!!」
ミリアの叫びに前を向くが既にヴェンデッタは目の前まで迫っていた、エルナは反応すらできず首を捕まれる
「あがっ……ごふぁ…!?」
「さっさと剣を渡せ、へし折るぞ」
ヴェンデッタは手に力を込めエルナを苦しめていく、するとヴェンデッタの頭に石が投げつけられる
「…」
「は、離してよ!エルナを離して!!」
ミリアがもう片方の手に石を持ち、ヴェンデッタを涙を流しながら睨みつける
「羽虫が」
「えっ」
ヴェンデッタはミリアへ向けて指を指すとそこから炎が飛び出し、ミリアを火だるまにする
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」
絶叫を上げその場をのたうち回るミリアは次第に動きを弱め、ついには動かなくなった
「み、ミリア……」
「そうだ、お前が早く剣を渡していればこいつは死なずに済んだんだ」
ヴェンデッタがエルナの剣を奪い取ろうとしたその時、ニムスが起き上がり、ヴェンデッタを体当たりで突き飛ばす
「うぉおおおお!!!!」
「なんだと!?」
衝撃でエルナを手放したヴェンデッタは体勢を立て直し、再びニムスへ向けて飛びかかる
「我が手に宿りしは聖光、邪を断ち切る光の一閃!!光波刃!!!」
ニムスの右手から光が伸び、不意を突かれたヴェンデッタは斬撃をもろに喰らう
「ぐっ…!」
そして二ムスはエルナとアイカが陣に入っている事を確認し、陣を起動させる
「彼方への旅路を開く門よ、我らに新たなる路を開きたまえ!転移魔法!!」
魔法陣が青く輝き、エルナとアイカを包む
「やだ…待ってよお父さん…」
「申し訳ありません、エルナ、あの話は出来そうにもありません」
二ムスは優しい笑顔をエルナに向ける
「どうか、どうか生き延びてくださいそれが私の願いです…」
「待ってよ!!お父さん!!お父さ──」
そしてエルナ達は転移し、何処かへと消え去った
「貴様……!!」
ヴェンデッタが二ムスの胸ぐらを掴むが、既にニムスは事切れていた、ヴェンデッタはニムスの死体をその場に下ろす
「...ちっ」
ヴェンデッタは機能を失った魔法陣を背に小屋を後にするのだった
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この夜、世界各地に大量の魔物が襲来し、蹂躙が始まり、世界は物語のように再び、暗黒の時代に突入する事になる
魔法や武器の解説
遠隔操作人形 テレチェククリ
魔法使い達が使う自分の魔力で操作する人形、ベールの遠隔操作人形は、自分が2人いれば仕事が早く終わるのに、と自分の精神を模倣し、高い魔力を持たせたままの自動化を果たしており、利便性が増している
雷槍 サンダースピア
ベールが放った魔法
雷を収束させ、貫通力を高めた一撃を放つ
暴威の旋風 カルネイジ・ウィンド
ベールが放った魔法
自身の周囲や指定した場所に大量の風の刃を生じさせる
光波刃 シャイニングスパーダ
二ムスが放った魔法
手の先から光の刃を生じさせ切りつける魔法、凄まじい切れ味を誇る
転移魔法 タクス・メタスティア
ニムスが最期に行使した魔法
魔法陣内の対象を指定した場所へ転移させる
魔法陣の内にある物であれば重量、大きさ関係なく転移させられる




