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テスト二日目と三日目

今日も朝からファムゲーの本社に来ている。

昨日は精神的に疲れたので、煩く聞いてくる妹をシカトして、すぐに寝てしまった。


二日目の今日は、昨日の続きから。

基本、グリーンチームはひたすらプレイし続けるだけのようだ。

他のチームはどんな感じなのかというと、フィールドが違うらしい。

なんでも、レッドチームは隠しフィールドで、スーパーレアな動物をずっと捕まえるのを繰り返すんだとか。

出現率は100%に設定してあるらしいが、なかなか捕まえることができないらしい。

同じチームの人が、情報を収集してきたらしく、開始前に仲良くなった人たちに話しているのを盗み聞きした。


さて、今日は草原でアイテム探しでもしようかな。

動物と遭遇したら、逃げればいいだけだし。

問題なく終わりそう。

そう、思っていた。


「黒崎さん、お話をお聞きしたいので、残っていただけますか?」


初日に説明をしてくれた社員さんに呼び止められた。

そして、VR機器がある部屋とは別の部屋に通される。

そこには、男性が一人、すでに座っていた。


「古賀さん、連れてきましたよ」


「残ってもらい、すみません。みんなの動物園のプロデューサーをしている、古賀です」


…………嘘でしょ!

今まで一切メディアに出なかった名プロデューサーが、こんなに若い人だったとはびっくりだ。


「黒崎、るりです」


「どうぞ、お座りください」


促されて椅子に座ると、ここまで案内してくれた社員さんは出ていき、代わりにお茶を運んできた女性の社員さんが入ってきた。


「同席してもらう、田川さん。若い女性と二人っきりっていうのは問題があるからね」


「田川です。古賀さんがセクハラしないか見張りにきました」


茶目っ気たっぷりにそう言う田川さんは、可愛らしい女性だった。

私には、到底持つことの叶わない、女性らしい可愛いさだ。


「古賀さんほどイケメンだったら、女性の方が喜びそうですけどね」


「お、嬉しいこと言ってくれるね」


古賀さんは、若いながらもできる男っていう感じのイケメンだ。

ゲーム業界で働いているより、大企業の営業とか、テレビ業界とかの方が似合っている気がする。

デスクワークが多そうなのに、筋肉もしっかりついていて、何かスポーツでもやっているのかな?


「古賀さん、高校生に手を出すこと自体、犯罪ですからね」


あ、そうだった。

るりの代わりだから、今16歳ってことになっているんだった。


「はいはい。こんな可愛い女子高生が、おっさんを相手してくれるわけないだろ」


拗ねた様子の古賀さんがおかしくて、つい笑ってしまった。


「あ、すみません」


「いいよ。少しは緊張も解けたかな?」


あぁ。わざとなんだ。

私が緊張しているのに気づいて、慣れるまで待っててくれたのかな?

これが大人の余裕というやつか。


「はい」


「じゃあ、みんズーについて聞きたいんだが、よく初日でライフゲージに気づいたね」


私が報告したことについてか。


「森のフィールドで、薬草を見つけたので」


「うん。まず、最初の段階の森では、木の上に登って捕まえるような動物は出てこない。それなのに、木登りをしたってことだよね?」


最初の段階ではってことは、おいおい出てくるってことか。

サルとかだったら怖いな。

観光地でサルに襲われたとか、ニューになってたし。


「プレイヤーの動作チェックと言われたので」


別に怒られるようなことはしていないはずだ。


「なるほど。では、君はいまだに動物をウサギしか捕まえていないのはどうして?現段階で、他の動物を捕まえていないのは、君だけなんだ」


……しまった!

まったく捕まえなかったことによって、目立ったってことか!

うぅぅぅ。あのとき、森でタヌキを捕まえておけばよかった。

いや、虫捕り網だけでタヌキは無理だろ。

なんか、トラップでも仕掛ければよかったのか?


「あの、実は、動物が苦手で…」


ここは正直に言っておいた方がいいだろう。

大人をナメると、痛い目をみる。

お母さんとか、私たち姉妹の嘘を絶対に見抜くからな。

嘘をつくのが下手すぎるのかもしれないけど。


「動物が苦手?どうしてテスターに応募を?」


「姉に頼まれて…」


姉の部分を妹に変えれば嘘じゃない。


「そうか。もし辛ければ、辞めることもできるが、どうする?」


できれば辞めたいが、そんなことをしたらあの妹に一日中呪いの言葉を吐かれそうだ。

絶対にウザい!


「いえ、引き受けたのはこちらですので、最後まで頑張りたいと思います」


「若いのにしっかりしてるなぁ」


「発言がオヤジ化してますよ、古賀さん」


確かに。

何かをするのに、若さを持ち出してきたら、それは老化だと思う。

最近の若い者はとか、若いんだからとか。


「だから、おっさんだって認めてるだろ」


古賀さんはそう言っているが、何歳くらいなんだろうか?

見た目は20代半ばから後半くらいだけど、プロデューサーという肩書きを考えると、30歳は越えてるのかも。


「よし!健気な黒崎さんも楽しめるようなテストにするよ」


「えっと、どういう…」


「まあ、明日からのお楽しみだ」


ようやく、帰ることを許されたが、私でも楽しめるってどういうことだろう?


テスト三日目、朝は古賀さんに会うこともなく、テストプレイが開始された。

草原も森も散策し終えたので、今日はどうしようかな?

同じチームの人たちは、新しいフィールドを解放したらしい。

草原の先に岩場があって、そこには爬虫類系が多くいるんだって。

爬虫類とか絶対に嫌だ。

もしフィールドが解放されても、行くつもりはない。


とりあえず、草原で新しいアイテムがないかを探してみることにしよう。

武器が虫捕り網だけというのは心許ない。

ゲームなのに、銃を手にしてないというのが、どうしても落ち着かないのだ。

ゲームによっては格闘戦をやるものもあるが、やはりメインはガンシューティングだ。

ショットガンとまでは言わないから、せめてハンドガンが欲しい。

まぁ、ないものねだりしてもしょうがないか。


「あ、いたいた」


突然、誰かの声がした。

現段階では、他のプレイヤーとはリンクしていないので、このフィールドには私しかいないはずなのに!


「黒崎さん、おはよう」


身構えつつ、人物を確かめると、そこには古賀さんがいた。

正確には、ゲームの中なので、古賀さんのアバターというべきか。


「古賀さん!?」


「黒崎さんでも、楽しめるようにするって言っただろ?俺がフォローするから、動物を捕まえてみよう」


テストにプロデューサーが乱入!


「それに、ゲーム内じゃ、やましいことはできないから安心して」


そんなことは心配していないが。

どちらかというと、プロデューサーがこんなことをしていいのかという方が心配だ。


「お仕事が大変なんじゃ…?」


発売前の大詰めだと思うのだが、プロデューサーが遊んでていいのだろうか?


「大丈夫だよ。うちのチームは優秀だから」


こうして、古賀さんに連れまわされて、動物を捕まえるはめになってしまった。

まずはウサギで捕まえ方のおさらいをさせられ、草原を歩き回っていると、動物がいることを知らせるマーカーが出現した。


『マーモット

ネズミの仲間で、草原や山岳部に生息する。

臆病な正確なので、人に慣れさせるとよい』


でっかいネズミだー!!

ネズミには似ていないけど、ネズミの仲間って言われるとネズミにしか見えなくなる。


「お、マーモットか。あいつらはすぐ逃げるから、捕まえるには工夫がいるぞ」


すると、私のメニュー画面が勝手に動きだした。


「アイテムは全部揃っているな」


犯人はお前か!

プロデューサー権限で、勝手に人の画面を操作するな!!


「これとこれを合成するとだな…」


待て待て!アイテム合成できるとか聞いてないし!!


「合成できるんですか?」


「本当なら、次の岩場フィールドで解放される機能だけどな」


どうしよう、この人、めちゃくちゃ職権濫用してる。


「勝手なことしていいんですか?他のテスターにバレたら、大変なことになると思いますよ」


「ん?黒崎さんが黙っていれば、誰にもバレないさ。製作側はみんな知っているしな」


この人の自由奔放さに、頭が痛くなってきた。


『NEWアイテム 箱罠』


罠を仕掛けるのか…。

しかし、ただの箱にしか見えん。


「この箱罠は、回収すれば繰り返し使えるぞ」


『箱罠を設置しますか?』


YESを選択すると、草原の中に箱が現れた。

しばらく、離れて様子を見ることに。

箱罠の中には、木の実が餌として入っているようで、少しずつマーモットのマーカーが箱に近づいていく。


『罠が発動しました』


動物が罠にかかると、テロップで教えてくれるのか。

ならば、設置したまま放置でも大丈夫そう。


「ほら、行くぞ」


古賀さんに引きずられながら、罠に近づく。

やだー!

キューキュー鳴いてるしー!!


「マーモットは反撃するようには設定されてないから、触っても大丈夫だ」


罠の蓋を開けようとする古賀さん。

それを必死で止める私。

出てくる出てくる。でっかいネズミが出てくるからやめて!


「そんなに嫌なのか?マーモットは結構可愛いぞ?」


可愛いくても、でっかいネズミなのは変わらないでしょ!

涙目になりながらも、古賀さんにしがみつき、蓋を開けさせないようにする。


「ったく…。ちょっと離れてろ」


頭をポンポンされ、易々と引き剥がされた。

古賀さんは蓋を開けると、簡単に中からマーモットとやらを出す。


「怖かったか?これやるから、鳴き止め」


初めて聞く、古賀さんの優しい声。

マーモットは餌をもらったのか、キューキューと鳴くの止めた。

手慣れた感じで、マーモットを撫でる古賀さんの顔は、やばいくらいとろけていた。

デレ顔とでもいうのか、とにかく破壊力抜群のイケメンがそこにいた。


「黒崎さん、触ってみる?」


ブンブンと力一杯首を振る。


「大丈夫だから、ほら」


片腕にマーモットを抱えたまま、もう一方の手で私の腕を掴んだ。

そして、無理矢理……。

ふわふわというか、もこもこな感触が手のひらから伝わる。

見た目と違って、毛が柔らかい。

マーモットは嫌がる様子もなく、古賀さんの腕の中で大人しくしている。


「な、平気だろ」


ウサギと違って、ただ触るだけなのでなんとか持ちこたえる。


「アイテムから木の実を出して、あげてみるといい」


ハードルを一気にあげられた!

こうして、撫でるだけで一杯一杯なのに!!

再び、勝手に操作され、私の手の中に木の実が現れる。

餌の気配に気づいたのか、マーモットが頭を上げて、鼻をヒクつかせる。

ゆっくり、めちゃくちゃゆっくり手を近づけると、マーモットの方から来た。

器用に木の実を両手で掴み、ポリポリと音を立てて食べ始めた。


「やるじゃん」


また、古賀さんに頭をポンポンされたが、私はそれどころではない。

マーモットが私の手から餌を食べてくれた!


「可愛い…」


触るのは怖いが、食べている姿は可愛いらしい。

時折、ぽろっとこぼしちゃうのを見ると、つい笑ってしまう。


「可愛いな」


少しだけ、ほんの少しだけだが、動物とのふれあいが怖くなくなった気がする。


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