3話 炎の雨
エルナ達は村へと戻り、村の診療所へと駆け込んでいた
「申し訳ありません!先生はいらっしゃいますか!!」
二ムスの切羽詰まった大声に医師が慌てて姿を現す
「どうしたんです牧師さまそんなに慌て…ってやんちゃ娘のアイカ!どうしたんだいその大怪我は」
「申し訳ありません、どうかすぐに診ていただきたい、見ての通りの重傷です」
「分かりました…可能なかぎり、手当てをします」
そしてアイカは診療所の奥へと運ばれていった、ミリアは意識を失ったままではあったが幸いな事に怪我はなかった
二ムスと医師が診療所の奥で治療をしている間、エルナは中のベンチで項垂れていた
空はいつの間にか暗くなっている、かなりの時間が経っていた
「……私が、私が2人を連れてったから…」
エルナが自分を責めていると声を掛ける人物がいた
「やぁ、エルナちゃん……だっけか?」
「はい…あ、貴方はお父さんと一緒にいた…」
「初めまして、私は宮廷魔法使いのベール・グランジという者だ、よろしく」
エルナは差し出されたその手をおずおずと握る
「あぁ、あまり緊張しなくてもいいよ、少しだけ聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事…ですか?」
「あの森で見た破壊の痕跡…あれは君の仕業だね?」
「は、はい…あの時この剣に言われるままに名前を呼んだら魔物も吹き飛ばして森もあんな事になってて…」
「ほう…少しその剣を見せてもらっても?」
「はい、どうぞ…」
ベールはエルナから剣を受け取ると舐めるように観察し始める
「ん〜…鍔に付いているこの紋章、何処かで見たような…」
「確かこの剣は自分の事を極星剣と呼べって…」
「極星剣……極星剣!?」
その名前を聞いたベールは驚愕の表情を浮かべ声を上げる
「本当に、本当にこの剣がそう名乗ったのかい!?」
「は、はいぃ……」
ベールは興奮を深呼吸で収めてから落ち着いて質問する
「君は勇者の物語を知っているかな?光り輝く剣と共に立ち上がったって始まるやつなんだけど」
「あ、はいよく知ってます…つまりこの剣がそれ…って事だったり…?」
「うんそう、そうだとも!あの物語や類似する物語においても極星剣というのは常に世界の危機に対してカウンターとして担い手と共に顕れる…まぁあくまで物語の話だった訳で私も信じてはいなかったのだが」
「でもあの破壊の痕跡と残っていた魔力の残滓、そしてこの剣を見て確信に変わったのさ!あぁ…本当だったらここに直接赴いてもう少しよく観察したかったのだが…」
「ここに赴いて…って今ベールさんはここに…」
「あぁそういえば説明を忘れていたね、実はここにいる私は精巧に作り上げた私の遠隔操作人形でね、本体は王都で仕事をしているのさ」
ベールが手を差し出し、エルナに触れさせると人と変わらない質感の肌、そして体温に驚く
「おお…本物みたい…」
「驚いたかい?まぁここまで作り込んでいるのは私くらいだろうね、まぁ話を戻すけれども」
「は、はい」
「ここまでの説明を踏まえて推論だが述べよう」
エルナは息を呑む
「君は、恐らく勇者として選ばれている」
「…」
「ん?意外と驚かないね、もっと驚いた!って感じで反応するかと思ったけど」
「いや、えっと、正直現実味が…」
エルナがベールと話していると奥から二ムスが戻ってくる
「っ!お父さん!アイカは…」
「大丈夫、とりあえず一命は取り留めました、ですが予断を許さぬ状況に変わりはありません」
「そんな…助からないの?」
エルナの目に涙が浮かぶ、二ムスは大丈夫とそんなエルナの頭を撫でる
「王都であれば腕の良い医師がいるはずです、ベール、申し訳ないが明日1番で王都へ馬を出せないか?」
「あぁ構わんよ、私が乗ってきた馬車を使わせてやる」
「ありがとう、私はアイカのお父さんへこの事を連絡しに行ってきます」
「お父さん!私も…」
「エルナはここでアイカさんの隣にいてあげてください、それにミリアさんもエルナが無事なのを確認したいはずです」
「うん、わかった」
それでは、と二ムスが扉を開けた瞬間だった
開けられた出口から凄まじい爆音と共に熱気が流れ込み、二ムスを吹き飛ばす
「がぁっ!?」
「お父さん!!」
エルナは急いで二ムスに駆け寄る
「だ、大丈夫です、軽く頭を打っただけです…っ!?」
二ムスは立ち上がり、外へと飛び出す
「なんだ…これは……っ!」
目の前には炎が燃え盛り、地獄とも呼べるような光景が広がっていた
──────────────
少し時間は遡り、深い夜の中、エルナ達が去った森の中で赤髪の女性がぽつりと呟く
「…まさかとは思ったが、あの少女が本当に勇者の素質を持っていたとはな」
破壊の跡を進み、剣が刺さっていた台座を撫で、目を閉じる
「聖剣はこの世に再び蘇った、もうすぐだ、もうすぐでもう一度貴方と…」
そして彼女は立ち上がり、詠唱を始める
”暗き業火の雨よ、あらゆる浄土を焼き尽くす災厄よ、我が血を啜り、世を焼き尽くせ”
災厄の炎雨!!
赤髪の女性の手から魔力が天へと向けて放出され、赤く巨大な魔法陣が空に浮かび上がる
村ではその異様な光景を人々が眺めていた
「なんだ、あれ…」
「魔法陣だよな…だよな?」
「急になんの騒ぎ……って何あの凄いの」
人々がざわついていると空から何かが落ちてくる、それは───────
「ほ、炎だ!炎が降って……」
空から降り注ぐ炎が畑を、家を、人を無惨に焼き殺し、阿鼻叫喚の地獄が作り上げられていく
「皆逃げ…ぐぁっ!?」
逃げようとした男性の首を小さな影が飛びかかり何度もボロボロのナイフで突き刺し、絶命させる
「ゴ、ゴブリン!?なんで魔物が…ギャアッ!!」
村民達の逃げ場を塞ぐ様にゴブリンやエルナ達が森で遭遇した巨大な狼の魔物、ブラッドハウンドが立
ちはだかり、無惨な殺戮を続けていく
村の男達が子供達を逃がそうと奮戦するが歯が立たず一人一人、殺されていった
「はぁー…なんでこんな辺鄙な村に僕が駆り出されるのさ全く…」
村の外から気怠そうにため息を着きながら水色の髪の男が現れ、赤髪の女性と魔法伝達を試みる
『ヴェンデッタちゃん、ちゃんと勇者の芽は見つけたんだろうね?』
『はい、今は村の診療所にいると思われます』
『上出来、んじゃ後は僕の手で……』
『いえ、それは私に』
『なんでさ、別に僕がやってもいいだろ』
ヴェンデッタに拒否された男は不服な顔で文句を言う
『私が、やらなくてはならない、そう感じたのです』
『ふーん…まぁいっか、好きにすれば、僕はここでダラダラとして待ってるから』
──────────────
魔法伝達を解除したヴェンデッタは覚悟を決めた表情で村へと走り出した
魔法や武器の解説
極星剣
エルナが手にした剣、強大な力を秘めており、物語にてかつて勇者が手にしていた剣と酷似している
災厄の炎雨 フォンセ・デザストル・フィアンマ
ヴェンデッタが森で発動した魔法、放出した魔力を空に展開し、炎の雨を降り注がせる
魔力の消費が大きいが、高い火力を広大な範囲に展開させる事ができ、殲滅にはうってつけの魔法
遠隔操作人形 テレチェククリ
魔法使い達が使う自分の魔力で操作する人形、ベールの遠隔操作人形は、自分が2人いれば仕事が早く終わるのに、と自分の精神を模倣し、高い魔力を持たせたままの自動化を果たしており、利便性が増している
魔法伝達 マギ・イム
魔法によって特定の相手と離れた位置でも会話をする事が出来る、魔力が無い、もしくは魔力の扱いに慣れていない者は特殊な道具で代用も出来る




